写真:ガベル(裁判官が使う木槌)、PENALTYと書かれた畳じわのある紙

 無人航空機操縦者技能証明(以下、技能証明)の交付件数は、2024年10月31日時点で、一等が2,136件、二等が1万7,252件となっています(国土交通省による)。

 2022年12月から技能証明制度がスタートし、登録講習機関による無人航空機講習が開始しましたが、2024年10月に、国土交通省から登録講習機関に対する厳重注意がなされました。

 航空法では、登録講習機関に対する監督として、適合命令、改善命令、業務停止、登録取消という行政処分が規定されていますが、今回はこれらの行政処分には至らない行政指導として厳重注意がなされたものと考えられます。

 行政指導を公表することについては、その根拠規定や目的、手続き、方法など法的には様々な検討事項がありますが(いわゆる「制裁的公表」の問題)、本稿の主眼はこの点ではないため、その詳細には触れません。

 厳重注意での指摘事項を理解しておくことは、登録講習機関に携わる事業者の皆さまが今後適切に講習業務を運営していくうえで重要になると考えますので、本稿ではまず、指摘事項のうち法令違反とされたものについて取り上げます。

厳重注意での指摘事項

 本件の厳重注意では、以下の4項目の法令違反と10項目の不適切事項が指摘されています。

法令違反(1)入学申請者に提出を求める申請書添付書類の不備及び不保存
(2)審査員研修を受講したのち審査員研修修了証明書の発行を受ける前の審査員による修了審査の実施
(3)実地講習における必修履修科目の未実施
(4)本来修了審査に合格していない者に対する修了証明書の発行
不適切事項(5)通達改正に伴う事務規程変更の未実施
(6)事務規程に規定されていない講習料金の徴収
(7)管理者による適切な定期確認の未実施
(8)模擬飛行計画を提示しない机上試験問題の使用
(9)修了審査の口述試験における審査員による点検項目の指示
(10)実地講習実施計画書に記載すべき事項の未記載
(11)帳簿に関する資料の別個での管理等
(12)講習記録簿における記載事項の未記載
(13)日常点検記録簿の記載方法の誤り
(14)修了審査等における保護眼鏡の未着用

法令違反(1)及び(2)について

(1)入学申請者に提出を求める申請書添付書類の不備及び不保存

  無人航空機の登録講習機関及び登録更新講習機関に関する省令(略)第12条第2項においては、登録講習機関は入学申請書及びその添付書類を備え、無人航空機講習を修了した日から3年間保存することが規定されている。当該規定を踏まえ、貴社の無人航空機講習事務規程(略)6-2において入学申請書の添付書類について規定されており、民間技能認証等を有する者であって講習科目の一部の減免を受けようとする者は、該当する民間技能認証等の写し等を提出させることとされている。しかしながら、貴社においては講習科目の一部の減免を受けようとする者の民間技能認証等の写しが備えられておらず、また、保存されていなかった。

(2)審査員研修を受講したのち審査員研修修了証明書の発行を受ける前の審査員による修了審査の実施

  航空法(略)第132条の72及び省令第6条第4号に基づき、無人航空機講習事務の実施に際して、登録講習機関の講師は、登録講習機関の教育の内容の基準等を定める告示(略)で定める基準に適合する研修を受講することが求められており、告示第2条第3項第2号においては、審査員研修修了証明書を保持している者に限り、登録講習機関の修了審査員として選任することとされている。しかしながら、貴社においては審査員研修は受講していたものの、審査員研修修了証明書が発行される前に、当該修了証明書を所有していない者が修了審査員として修了審査を行っていた。

 (中略)

 これらの事項については、以下の理由により、不適切事項に該当する。

 (1)について、入学時に提出すべき添付書類の不備及び未保存は、省令第12条第2項に違反するものである。

 (2)について、審査員研修修了証明書を保持していない者が修了審査員として修了審査を行っていたことは、法第132条の72、省令第6条第4号及び告示第2条第3項第2号に違反するものである。

厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号)(一部省略)

 法令違反(1)は、経験者として講習科目の一部の減免を受ける受講者について、厳重注意の対象となった登録講習機関(以下、対象機関)の講習事務規定において提出を求めると規定していた民間技能認証等の写し(以下、経験者認定資料)が備えられておらず、保存されていなかったというものです。

 これは法令違反ではありますが、経験者の要件は一律に定められておらず、どのような要件で経験者と認めるかの判断は登録講習機関の裁量に委ねられているため、仮に本件で経験者認定資料が不備・未保存であった受講者が、経験者として扱うことには支障のない者であったのであれば、当該受講者の講習受講自体には問題がなく、書類の備置・保存についての違反ということになります。

