エアモビリティはドローンの延長としてまずモノを運ぶことから始める

 第2部は「日本のドローン産業法整備と課題」と題して、国のドローン行政の取りまとめ役である内閣官房小型無人機等対策推進室から長崎敏志氏、無人航空機としてのドローンを所管する国土交通省航空局から小熊弘明氏が、冒頭にそれぞれの取り組みを紹介した。長崎氏は小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会が今年6月に公表した「空の産業革命に向けたロードマップ2020」を中心に政府の取り組みを説明。特に今年度のロードマップでは、ドローンの新たなユースケースと社会実装に向けた主な論点として、物流、災害対応、警備業、医療という4つの分野での利活用推進について紹介した。

内閣官房小型無人機等対策推進室の長崎敏志内閣参事官。

 また、小熊氏はドローン利用の現状とレベル4実現に向けた法制度の検討状況を説明。国土交通省が行っているドローンの飛行に関する許可・承認では、2015年の航空法改正当時、毎月1000件程度の申請が、今年9月時点ではおよそ5000件超に増えているという。また、ドローンの飛行機会が増えるのにつれて、国土交通省に報告される事故の件数も増えており、平成30年度には79件の事故事例が報告されていると紹介した。

国土交通省航空局安全企画課の小熊弘明課長。

 さらにレベル4に向けた制度設計の方向性については、すでに今年6月に施行された所有者情報の登録に加えて、今後、機体の安全性に関する認証制度や、操縦者の技能に関する証明制度を創設し、運航管理のルールとして飛行計画の通報や事故報告等を義務付けすると説明。また、現在の許可・承認手続きについては、今後飛行のリスクの程度に応じて合理化・簡略化を進めるとし、「今後、ユーザー目線でいかにこれを進めるか、他方でしっかり安全性を確保する、その両者の実現を図っていきたい」(小熊氏)と述べた。

 第2部の後半では登壇者によるパネルディスカッションが行われた。その中で向井氏は「我々としては許可・承認に関する手続きのデジタル化が進んでいれば、制度が厳しくても問題ない。現在はDIPS、FISSとも閉じたシステムであり、申請の都度入力が求められる。制度とシステムは二人三脚であり、官のシステムをAPIとして解放し、GCSの端末で設定すれば許可が下りるといった形になるといい」と要望。これに対して内閣官房の長崎氏は、「方向性としては正しいが、現時点では何が必要かが整理できていない。例えば道路で下水管の工事をするとしたら、下水の工事許可、道路占有許可など、インフラ事業者は歴史の積み重ねもあって、当然のこととしてやっている。一方、ドローンはそこまでに至っていない。しかし、これを好機と捉えて新しい枠組みを作る時からAPI接続できるようにするといったこともできる。今後みなさんの声を聞きながら、何が問題か整理していきたい」と答えた。

複数の関係者との調整を一括で行えるなど、官民連携でシステムを構築する必要があると向井氏。

 また、農林水産省生産局の今野聡氏は「農業分野では農薬散布を中心にドローンが利用されているが、農薬散布では高くても高度5m以下で飛行する。しかしそれでも飛行申請の条件として以前は圃場一枚一枚をFISSに登録する必要があった。農薬散布は雨が降るとできないほか、風向きで散布エリアを変えるなど、都度FISSに登録するのは煩雑に感じられている。そのため、最近はFISSの登録が一部簡略化されるなど運用が改善されている」と紹介した。

 さらに議論はドローンから空飛ぶクルマに広がった。「ドローン物流に取り組む中で、まずは離陸重量25kg未満、そこから25kg以上、そして人を運ぶ前提での大型の物流ドローン、そして有人の空飛ぶクルマと、ドローンが先に実例を作り、そこで作られた制度やシステムが空飛ぶクルマに応用されていくのか、無人機と有人機は独立したものとして政府は考えているのか?」という質問が出た。

 これに対して経済産業省製造産業局の川上悟史氏は、「そこはつながっていると考えている。ドローンのペイロードを大きくしていく中で、人や物を運ぶエアモビリティにつながる。今はエアモビリティが人を乗せることにフォーカスされがちだが、ユースケースの検討会では物を運ぶユースケースについても、人を乗せる手前の段階として議論が進められている。政府としてはまずは“空飛ぶクルマ”を2023年に実現し、その上で人を乗せるものとしては、まずはヘリコプターの技術を参照しながら電動にして、パイロットが乗ったものから自動操縦に舵を切るものへと、中長期的に変わっていくのではないか」と答えた。