福島県南相馬市にある「福島ロボットテストフィールド」(RTF)を利用し、入居や製品開発などを進めているロボット開発企業5社が1月21日、東京都港区でメディア向けに成果の発表会を行った。

福島ロボットテストフィールドの全体図。(出典:福島ロボットテストフィールド

 RTFは2020年に開所。約50haの敷地内にはドローンや無人航空機用の長さ500mの滑走路や格納庫のほか、水中、水上ロボット開発用に水没市街地を想定したフィールド、インフラ点検を想定した試験用の橋梁やトンネルなどもある。また約13km離れた同県浪江町内には長さ400mの浪江滑走路があり、ドローンや無人機を2地点間で飛行させるテストもできる。

 2011年3月の東日本大震災とその後に起きた福島第一原発による原子力災害で、南相馬市を含む福島県浜通り地方は甚大な被害を受けた。その復興を目指して、2014年から幅広い分野での産業集積やそれに伴う人口拡大を図る「福島イノベーション・コースト構想」が策定され、RTFは「福島イノベーション・コースト構想」で推進するテーマのうちロボット・ドローンや航空宇宙などの実証試験に利用される施設として位置づけられている。

写真:整列する5人
RTFでの取り組みを発表した代表者たち。左から株式会社クフウシヤ 代表取締役社長 大西威一郎氏。株式会社リビングロボット 代表取締役社長 川内康裕氏。株式会社人機一体 代表取締役社長 金岡博士。テトラ・アビエーション株式会社 代表取締役 中井佑氏。イームズロボティクス株式会社 代表取締役 曽谷英司氏。

 今回の発表会は、RTFをこれまで利用して開発などを進めてきたドローンのイームズロボティクス、空飛ぶクルマのテトラ・アビエーション、インフラ点検用ロボットの人機一体、家庭用ロボットのリビングロボット、自走式ロボットのクフウシヤの5社が成果発表を行った。

イームズロボティクスはドローン開発状況や今後の展開など発表

写真:壇上で話をする曽谷代表
取り組みを発表するイームズロボティクスの曽谷代表。

 発表会ではイームズロボティクスの曽谷代表が、RTFでテストした同社の物流用ドローン「E6150TC」が昨年4月に第二種型式認証を取得したこと、また同じく同社が開発している「E600-100」は、レベル4が飛行可能な第一種型式認証を申請中であることを紹介した。

写真:展示された物流用ドローン「E6150TC」
第二種型式認証を取得した物流用ドローン「E6150TC」。

 運用面では「地域密着型の配送ネットワーク構築を目指す」としたうえで、昨年1月に発生した能登半島地震で出動した経験を踏まえ、手順を平時と災害時に分けて災害時には被災地までドローンで衛星電話を運び、被災地の要望や状況に沿って物資を輸送するという考えを示した。

 さらに昨年3月に牛丼のすき家を運営するゼンショーグループと共同で、南相馬市内のすき家の店舗からRTFまでの約2.5kmの区間でドローンを使い、牛丼を空輸する“空飛ぶ牛丼”の実証試験を行ったと話した。また、今後の展開として佐川急便や福島県内のスーパーと協業して貨物配送を実施していくことも紹介した。

 曽谷代表は「他の地域では、ドローンの実証実験で住宅上空を飛行させると住民からクレームが寄せられることがありますが、南相馬の場合、住民の皆さんの受容性が高いことからクレームはなく、飛行試験などがやりやすい環境にあります」と話した。

2028年空飛ぶタクシーの事業化を目指すテトラ・アビエーション

 空飛ぶクルマの開発を手掛けるテトラ・アビエーションの中井代表が登壇。同社の2人乗りの機体「Mk-7」の開発が完了し試験中であるとしたうえで、2028年には福島県で空飛ぶタクシーを開始し、2030年代に全国で事業展開したいとの方針を述べた。

 また、人機一体の代表を務める金岡博士はすでに鉄道インフラなどで同社のロボットが利用されていることを紹介。今後の方針として、RTFにロボット操縦者のために「ロボット教習所」を設置したいという希望を話した。

 そのほか、リビングロボットの川内代表が、すでに販売を始めている家庭用小型ロボット「ウィーゴ」を紹介。スマホのようにアプリケーションを入れることで見守りやスケジュール管理、運動サポートなど幅広い世代に対応する“パートナー・ロボット”を目指すと述べ、やや大型化した試作機も披露した。クフウシヤの大西代表は今年の大阪・関西万博で視覚障害者向けスーツケース型自走式ロボットの実証実験を行うと話した。

写真:3台の「ウィーゴ」
リビングロボットの家庭用小型ロボ「ウィーゴ」。
写真:展示された試作機
リビングロボットの家庭用ロボットの試作機。ディスプレーで情報を表示する。

RTFは4月に福島国際研究教育機構(F-REI)と統合

 RTFは今年4月、福島復興再生特別措置法に基づき、2023年に新技術の人材育成や研究開発を担う目的で発足した特殊法人「福島国際研究教育機構(F-REI)」と統合される予定だ。福島イノベーション・コースト構想推進機構事務局は、この統合について「これまでの成果を踏まえつつ、福島RTFが今後のロボット産業をけん引して世界に誇れる実証・研究拠点になるよう努めてまいります」とコメントしている。