 法令違反(2)は、修了審査の審査員となるための研修は受講していたものの、修了証明書が発行される前の者が、修了審査員として修了審査を行ったというものです。審査員研修修了証明書を保持していることが修了審査員として選任される要件とされていることから、この証明書の交付を待たずに修了審査員として選任され、修了審査を行うと、形式的要件を満たしていない修了審査員が修了審査を行ったことになります。

 法令違反(1)と(2)は、関連する法令や告示等に定められた登録講習機関が履行すべき手続きをきちんと確認していれば、容易に違反を回避できたものになります。

法令違反(3)及び(4)について

(3)実地講習における必修履修科目の未実施

  法第132条の72及び省令第6条第1号に基づき、無人航空機を飛行させる能力を習得させるための課程に係る必要履修科目の教育時間等の教育の内容及び教育の方法が告示で定める基準に適合するものであること等が求められている。しかしながら、貴社においては、一等に係る実施講習において、告示に規定される履修科目の一部を修了していない者に対して、修了審査を行い、修了証明書が発行されていた。

(4)本来修了審査に合格していない者に対する修了証明書の発行

  法第132条の72及び省令第6条第9号に基づき、修了審査に合格した者に対してのみ修了証明書を発行することが求められており、無人航空機操縦士実地試験実施基準等(略)において修了審査の実施方法を規定している。実施基準等においては、採点は100点からの減点式採点法とし、各試験科目終了時に、一等無人航空機操縦士実地試験であれば80点以上、二等無人航空機操縦士実地試験であれば70点以上の者を合格とすると規定している。しかしながら、貴社においては修了審査において適切な採点方法がとられておらず、実施基準等において定められる採点方法では合格基準点に達していない者に対して修了証明書が発行されていた。

(中略)

 これらの事項については、以下の理由により、不適切事項に該当する。

(中略)

 (3)について、必要な履修科目を履修していない者に対して修了審査を行い、修了証明書を発行したことは、法第132条の72、省令第6条第1号及び告示第1条第1項に違反するものである。

 (4)について、本来は修了審査に合格していない者に対して修了証明書を発行したことは、法第132条の72及び省令第6条第9号に違反するものである。

厳重注意通知書(令和6年10月25日 国空無機第57901号)(一部省略)


 法令違反(1)と(2)は手続き上の違反とも評価し得るのに対して、法令違反(3)と(4)は、

(3)登録講習機関の教育の内容の基準等を定める告示に規定される履修科目の一部を修了していない者に対して修了審査を行い、修了証明書が発行されていた

(4)実施基準等において定められる採点方法では合格基準点に達していない者に対して修了証明書が発行されていた

 という、必要とされる講習内容や修了審査での採点方法という受講者の合否判定に直接関わる違反になります。

 これらは、本来は無人航空機講習を修了したものとは認められない受講者に対して修了証明書を発行したというもので、技能証明の取得に必要な講習の修了要件を満たしていない者を合格させたことになり、登録講習機関を技能証明取得のための講習事務を担う主体として位置づけている技能証明制度の根幹に関わる重大な違反であるといえます。

 他の法令に基づく資格の講習において、修了のための基準を満たしていなかったことが発覚した場合には、受講者が追加で補習の受講を求められている事例もあり(例えば、フォークリフト運転技能講習、ガス溶接技能講習、車両系建設機械(解体用)運転技能講習における講習時間の不足)、このような事態を招いた場合には、受講者に対する損害賠償等の問題が生じることは避けられないと考えられます。

 今回は登録講習機関としての講習が開始した初年度であったことから、講習内容や採点方法に関する正確な情報の登録講習機関への周知や、登録講習機関側の認識・理解が不十分であったという事情もあるかと思われますが、このような違反は技能証明制度そのものの信頼を損なわせ、適切に講習を実施している講習機関にも悪影響を及ぼすおそれのあるものです。登録講習機関の運営事業者は、基準を満たさない受講者を合格させるという違反を生じさせることがないよう、引き続き留意して講習事務を行うようにしてください。

 もしこのような違反が散見されるようになれば、受講者が、簡単に合格させてくれる登録講習機関を安易に選択しないようにするための仕組みについても検討の余地があると思われます。

岩元昭博 弁護士

2006年東京大学法学部卒業、2007年弁護士登録、2019年University of Washington School of Law(LL.M.)修了、2020年ニューヨーク州弁護士登録。
上場企業・中小企業に関する訴訟・紛争対応、人事・労務、コンプライアンス、組織再編等の企業法務、地方自治体に関する行政法務などを中心に業務を取り扱う。
東京都(法務担当課長)及び国土交通省航空局(無人航空機安全課専門官)での業務経験があり、航空局では2022年12月改正航空法施行によるドローンのレベル4飛行実施に向けた制度整備を担当。
2023年にリーガルウイング法律事務所を開設し、現在に至る。