ドローン事業の機動的な展開を使命とし、KDDIから分社・独立したKDDIスマートドローンは、幅広いドローン活用ニーズに対応したサービスのラインナップを提供している。その中心に位置するのが、点検・監視・災害対応で絶大な能力を発揮するAIドローン「Skydio X10」だ。エッジAIを活用した高度な自律飛行や、高性能カメラによる精密な空間状況の把握を特徴とし、平時と災害時の両面で貢献するフェーズフリー社会を実現する。2024年9月に開催された「ドローンジャーナルカンファレンス 2024」の講演内容を紹介する。

KDDIスマートドローン株式会社 代表取締役社長 博野雅文氏

国内とAPACの市場開拓を通じてドローンの社会実装を推進

 ドローン関連の制度整備や規制改革が進む中、KDDIから分社・独立し、2022年4月よりドローン事業をスタートしたのが、KDDIスマートドローンである。代表取締役社長の博野 雅文氏は、同社の特徴として、①多数の現場フライト実績をもつ経験豊富なオペレーション人材、②関係省庁と連携しつつドローンの国内制度整備をリード、③グローバルドローンメーカーとの連携によるソリューション提供の3つを挙げ、「当社は幅広いドローン活用ニーズに対応できるサービス形態とソリューションのラインナップを提供しています」と訴求する。

 このドローン事業の中核を担っているのが、「点検・監視・災害対応における切り札」と位置付けるAIドローンの「Skydio X10」である。

 2024年5月に締結されたSkydio社とKDDIの資本業務提携に基づき、KDDIはアジア太平洋地域(APAC)11カ国でのSkydio製品の独占販売権を取得。Skydio社のプライマリーパートナーとして、KDDIグループが持つグローバルな販売チャネルを活用し、ドローン事業のグローバル展開に共同で取り組むことになった。このスキームのもとでKDDIスマートドローンも、Skydio X10の市場開拓・拡大の一翼を担っていくことになる。

 「国内でさまざまなユースケースを増やし、APACを中心とした海外に展開し、そこで得た知見やノウハウをふたたび国内にフィードバックするというサイクルを通じて、ドローンの社会実装を推進していきます」と博野氏は語る。

暗闇での自律飛行可能な技術を生かした災害監視への適用

 Skydio X10の最大の特徴は、可視光または赤外線を用いたセンサーアタッチメント「NightSense」を搭載し、エッジAIを活用することで暗所での自律飛行を実現したことにある。要するに、操縦者が現場に行かずともドローン自体が的確な制御を行い、必要なミッションを遂行することができる。

 加えて機体に搭載された高性能なカメラは、空間情報の高精細な3Dモデル化を実現し、デジタル空間による分析・シミュレーションをリアルの判断に反映する。

 これによりSkydio X10は、トンネル点検、屋内建設現場巡視、測量、構造物点検といった従来からのドローンの適用範囲は当然のこと、より広いエリアを対象とした夜間警備やプラント・土木の現場巡視のほか、逆に狭所を対象とした施設内夜間警備や工場の計器確認にいたるまで、幅広い用途にユースケースを広げていくことができる( 図1 )。

図1 Skydio X10により広がるユースケース

 なかでも期待が高まるのが、災害大国と呼ばれるわが国において、人々の生命や生活、地域社会の安全を守る上で欠かせない災害監視への適用だ。

 2024年9月には、年初に起こった能登半島地震で甚大な被害を受けた輪島市や珠洲市などの被災地を、ふたたび記録的豪雨が襲うという痛ましい災害が発生した。この災害に際してもKDDIスマートドローンはKDDIと連携していち早く出動。石川県からの要請に基づいて、土砂災害などで寸断された道路の被災状況をSkydio X10を使って上空から調査し、収集したデータを県庁に提供している。

 このようにKDDIスマートドローンは、災害現場へ迅速にドローンを実戦投入できる体制をすでに整えており、「日本全国どこでも対応が可能です」と博野氏は言う。

 さらに2025年度に向けては、1人のオペレーターが同時に複数の機体を運航することを許可する「1対多運航」の制度整備の動きを受けた対応準備を進めており、「ドローンの社会実装に一層の弾みが付く」と博野氏は見込んでいる。

 もっとも、ドローンを単に“飛ばすだけ”では、さまざまな社会課題を解決するユースケースを広げていくのは困難だ。ドローンを使ってどんなデータを収集し、どのような分析やシミュレーションを行うのか、データ活用のシナリオ策定が必須となる。幅広い領域への社会実装を進めるためには、このハードルをいかにして乗り越えるかが鍵を握る。

 「データ活用の技術的な手法をできるだけユーザーに意識させることなく、結果だけを有効利用できるように、一連のプロセスをSaaS型のビジネスモデルのもとで当社が代行することも検討しています」と博野氏は語り、サービス事業としてのドローンの可能性をユーザーと共に追求していく構えだ。

「地域防災コンビニ」としてローソンとの協業が始動

 さらにその先の将来を見据えたサービス展望として、KDDIスマートドローンが目指しているのは、ドローンポートを活用したフェーズフリー社会の実現だ。

 平時においては最寄りのドローンポートからパトロールや夜間警備などのサービスを提供する一方、激甚災害の発生時など有事に際しては遠隔制御によって災害現場にドローンを急行させ、災害状況の一次確認や行方不明者の捜索活動などを担うという構想だ( 図2 )。

図2 ドローンポートを活用したフェーズフリー社会

 これは決して夢物語ではない。コンビニ大手のローソンと協業した取り組みがすでに始動しているという。

 「ローソンは全国に約1万4000店舗を展開しており、その屋上はドローンポートに非常に適した条件を有しています。『マチの安全・安心を見守る地域防災コンビニ』として、ローソンは高い志を持って共にフェーズフリー社会を推進していく心強いパートナーです」と博野氏は語る。KDDIグループでは石川県とドローンポートを含む包括災害協定の締結を予定しており、まずは能登地方からこの地域防災コンビニの設置を開始し、順次全国へのドローンポートの横展開を図っていく計画だ。

 これを支える通信インフラは既存のモバイル回線だけでなく、Starlinkとの直接通信もサポートすることを予定しており、「日本中を飛行可能なエリアとすべく、“どこでもつながるドローン”を拡大していきます」と博野氏は強調する。

 電気やガス、水道と同様に、ドローンおよびドローンポートは地域に安全と利便性を提供する新たな社会インフラに進化することが求められている。そんなフェーズフリー社会に向けて、KDDIスマートドローンは最前線に立って貢献していく。

問い合わせ先

KDDIスマートドローン株式会社
https://kddi.smartdrone.co.jp/