ACSLは第一種型式認証の取得を目指して「PF4-CAT3」の型式認証を申請し、2024年6月27日に受理された。同社としては「PF2-CAT3」に次ぐ2件目、わが国としては5件目の申請受理となる。認証取得までの今後の工程は、適用基準の決定と適合性証明計画の提出・合意と続き、設計に関する検査、製造過程に関する検査ののちにすべての適用基準に適合することを確認されれば、型式認証書の発行となる。

 今回は、第一種型式認証申請直後の同社開発陣らにインタビューし、型式認証取得への取り組みにおける「途中経過」のリアルな声を聞いた。

「PF4-CAT3型」第一種型式認証で大事にしたこと

 PF4-CAT3型は、日本郵便と共同開発した機体で、2024年3月に兵庫県豊岡市で実施したレベル3.5飛行の実証を経て、機体の改良を加え、型式認証を申請したという。

写真:PF4-CAT3(JP2)の外観。6つのプロペラを備え、赤いボディの正面側に日本郵便、ACSLの文字が見える。
日本郵便と共同開発したPF4-CAT3(JP2)。この機体は実証実験用に日本郵便のイメージカラーをあしらっている。
写真:展示されたPF4-CAT3。ボディを含め全体が黒で統一されている。
第10回国際ドローン展では、型式認証申請中のPF4-CAT3が展示された。初公開されたJP2は日本郵便のカラーとなっていたが、展示された機体は黒一色。PF4-CAT3は一般企業や自治体などへの販売も予定している。

 機体の最大の特徴は、物流に耐えうる航続距離とペイロードだ。型式認証の申請スペックとしては、最大離陸重量は25kg未満、ペイロードは約5.0kgで宅配用ダンボールの100サイズ相当(外寸合計100cm以内)が納まり、最大航続距離は35kmを見込む。日本初の第一種型式認証機となったPF2-CAT3と比べて飛躍的に航続距離が伸びている。

写真:機体の上部を跳ね上げる形で開けた様子。内部にはダンボール箱が収納されている。
宅配の荷物は、使い勝手を考慮してボディの上から搭載できる設計とした。

 また、“全天候型”を目指して耐雨・耐風性能などを強化していることも同機の大きな特徴だ。それに加え、共同開発している日本郵便やこれまでのレベル3、レベル4の実績も豊富な協力会社のパイロットからも意見を貰い、持ち運びや取り回し、日常点検・整備などにおいて、できるだけ意見を汲み取るように努めているという。担当者は「実運用は毎日の事なので、訓練を受けた方が安全にそして手軽に運用でき、日頃から整備しやすい機体であることが重要です」と話す。

「いつでもどこでも役に立つドローンに」

「実用的かどうか」に重きを置くACSLが、PF4-CAT3の開発で長距離飛行や積載量と同様に注力しているのが、できる限り“全天候型”とすることだ。

写真:池内康樹氏。
株式会社ACSL 研究開発ユニット ディレクター 池内康樹氏。

「PF2-CAT3を使った実証実験では、雨が降ったら飛ばさない、雨が降りそうなときも逐次状況を判断して対応するという現場での苦労がありました。悪天候でも運用できるということは、産業用ドローンが普及する条件のひとつだと思っています」(池内氏)

 現在、全天候型として改良中であり、具体的に目指している仕様は以下だ。

耐雨性能

写真:ローター部分

 まずは耐雨性能。「完全に雨が入らないようにする」のではなく、あえて「一定の水が中に入っても壊れないように」と、10ミリ相当の雨量を模した散水や自然降雨での電子回路への浸水試験やモーターの動作に影響が生じないことが確認されているという。

耐風性能

 耐風性能は25m/sを目指す。25m/sだと機体を置いた時点で危険を伴う程の強風であり、この場合、宅配業者が配達業務自体を取りやめている可能性もあるなど、実運用上のさまざまな観点で議論を続けているという。現状では、「10m/sの風が吹く中で15m/sの速度で飛行できるのが理想です」(池内氏)と話す。

雪耐性

「雪」は、非常に苦労している気象条件のひとつだという。降雪時は、視程障害が発生しやすく、雨と違って降雪量を数値で定義しにくい。また、みぞれのような水っぽい雪と、サラサラの雪とでは、視程も全く異なる。これらの定義をしっかり定めたうえで対策していく必要があるという。

