ドローン関連企業の代表に最新の取り組みや業界に対する想い、経営の考え方などについてインタビューを行う当連載。第4回は、2024年6月5日にVTOL(垂直離着陸固定翼)機としては国内初となる第二種型式認証を取得した、エアロセンス代表取締役社長の佐部浩太郎氏にインタビューした。
同社は、ソニーでのエンターテインメントロボットの研究開発・商品化の経験や、画像認識エンジニアとしての経歴を持つ佐部氏らが、ソニーとZMPの出資を受けて2015年に設立した。以来、写真測量専用ドローン「エアロボ」、ドローン測量に用いる計測用対空標識「エアロボマーカー」、画像解析プラットフォーム「エアロボクラウド」などを提供しており、2020年に国産初のVTOL型ドローン「エアロボウイング」を発表したときも大きな話題を呼んだ。
今回は、「エアロボウイング」が第二種型式認証を取得した背景や想定される用途、今後の発展や立ちはだかる課題などを俯瞰して整理することで、まだ市場に浸透していないVTOL型ドローンの今後を考察する。
エアロセンスがVTOL機の「第二種型式認証」を取得した背景
──VTOL機で国内初となる第二種型式認証の取得、おめでとうございます。
佐部氏:ありがとうございます。結構時間はかかりましたが、ついに取得できました。
──2020年に初めてエアロボウイングを発表したときも、大変話題となりました。
佐部氏:そうですね。「国産のVTOL機がついに」とメディアでも取り上げていただきましたが、当時は一般の方々の間では「これからはドローンの時代なのか?」とマルチコプターですら半信半疑の段階でしたので、VTOL機は「さらにその先」という印象だったかと思います。実際に認知が広がるまで、そこから何年もかかりました。
──当初からVTOL機の開発を手がけておられましたが、どのような運用を想定していたのでしょうか?
佐部氏:当時、海外ではパイプラインなどの“長物”の調査点検にVTOL機が有効だという議論が交わされていました。これを受けて、我々もそのあたりをターゲットとして捉えていました。今回、型式認証の取得に至った「エアロボウイング」も、長物の点検や警備監視に最適な機体となっています。
ただ、型式認証を取得した理由はもっと明確です。我々がVTOL機で注力している河川巡視や砂防堰堤の点検は、発注元をたどれば国交省の河川事務所、河川道路事務所、砂防事務所といった公共機関になります。法改正後の新たな制度への準拠は一定程度必要であると考えられます。その際にニーズに応えられるVTOL機を用意しておかなくてはと考えました。
──型式認証を取得して約2か月が経ちますが、その後の反響はいかがでしょうか?
佐部氏:嬉しいことに、VTOL機を使いたいという声が増えつつあります。例えば、マルチコプターで調査点検しているユーザーからは、「飛行距離がもっと欲しい」という声を耳にします。VTOL機は長時間飛行が最大の特長であり、「次に導入するならVTOL機だ」という流れもでき始めていますので、これからどれだけ普及できるかが勝負だと思っています。
また型式認証の取得で、安全性と製造工程の信頼性を証明できました。安全かつ安定した品質で、何度でも繰り返し再現して製造できる基準を満たしたという証明であり、国から認定を受けることでユーザーも安心して運用できるのです。
VTOL機の第二種型式認証、申請から取得までを振り返って
──エアロボウイングは型式認証の取得をいつから視野に入れていたのでしょうか?
佐部氏:当社製品の測量用ドローンのエアロボですと、主な用途が工事現場での測量なので特定飛行の需要がほとんどありません。一方、VTOL機になると長距離での運用が前提となりますので、必然的に目視外飛行や第三者上空の飛行といった特定飛行に該当します。「型式認証を取得しなければ運用の利便性に欠けるだろう」と、2022年頃から意識はしていました。
そこで、2023年度の事業計画では、型式認証の取得を「優先度高」に位置付けました。2023年6月に、内閣府主導のもと創設された「経済安全保障技術育成プログラム(以下K Program)」に採択されたことで第二種型式認証を取得する体制を整えることができたので、そこから具体的に申請の準備を始め、2023年11月に申請が受理されました。
──2023年11月の申請から2024年6月の型式認証取得まで約半年かかっていますね。
佐部氏:当初は2024年3月の取得を目指し、国交省と話を進めていました。しかし、初めてのVTOL機ということもあり、想定以上に時間を要しました。
最初の頃は証明方針や書類一式を揃えるだけでも大変でした。そのため、試験の実施までにかなり時間がかかってしまい、項目によっては「どのような試験方法でこの項目を証明するのか」と悩むこともありました。また、国から「この方法では、このケースは証明できない」と差し戻され、「このケースも踏まえて追加で試験を行います」といったやり取りにも時間を要しました。
VTOL機が初めてということもあり、審査機関と打ち合わせを重ね、互いに手探りで進めました。ただし、型式認証の取得における安全性や信頼性の証明方法は、国が試験項目などを指示するのではなく、あくまでも申請者側が試験方法などを提案し、証明方法を決めなければなりません。今回は前例がありませんでしたが、認証機が増えていくに連れてテンプレートやノウハウが蓄積されていくので、今後は徐々に簡易的になっていくのではないかと期待しています。
型式認証機は高価?エアロボウイングの価格事情
──型式認証を取得するにあたり、エアロボウイングに改良や変更が加えられているのでしょうか?
