無人航空機操縦者技能証明(以下、技能証明)の交付数は、国土交通省によると、2024年5月31日時点で一等が1,449件、二等が1万1,554件となり、二等は1万件を超える件数になりました。
他方で、型式認証を取得したドローンの機体件数は、2024年6月5日時点で第一種が1件、第二種が5件となり、今後、型式認証機体と技能証明を用いた特定飛行の件数も徐々に増えていくものと思われます。
本連載の第1回と第2回では、技能証明試験制度の概要について解説するとともに、VTOL機に必要とされる技能証明に関して、今後想定される実務上の課題に触れましたが、その後、VTOL機として初の型式認証(第二種)を取得した機体が登場しました。これにより、VTOL機を運用予定の事業者による技能証明取得のニーズが現実のものとして生じる段階に至りました。今回は、前回指摘した課題点を改めて整理し、現時点での実務的な対応方法について検討します。
なお、本稿はあくまで筆者個人の見解であり、特に断りのない限り、記載内容は執筆日時点におけるものになります。
VTOL機の実地試験に関する課題の整理
VTOL機にはマルチローターと飛行機の技能証明が必要
本連載の第1回で記載したとおり、VTOL機について、型式認証機体と技能証明を用いることで一部の特定飛行の許可承認が不要となります。ただし、マルチローターの技能証明だけでなく、飛行機の技能証明も必要とされています。
もっとも、VTOL機は回転翼による垂直での離着陸を前提としており、スキッドを車輪に交換することができるような一部の機種を除いては、飛行機のように滑走路で離着陸する仕様とされていないのが一般的と考えられます。ところが、飛行機の基本に係る実地試験では、滑走路での離着陸が試験内容に含まれています。滑走路を用いての離着陸の技能が、VTOL機の飛行に際して人身や物件への危険の回避や被害の低減にどれほど役立つのか、VTOL機の操縦に必須の技能とまでいえるのかについては、実態に即した検討が必要と思われます。VTOL機の技能証明については、飛行の安全を確保しつつも、機体の特性に見合った内容で試験内容が再検討されるのが望ましいと考えます。
飛行機の基本に係る実地試験にVTOL機が使用できない現状
飛行機の基本に係る実地試験では、VTOL機を使用することはできないものとされています。すなわち、VTOL機の運用を目的として飛行機の技能証明を取得する場合であっても、実際に運用する機体で実技試験を受験することができないことになります。そのため、VTOL機の運用を想定している事業者にとっては、飛行機の技能証明の取得が極めて高いハードルになるものと思われます。
飛行機の無人航空機講習を実施する登録講習機関が存在しない現状においては、受験者が機体と試験場を用意して実地試験を実施する必要があります。VTOL機の運用を予定しているものの、滑走路で離着陸する機体は運用しない事業者にとっては、実地試験で使用する飛行機の機体を用意すること自体が高い障壁となり、実際に運用しない飛行機を用いた試験準備も相当の負担になるものと考えられます。
課題への対応に向けた検討
上記に関する規定として、無人航空機操縦士実地試験実施基準(2023年7月27日改正(国空無機第93248号)。以下、実施基準)では以下のようにされています。
▼無人航空機操縦士実地試験実施基準
https://www.mlit.go.jp/common/001516515.pdf
【実施基準(一部抜粋)】
1-1 航空法(略)第132条の60の無人航空機操縦士試験員(略)が、法第132条の47第2項に基づき実施する実地試験(法第132条の52第2項において準用する場合を含む。)は、この基準によるものとする。ただし、この基準により難いやむを得ない事由のため、国土交通省航空局安全部無人航空機安全課長(略)の承認を受けた場合は、この限りではない。
1-2 実地試験は、無人航空機操縦者技能証明(略)の資格の区分(一等無人航空機操縦士又は二等無人航空機操縦士)に応じ、次に掲げる無人航空機の種類ごとに行う。
・ 回転翼航空機(マルチローター)
・ 回転翼航空機(ヘリコプター)
・ 飛行機
1-3 回転翼航空機(マルチローター)及び飛行機のハイブリッド型の無人航空機、又は回転翼航空機(ヘリコプター)及び飛行機のハイブリッド型の無人航空機に係る実地試験については、当該無人航空機の形態に応じ、該当する資格の区分に係る回転翼航空機(マルチローター)及び飛行機、又は回転翼航空機(ヘリコプター)及び飛行機の実地試験を行う。
1-4 1-2又は1-3に該当しない無人航空機に係る実地試験については、実地試験の内容について、予め無人航空機安全課長と協議すること。
※読みやすさへの配慮から、規定中の一部の文言を省略しています。