日本には化学工業の事業所が4599、石油製品・石炭製品製造業の事業所が912あり、各事業所のプラントは化学工業が918、石油・石炭製造業が182ある(経済産業省「平成29年工業統計調査」)。こうしたプラントの多くは高度経済成長に作られ、高経年化した設備が使い続けられていることが多い。これら老朽化した設備を安全かつ安定的に操業するためには保全が欠かせないが、点検従事者の人材不足や費用の高騰、さらに長期間の点検による設備の不稼働損といった課題を抱えている。

●プラント設備点検における課題
・高度経済成長期に作られたプラントは40〜50年が経過して老朽化が進んでいる
・点検作業従事者の高齢化や、若年就業者の減少による人材不足
・点検費用が高額であると同時に点検期間中の不稼働損が発生するなどのコスト負担

 また、従来の保全に対する考え方は、おもに時間を定めて設備の状態によらずに設備を取り換えてしまう「予防保全」であった。しかし予防保全では健全な設備も交換してしまうことになるほか、逆に定められた時間の前にトラブルが発生することもあり、その場合は突発保守となってしまうなど、効率的な保守ができないという課題があった。そこで近年では設備の状態を常に把握して事前に対策を行う「予知保全」により、業務の効率化や安全確保といった点で、メンテナンス品質の向上に取り組んでいる。ただし、予知保全には頻繁に設備を点検する必要があり、従来の方法では負担が大きい。そこで近年注目されているのがドローンを使った点検だ。

 ドローンによるプラント点検は、タンクや煙突、配管ラックなど、その対象は多岐にわたる。特に人が近づくのが難しいフレアスタックの上部や、煙突内部といった狭所には、ドローンが有効だ。点検は対象物を可視光や赤外線カメラで撮影するほか、ガス検知器によるガス漏れを察知するといった作業が行われる。またドローンを使えば、効率よく情報を収集し、設備の異常兆候を早期に発見することができる。さらにこのデータ化された情報をもとに、高度なメンテナンス計画を作成することが可能になり、結果として予知保全の高度化を実現し、プラント設備の信頼性と保全技術の向上をもたらしてくれる。

防爆仕様の機体やプラントにおける運航・安全管理に対するニーズ

 このプラントのドローン点検への取り組みはすでに数年前から始まっており、ブルーイノベーションやセンシンロボティクス、リベラウェアといったドローンメーカーやサービサーが実証実験を行っている。また、山九のような大手プラント点検事業者も、ドローンの活用に前向きになっている。ただし、現段階ではドローン業界とプラント業界の間で、ドローン点検の捉え方が異なっていると指摘するのは、山九の大山勝彦氏だ。

 「プラント保全の分野でドローンの利用が始まっているが、その多くが、ドローンメーカーが開発した機体を運用しており、現状ではまだプラントの保全を行っているユーザーが目的とする情報が収集できていない。今後はユーザー自らこんな情報が欲しいと、メーカーに対して声をあげてドローンを活用する必要がある」(大山氏)という。大山氏によるとユーザーはプラント点検でドローンのメリット・デメリットを理解し、ドローンを利用する目的を明確化することが大事だとし、こうした目的がはっきりすれば、必要なドローンの機体や搭載機器、安全装備の開発が加速するという。

 こうした現状はドローンメーカーのユーザーニーズに対する認識不足、逆に、プラント業界のドローンに対する知識や理解の不足によるところが大きいという大山氏。「プラント業界のユーザーは欲しいデータを収集するために改善をドローンメーカーに出しても、メーカー側がプラント業界のニーズをできずに改良が進まない。また、汎用ドローンで得たデータではユーザーが満足できないため、ドローン点検の評価が低く、結果としてドローン点検の継続に至らないという悪循環を招いている」(大山氏)という。

 そこで有効なのが、ドローンメーカーとプラント業界のユーザーの間に入って、ユーザーが求める機体や機器、ソフトを作る「サービスプロバイダ」の存在だ。特にプラントの点検では高圧ガス保安法や消防法の下で作業が行えるドローンが求められ、プラント上空飛行に伴う、防爆仕様の機体、墜落・落下対策、さらには各種点検機器を搭載するために十分なペイロード、そして耐風速や対外気温、防水といった耐候性が必要となる。また、ドローンによるプラント点検のための人材育成も欠かせない。ドローンそのものの飛行はパイロット一人でも可能だが、プラント点検においては安全管理者、運航管理者といったチームで行うことが求められる。

 プラント分野におけるドローンの活用は国としても後押ししていて、2019年から経済産業省、厚生労働省、総務省消防庁という座組みの「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」が、「プラントにおけるドローン活用に関する安全性調査研究会」を開催。2019年冬には設備外側の点検、2020年1月には設備内部におけるドローン点検の実証実験を行っている。さらにこうした実証実験を踏まえ、「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン」を作成。こうしたドローン点検の基準ができたこともあり、今後、ドローンによるプラント点検は、ますます普及が進むことが見込まれる。