温度耐性

 現状の温度耐性は、下限を-10℃、上限を50℃に設定している。具体的な配送シーンのひとつとして、「中山間地域で日常的に多少の雪が降るエリア」への冬場の配達業務を想定しており、下限を-10℃としている。一方、夏場は直射日光が当たると40℃を超えてしまうなど、年々進む温暖化の影響も鑑みたという。なお、山間部だけではなく海での活用も想定している。レベル4飛行での役務提供を目的としながらも、具体的に「どの地域で、どんな飛ばし方をしたいのか」について明らかにしながら、当該地域における気象条件を踏まえて機体の仕様を策定しており、機体に対して設定するべき飛行条件を今後更に洗い出し、技術的に適合を図っていくという。

能登半島地震での経験を活かし、「通信を冗長化」

 第一種型式認証機の用途とされるレベル4飛行(第三者上空の目視外飛行)においては、安定した通信も課題とされている。そこで、PF4-CAT3 は“通信の冗長化”を行い、2つの特長を持たせている。

 1つは、「マルチSIM対応」だ。これによってNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3大キャリアの上空利用ができ、飛行中は各キャリアの通信を確保したうえで最適な通信を随時自動的に切り替えて接続する。こうすることで飛行可能エリアを拡大できるという。ACSLは2024年5月に、物流専用ドローンにナビコムアビエーションとElsightが提供する通信モジュール「Halo」を導入すると発表しており、PF4-CAT3の第一種型式認証でもこれを採用した。

 もう1つは、「衛星通信対応」だ。Elsightのソリューションを用いることを想定しており、すでに机上では確認済みだという。能登半島地震で支援活動を行った際に、LTE通信の確保が困難だった経験から、急ぎ改善したポイントだ。

 これについて池内氏は、「通信環境が著しく損なわれても、衛星通信を用いて最低限のテレメトリを確保しながら安全に飛ばせるのが理想です。PF4-CAT3は、主に物流用途ですが、長距離・広範囲な被災状況の確認にも活用できます。地方自治体が災害対策ドローンとして配備しやすい機体を目指しています」と話す。

 ちなみにPF4-CAT3は、2024年6月に発表された「令和6年度能登半島地震を踏まえた有効な新技術及び方策について」において1つの新技術として挙げられている。「悪天候飛行」「自動運航」「長時間飛行」「物資輸送」にも対応済みだという。

 このほか、型式認証の維持で必要になる「整備手順書」の作成や、外部からの乗っ取り防止をはじめとするセキュリティ対策などにも取り組んでおり、PF2-CAT3での型式認証に対する知見がそのまま活かせる部分も多々あるという。

申請受理後のステップと今後の課題

 こうして話を聞くと、詳細な仕様が固まっているような印象を受けるが、申請受理後の各ステップにおいては、国土交通省航空局とのさまざまなやり取りが行われ、仕様の変更や方針に沿って実現可能かなどの検討が続くとされる。

 申請時には、PF2-CAT3での知見や、PF4-CAT3のファーストカスタマーである日本郵便をはじめとする見込み顧客の意見を参考に、ConOps(コノプス)を作成して提出済みだというが、申請受理後は安全基準や均一性基準に鑑みて適用基準を決定し、各項目に対して適合性証明計画を作成、航空局と合意していくことが必要となり、ひとつの山場となる。

写真:小原正徳氏。
株式会社ACSL 研究開発ユニット 小原正徳氏。

「それぞれの項目に対して、机上の解析で証明するものもあれば、地上試験を実施して証明するものもあります。また、実施試験では、いずれかの施設で実施するのか、同じような環境での模擬飛行試験で代替するのか、具体的な説明を行って合意を取ることが求められます」

「最終審査までの過程では、各項目の適合性を証明するため、資料提出や試験を行います。要望などがあれば対応し、改めて証明を行い、最終の書類に落とし込みます。この書類作成が最も時間を要し、メーカーの工夫のしどころと言えるでしょう」(小原氏)