佐部氏:実は、それほど大きな改良は行っていません。変更内容にもよりますが、大きく改良してしまうと、再度安全性を証明する必要が出てきます。エアロボウイングは2020年から販売していますので、製造工程や運用方法の枠組みがしっかりしています。今回は、実績を活かす形で、できるだけ変更せずに挑みました。なお、飛行に関わる部分などは変更しない一方で、FPVカメラの画角を広げたり、カラー化するといった変更を行いました。
──型式認証機は、搭載するペイロードも含めて認証されているのでしょうか?
佐部氏:はい、試験時に想定していたペイロードは一緒に認証されています。しかし、カメラやモジュールは新しいものが頻繁に発表されます。重量や重心や取り付け方法が型式認証で定義した範囲であれば飛行試験は必要ありませんが、申請時の部品リストには入っていないため追加の申請・承認が必要です。この手続きを簡略化するための相談は継続しています。なお、エアロボウイングのペイロードは、当社での交換を推奨しています。
──エアロボウイングは調査や点検のほかに、荷物の搭載も可能なのでしょうか?
佐部氏:型式認証を取得する際に、荷物を搭載できる機体として申請しました。重量約1kgまでの荷物を搭載できます。型式認証の試験では、一番重心が偏った箇所に1kgの荷物を搭載しながら飛行させ、安全性を証明しています。
──エアロボウイングの販売価格に変更はありますか?
佐部氏:円安などの影響もあり、原価が上昇した分を現行機に上乗せした程度の価格で提供しています。機体のほか、オペレーター2名による研修がパッケージになっています。
型式認証の取得には時間や労力、コストがかかります。前述した「K Program」(国プロ)に採択されたことで、第一種型式認証機を開発する前段としての第二種型式認証取得という工程をプロジェクトに取り込んだことで、コストアップすることなく機体提供することができています。なお、今後は第二種型式認証機であるエアロボウイング「AS-VT01K」のみの提供になります。
VTOL型ドローン認証機に立ちはだかる課題と今後の展望
──ドローンの普及が始まっているとはいえ、VTOL機はまだ数が少なく周知段階にあります。今後の普及に向けた取り組みや課題はありますか?
佐部氏:クリアしなければならない大きな課題が1つあります。それは、操縦ライセンス制度(国家資格)についてです。
VTOL機の操縦ライセンスは、現行ルールだと「回転翼と飛行機(固定翼機やVTOL機)の両方の操縦ライセンスが必要」と定められています。しかし、飛行機のライセンス制度については、エアロボウイングが初の認証機体ということもあり、現時点では技能試験実施の前例がありません。また垂直離着陸する機体を試験に使えないのでエアロボウイングで試験を受けられないという不備も発生しています。
そもそも、VTOL機の特長は「回転翼機のように簡単に扱うことができ、自動飛行が可能な飛行機」です。実際の運用では飛行機の操縦は必要としないため、現行のライセンス制度は実態とは乖離しています。扱い易さが売りのVTOL機を、滑走路を使って離着陸を行う固定翼機などの扱いが難しいドローンと一括りにされてしまうことで、VTOL機の利便性が十分に発揮できなくなっています。我々は半年かけて審査を受けて型式認証を取得しましたが、操縦ライセンスを所有していないと型式認証機の恩恵をフルに受けることができないので、早急にクリアしたい課題となっています。
──型式認証によって安全性と信頼性が証明されましたが、操縦ライセンスの有資格者がいないため、特定飛行申請の省略等が受けられないのですね。
佐部氏:特定飛行の申請は飛行ごとに行えば良いと言う人もいます。しかし、レベル3.5飛行に限っては、技能証明を前提としているので、そもそも申請できないのです。エアロボウイングは河川巡視や砂防堰堤の点検といった活用を想定していますが、道路や橋の上に補助者を配置して業務に取り組むことを考えれば、通常の目視点検のほうが効率的だという話になりかねません。エアロボウイングを導入するユーザーの多くがレベル3.5飛行で飛ばしたいと考えていることもあり、操縦ライセンス制度の見直しを提案しているところです。
ちなみに、エアロボウイングの場合、直進時は経路から両側30mの空域を確保する規定となっています。また、旋回して経路変更を行う場合は、約200メートルの幅を確保するという規定を設けています。
──調査や点検のほかにも、エアロボウイングが活躍できる業務はありそうでしょうか?
佐部氏:自治体の災害防災、危機管理、土木整備の担当の方々からの引き合いも増えています。というのも、災害発生時に真っ先に動くのは自治体の職員の方々です。能登半島地震では我々も支援に向かいましたが、飛行の調整やニーズの把握に時間を要しました。スムーズに動けなかった中でも、収集して解析したデータを納品すると、とても有用であることに理解を示し、「自分たちが運用しなければいけない」という危機感を持つ自治体が増えたように感じます。エアロボウイングは、1回の飛行で広範囲の情報を迅速に取得できるので災害時にも最適と言えるでしょう。
──最後に、「K Program」や「SBIR」といった国プロの取り組みについてお聞かせください。
佐部氏:K Programでは、10kgペイロードの大型VTOL機を開発しています。2025年9月までに試作機を完成させ、第一種機体認証の取得を目指しています。SBIRではKDDIスマートドローンと共に、データ取得、解析、BIM/CIMのデータベースとの統合など、日常点検業務で使用できる道路管理ソリューションを開発します。ドローンはその中のごく一部なのですが、エアロボウイングをベースに第一種型式認証取得を目指しており、都市部での送電線の点検などでも活用できます。