2022年12月の改正航空法施行により、ドローン操縦技能の国家資格である無人航空機操縦者技能証明(以下、技能証明)の制度が開始され、国土交通省によると、2024年4月10日時点での技能証明の交付数は、一等が1,211件、二等が9,653件となっています。
2023年12月に新設されたレベル3.5飛行制度では、レベル3飛行において求められる補助者や看板の配置といった立入管理措置を、機体に搭載されたカメラによる確認で代替できるようになりました。レベル3.5飛行を行うためには、技能証明を保有していることが条件の1つとされていることから、技能証明制度の開始時に想定されていた型式認証機体との組み合わせによる許可承認不要での特定飛行に加えて、技能証明を利用可能な場面が増えたといえます。そこで、今回は技能証明の試験内容と実務上の課題について解説します。
操縦者技能証明試験の概要
技能証明の試験は、(1)学科試験、(2)実地試験、(3)身体検査で構成され、指定試験機関である一般財団法人日本海事協会が試験事務を行います。
(1)学科試験
学科試験は無人航空機を飛行させるのに必要な最低限の知識を問う三肢択一式の試験です。コンピュータを用いた CBT(Computer Based Testing)方式により実施され、全国各都道府県の会場で受験が可能です。試験は一等無人航空機操縦士と二等無人航空機操縦士の区分があり、その概要は以下のとおりです。
【学科試験の概要】
区分 | 問題数 | 時間 | 合格基準(正答率) |
---|---|---|---|
一等 | 70問 | 75分 | 90%程度 |
二等 | 50問 | 30分 | 80%程度 |
一等は1問あたり1分以上の検討時間がありますが、二等は1問あたり40秒弱のペースで解答しなければならないため、正確な知識のインプットと時間配分が重要になります。
なお、マルチローター、ヘリコプター、飛行機ともに試験は共通で、一等の学科試験に合格すれば二等の技能証明書の交付申請にも用いることができます(有効期間内のものに限る)。
学科試験の出題科目は、
① 無人航空機に関する規則
② 無人航空機のシステム
③ 無人航空機の操縦者及び運航体制
④ 運航上のリスク管理
となっています。
各科目の細目は「無人航空機操縦者技能証明に係る学科試験の科目について」で定められており、その内容については、「無人航空機の飛行の安全に関する教則」(以下、教則)で具体的にされています。
学科試験は教則(「3. 無人航空機に関する規則」から「6. 運航上のリスク管理」)の内容から出題され、このうち、「4.3.3 無人航空機の飛行性能」「4.3.5 飛行性能の基本的な計算」「6.1.6 カテゴリーⅢにおけるリスク評価」については一等のみで出題され、一等では計算問題も出題範囲に含まれます。
学科試験の合格者に発行される合格証明番号の有効期間は、学科試験合格証明番号の発行日から2年間のため、有効期間内に実地試験と身体検査に合格して技能証明書の交付申請を行う必要があります。
(2)実地試験
実地試験は、
① 机上試験
② 口述試験
③ 実技試験
からなります。
登録講習機関で無人航空機講習を修了した場合には実地試験が免除されるため、指定試験機関で実地試験を受験する必要はありませんが、登録講習機関での講習を修了するためには、実地試験と同一の内容で実施される修了審査に合格する必要があります。
実地試験の採点は、定められた減点事項に該当すると100点の持ち点から減点される減点方式で採点され、一等は80点、二等は70点が合格基準となります。
① 机上試験
机上試験は多肢択一問題で、設問で与えられた飛行空域やドローンの諸元、飛行計画などから、法令順守、安全確保措置、機体の仕様・限界事項、自動飛行機能の設定などの飛行計画の作成において留意が必要となる事項に関する知識が問われます。
一等は回答時間10分で5問、二等は回答時間5分で4問出題されるので、短時間で設問中に示された情報を正確に把握し、飛行計画における問題点などを読み取ることが必要とされます。
② 口述試験
口述試験は、実技試験の前後に行われ、a)飛行前点検、b)飛行後の点検及び記録、c)事故・重大インシデントの報告及びその対応からなります。
飛行前後の点検と点検結果の記録が正確に行えるかと、事故・重大インシデントについての理解と事故等の発生時における対応に関して必要な知識を有しており、適切に口頭で説明・回答できるかが問われます。
③ 実技試験
実技試験は、実際にドローンを操縦してその操縦能力が評価されます。基本(昼間飛行、目視内飛行かつ最大離陸重量25kg未満)の試験内容は以下のとおりです。
【基本に係る実技試験の試験内容】
機種 | 区分 | 科目 | 制限時間 | 位置安定機能 | 屋外/屋内 |
---|---|---|---|---|---|
マルチローター | 一等 | ① 高度変化を伴うスクエア飛行 | 6分 | オフ | 屋外 |
② ピルエットホバリング | 3分 | ||||
③ 緊急着陸を伴う8の字飛行 | 5分 | ||||
二等 | ① スクエア飛行 | 8分 | オン | 屋外/屋内 | |
② 8の字飛行 | 8分 | ||||
③ 異常事態における飛行 | 6分 | オフ | |||
ヘリコプター | 一等 | ① 高度変化を伴うスクエア飛行 | 8分 | オフ | 屋外 |
② 円周飛行 | 10分 | ||||
③ 高高度飛行 | 15分 | ||||
二等 | ① スクエア飛行 | 8分 | オン | 屋外/屋内 | |