開発リソースと期間・コストの見合い

 PF4-CAT3は、過去の記事でも報じた通り、日本郵便が「業務活用する」と明言している機体だ。実用化・ビジネス化を前提としており、第一種型式認証の取得もまた必須である。

 しかし、ドローン物流市場はまさにこれから立ち上がるという段階で、第一種型式認証の取得には先行投資として相当のコストがかかる。これに加えて、同社に認証取得の経験があるとはいえ、認証に対応できる人員の更なる育成や確保も必要で、当然ここには時間も要する。このため、前回の認証から得られた経験値をベースに、直近の国土交通省航空局の型式認証に係る取得促進の方針も踏まえた認証取得活動の効率向上を、模索しているところだという。

「制度」「機体」「運用」のバランス

 こうした、メーカーとしての苦労や、最終的には「レベル4」を実運用できる運航管理をはじめとした運用者側のスキル育成など、いまだ「三方よし」とはなっていない実情も垣間見える。例えば、FPVカメラにおいても、レベル3.5飛行では「進行方向を中心に周りには有人機や他の無人機、障害物なども含めて誰もいないことを確認して飛行する」と定められているが、さまざまな飛行環境がある中ですべてを正確に判断するのは難しく、誰もが同じ判断を下すとは限らない。

 そのようなことも踏まえて、PF4-CAT3には前方・下向きのカメラに加え、新たに上向きのカメラの追加を検討している。これによって可能な限り周囲を把握できる一方で、機体の軽量化の観点ではデメリットとなってしまう。結果として、実運用では目視に頼るという極めてアナログな手法に帰結してしまう。

写真:機体後方上部のFPVカメラ
機体の後部には新たに上方向を確認するFPVカメラが設けられた。

「ConOpsも改善点や変更点があれば、審査プロセスの中で更新を繰り返さなければなりません。そのため、最初にしっかり完成したものを定義していますが、実際に証明していくなかで無理が生じることもあります。そこは運用側でカバーして頂く必要も出てきます」(池内氏)

 現状では、型式認証取得がビジネスに直結していないため、メーカーが運用者側と協力して、「物流ドローンの市場創造」を推進していく役割を担いながら、物流のマーケットができるまでは他事業の収益に支えられつつ耐えなくてはならない。

 2023年8月にACSLは、型式認証の取得プロセスを解説するセミナーを実施しており、ドローンジャーナルでもレポートしているのであわせて一読いただきたい。

▼ACSL、「レベル4飛行」実現のための要点を詳しく伝授
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/special/1185719.html

2024年8月現在、わが国の第一種型式認証の現状

 第一種型式認証においてはPF2-CAT3が最初の事例となる。2023年3月に型式証明を取得し、初のレベル4飛行にも成功した。その後も同機を使い、ANAHDが2023年11月に沖縄県久米島で実証を行った。さらには、KDDIらが2023年12月に東京都檜原村で実証を行っている。2つ目の事例の「イームズ式E600-100型」は、2023年5月に申請を受理。最大離陸重量25kg未満でペイロード5kgを目指している。そして、3つ目はプロドローンの「PD6B-CAT3型」だ。2023年11月に申請を受理。最大積載重量約20kgで、最大離陸重量が25kgを超える機種として初めて第一種型式認証を申請した。4つ目はWingcopterの「198型」で、2024年3月に申請を受理。最大離陸重量25kg未満でペイロード4.5kgを目指す。eVTOL型としても、海外製としても初めての第一種型式認証申請だ。

 このように、数か月のスパンでさまざまな物流ドローンが第一種型式認証を申請したのち、2つ目以降はまだ取得に至っていないのだが、認証取得機体が増えることは、レベル4を含めた更なるドローンのユースケース拡大、また運用面も含めた業界全体の知見の向上にもつながるという、制度自体のポジティブな側面を忘れるべきではないだろう。早期にラインナップが増えることを期待したい。なおPF4-CAT3は、物流用に型式認証の取得を目指しているが、物流での認証とは別に、赤外線カメラを搭載した災害対応用途など、喫緊に活用が見込まれるユースケースにも役立てられるよう、オプションの検討も急ぎ進めているという。型式認証という一定の安全性・信頼性がある機体からのこうした広がりにも注目したいところだ。