「日本のドローン産業の発展には専門的な教育機関の整備が必要ではないか」

 セミナーの第1部では「日本のドローン産業利活用最前線と課題」と題して、JDC会員企業のうち、物流、点検、測量などに携わる企業が、これまでの取り組みを紹介。その中から見えてきた課題を挙げた。

楽天の向井秀明ジェネラルマネージャー。

 2016年にいち早く一般向けのドローン配送サービスを実現した楽天の向井秀明氏は、オンライン経済圏の発展に加えて、コロナ禍の中で非接触による配送にも注目が集まるなど、Eコマースがますます増加する一方で、物流の担い手不足などによるコストの増加といった課題に直面しており、楽天としては何らかの自動化ソリューションが必要となっていると現状を述べた。そんな中で同社はドローンや自動配送ロボットに取り組んでおり、2019年には横須賀市でドローンと自動配送ロボットを用いた、一般向けの配送サービスの実証実験を行なっている。

「こうした実証実験をたくさん重ねてきたおかげで、やっと勘所が掴めてきて、一区切りできたと思っている。5年経ったので、そろそろ次のステップに向けてギアを入れ替えてもいいかと思っている。ただ、今、課題として一番感じているのは、高い安全性、信頼性を備えたドローンが出てこないこと。今後、ドローン配送を本格化させるには、こうした安全性や信頼性の高いドローンが欠かせない」という向井氏。

現段階では信頼性の高いドローンがなく、サービス事業者は本格的に事業化できないという。

 楽天の配送サービスにと同社に持ち込まれるドローンの作り手は、そのほとんどがベンチャー企業で、そうした企業では限られた予算で信頼性のテストなどにお金を割けない現状があるという。「本来、人の上を飛ぶドローンは有人航空機レベルまでとはいかないまでも、自動車メーカーがやっているような試験は行って欲しい。ドローンを利用する我々のような事業者は、そういった試験の定量的なデータがないと信頼性を判断できない」と向井氏は説明した。

三信建材工業の石田敦則代表取締役社長。

 2014年からSLAMを使ったドローンによる建築構造物、土木構造物の点検を行っている、三信建材工業の石田敦則氏は、点検支援のための新技術が地方まで普及していないと指摘。「2019年度から点検支援技術性能カタログにドローンが掲載されるようになったが、こうした情報がコンサルタントや地方自治体の担当者レベルまで周知されておらず、せっかくのドローンを使った新技術が生かされていない」という現状を訴えた。また、「ドローンによる構造物点検技術の検証は、現在福島ロボットテストフィールドで行うことができるが、今後、さらに新しい技術を普及させるには、各県に1カ所程度、点検訓練用のフィールドが望まれる」(石田氏)と求めた。

アミューズワンセルフの冨井隆春最高技術責任者。

 ドローン搭載に特化した測量用LiDARなどの開発を行っているアミューズワンセルフの冨井隆春氏は、ドローンの作り手の立場から「日本でもドローンが社会に入り込んできたが、日本製のドローンは海外製品との差がある」と感想を述べたうえで、「何にでも使える“万能なドローン”は作れない。与えられたドローンで何ができるのかを考えるのか、やりたいことに合わせてドローンを開発するのか、をよく考えないといけない」と説明。その上で、「日本製ドローンは海外製のフライトコントローラーをDIYのフレームに載せただけのものがほとんどであり、本当の意味でのドローンメーカーは日本国内に少ない。今後、日本の産業用ドローンを発展させるには、専門的な教育機関が必要ではないか」と冨井氏は述べた。

WorldLink&Companyの須田信也代表取締役社長。

 今年3月に徳島県で、9月には滋賀県でVTOL型ドローン「Wingcopter」を使った目視外長距離飛行実験を行ったWorldLink&Companyの須田信也氏は、航空法や電波法に関する手続きの簡素化を訴えた。「3月に行った徳島の実証実験では、国土交通省や総務省とやり取りしながら、法規制をクリアしていったが、手続きを始めてから飛行が実現するまでに半年かかった。2022年には官民挙げてレベル4の飛行を実現するとしているが、それまでにもっとレベル3による飛行実績を積み重ねる必要がある。しかしこのレベル3飛行に関する申請から承認に時間がかかりすぎている」という須田氏。特に携帯電話ネットワークの上空利用に関する手続きについては、「携帯電話事業者を通じての申請であり、いつ許可が下りるのかがブラックボックス化していて、スケジュールのめどが立たなかった」と実験を振り返る。

“安全”を優先する現場と“安心”を優先する国のスタンスの違い。

 また、航空法上のレベル3飛行の申請においては、「我々現場側と承認側である航空局の認識が大きく違う」(須田氏)といい、「現場は絶対に落とさない“安全”を最優先するが、行政は墜落した際に下に人がいないことによる“安心”を優先する。我々の実証実験は巡航時に固定翼機のように飛行するWingcopterを使用しているが、航空局は万が一墜落しても被害が小さくなる橋の下をくぐるほうがいいという見解だ。しかし、固定翼機では橋の下を通ること自体が極めて危険であり、むしろリスクを高めてしまう」と説明。

レベル3の実証実験の中から見えてきた課題。

 さらに、「国はレベル4を目指しているが、それは物流をイメージしたものになっていて、点検や測量の社会実装には向いていないように思える。今、行われているレベル3の実証実験は、レベル4への通過点のように捉えられているようだが、むしろ幅広くドローンを利活用できるのはレベル3であり、もっとレベル3の飛行実績を重ねていく必要がある」と訴えた。