② 円周飛行 | 10分 | ||||
③ 異常事態における飛行 | 5分 | オフ | |||
飛行機 | 一等 | ① 周回飛行 | 10分 | オフ | 屋外 |
② 緊急着陸を伴う8の字飛行 | 10分 | ||||
二等 | ① 周回飛行 | 15分 | オン | ||
② 8の字飛行 | 15分 |
一等と二等の比較 -試験全般について-
一等は立入管理措置を行わない第三者上空での飛行を前提としているのに対し、二等は立入管理措置を行い第三者上空での飛行を予定していないことから、一等の実技試験では二等より高度な技能が求められます。
それを反映した相違として、二等の実技試験は、飛行機を除いて、屋内で実施することができますが、一等は気象条件による影響の大きい屋外で実施する必要があります。ただし、屋根及び柱を有する建築物であって壁がなく吹抜きとなっているもの(これに類する構造のものを含む)の内部における実技試験は、屋外において実施するものとみなされます。
また、一等の基本に係る実技試験は全ての科目をGNSS、ビジョンセンサー等の水平方向の位置安定機能をオフにした状態で行うのに対し、二等では異常事態における飛行のみ位置安定機能オフで行いますが、その他の科目はオンの状態で行います。
一等と二等の比較 -マルチローターについて-
マルチローターについての一等と二等の相違をみると、8の字飛行では、エレベータとラダーを用いた水平方向の複合操作により円形を描いて飛行させる技能が必要とされる点は共通していますが、一等では位置安定機能オフ、二等ではオンという点で難易度が異なります。
スクエア飛行では、二等は高度変化がない直進移動のため、基本的には、ラダーで進行方向へ機首を向けた後にエレベータで直進するという操作の繰り返しとなります(ただし、進行方向の向きにズレが生じた場合には、ラダーやエルロンを用いて軌道を修正することになります)。これに対し、一等では、直進移動中に上昇や下降の高度変化を伴うことから、エレベータとスロットルを用いた垂直方向の複合操作が必要になり、軌道修正や風に対する対応が必要な場合には、さらにラダーやエルロンでの水平方向の複合操作も求められます。
このように、スクエア飛行においては、第三者上空での飛行を想定した一等では、屋外の気象条件のもとで、機体の異常時(位置安定機能オフの状態)であっても、送信機(プロポ)の複合操作により障害物の回避が可能な操縦技能を有することが求められるのに対して、第三者上空での飛行を予定しない二等では、機体正常時(位置安定機能オンの状態)において立入管理区画から逸脱せず進行させる能力が試されるという違いがあります。
(3)身体検査
身体検査では、① 一等の最大離陸重量25kg以上と、② 一等の最大離陸重量25kg未満及び二等とでは求められる基準が異なっています。
① 一等の最大離陸重量25kg以上では、航空機の身体検査基準に準じた基準(国際民間航空条約附属書第1に規定する第三種身体検査基準)とされており、医師の作成した無人航空機操縦者身体検査証明書等が必要となります。
これに対し、② 一等の最大離陸重量25kg未満及び二等では、自動車の運転免許に必要とされる適性検査基準と同等の基準とされていることから、自動車運転免許証の写しを提出することで受検できます。
実地試験に関する実務上の課題
実地試験に関する留意点として、「最大離陸重量25kg未満のマルチローター」以外の実地試験では、試験に使用する機体や試験場を受験者が準備する必要があることが挙げられます。
前回記載のとおり、VTOL機について、型式認証機体と技能証明を用いて許可承認不要で特定飛行を行うためには、マルチローターと飛行機の両方の技能証明が必要となります。
現状では、飛行機の無人航空機講習を行う登録講習機関はまだないことから、受験者が機体と試験場を用意したうえで、指定試験機関で実地試験を受験する必要があり、受験者が手配した試験場に試験員が出張して試験が行われます。
飛行機の実技試験に必要とされる空域は、機体のスペックに応じて異なりますが、ホバリングにより停止することができない飛行機については、マルチローターに比べると相当広い空域が必要になるため、飛行機の試験に適した試験場の準備は、現状では、一般の受験者にとっては容易ではないと考えられます。
また、飛行機の基本に係る実地試験ではVTOL機を使用することはできないため(ただし、昼間飛行の限定変更と目視内飛行の限定変更についてはVTOL機の使用が可能)、実際に運用することを想定しているVTOL機とは異なる機体で実技試験を受験しなければならないという点でも、VTOL機の運用を想定している事業者にとっては、技能証明取得のハードルは高くなると考えられ、これらの点は、今後の課題になってくるものと思われます。
【ドローン事業に役立つ法規制解説】
岩元昭博 弁護士
2006年東京大学法学部卒業、2007年弁護士登録、2019年University of Washington School of Law(LL.M.)修了、2020年ニューヨーク州弁護士登録。
上場企業・中小企業に関する訴訟・紛争対応、人事・労務、コンプライアンス、組織再編等の企業法務、地方自治体に関する行政法務などを中心に業務を取り扱う。
東京都(法務担当課長)及び国土交通省航空局(無人航空機安全課専門官)での業務経験があり、航空局では2022年12月改正航空法施行によるドローンのレベル4飛行実施に向けた制度整備を担当。
2023年にリーガルウイング法律事務所を開設し、現在に至る。