KDDIスマートドローンが2022年9月1日より、「Skydioあんしんサポート」の提供を開始したことは記憶に新しい。最近ではSkydioを活用した橋梁点検ソリューションの開発にも着手するなど、いわゆる販売代理店の枠を超えた動きが活発なようだ。

 いまはまだ、SkydioのドローンとKDDIのモバイル通信ならびに運航管理システムはつながっていないが、舞台裏ではさまざまな連携の可能性をまさに模索中で、KDDIとスペースXが提供を開始したばかりの衛星ブロードバンドインターネット「Starlink(スターリンク)」とSkydioの連携も視野に入っているという。

 本稿では、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏と、Skydio合同会社代表の柿島英和氏に、自律飛行型ドローンであるSkydioの活用事例や、両社の具体的な連携、今後の展望などについて、対談形式でインタビューを行った。

KDDIスマートドローン代表取締役 博野雅文氏(左)とSkydio合同会社代表 柿島秀和氏(右)

レベル4解禁だけではない、ドローン市場拡大の起爆剤とは

編集部 :最初に、博野さんにお伺いします。現状、ドローンの市場をどのように捉えていらっしゃいますか?

博野氏 :今年はレベル4飛行が制度化され、産業用ドローンが社会により浸透していくきっかけになる年だと感じています。我々がフォーカスしている領域は大きく2つで、1つはモバイル通信を活用した物流や無人監視などの新たな活用領域、もう1つは点検など既存の活用領域への展開です。

 モバイル通信を活用することで、長距離かつ広範囲な飛行が可能になるため、特に物流や監視の領域においては、モバイル通信のニーズが非常に高いと捉えています。ただ、ドローンのモバイル通信対応は、まだまだ黎明期です。モバイル通信の事業者である我々が率先して開拓していかなければと考えています。

 一方で、市場としてすでに広がりを見せている測量や点検の領域においては、適応領域の拡大と浸透が必要だと捉えています。例えば屋内をはじめ、GPSの受信ができない場所にもドローンを適用していくことで、産業領域が拡大します。また、オートフライトなどで操縦を簡易化して、専門領域の技術者だけではなく、より幅広い事業者の方がドローンを使いこなしてデータを取得できる、いわゆるドローンの民主化が、市場拡大には不可欠だと考えていて、その1つの起爆剤になるのが、Skydio社が提供している機体です。

KDDIスマートドローン 博野氏

編集部 :続いて、柿島さんにもお伺いします。「ドローンの民主化」というお話がありましたが、Skydioの登場によってドローンの活用が広がってきたという実感はありますか? また、機体の特徴についても教えてください。

柿島氏 :そうですね。我々日本法人が、KDDIスマートドローンをはじめ、5社のパートナー企業とともにマーケットを開拓してきた成果が少しずつ現れ始めているという感覚はあります。とはいえ、まだまだ開拓のフェーズです。レベル4飛行の制度化と、Skydioの機体の進化に伴って、使っていただけるユースケースも広がっていくと捉えています。

 Skydioの最大の特徴は高精度な自律飛行です。機体に6つのナビゲーションカメラと、メインカメラ1つを搭載して、その取得映像から360度周囲を認識し、障害物を自律的に回避しながら飛行することができます。この自律飛行技術によって、熟練の操縦技術を持つ方でなくても、クラッシュリスクなくドローンを飛ばせます。また、機体制御にマグネットメーターを使っていないので、例えば、電波塔や、高圧線、変電所など、強い電磁波を発するところでも、安定した飛行で点検作業を行うことができます。

 さらに3Dスキャンという、構造物の3次元データを作成するために大量の静止画を自動で撮影できるソフトウェアを、自律飛行技術にシームレスにつなぎ込みました。これによって、ドローンが構造物の周りに自ら飛行ルートを設計し、網羅的に早く正確に撮影できるため、デジタルツインにおいてニーズが高まっています。

 我々は機体メーカーではありますが、ソフトウェアが肝になってくると認識しています。アメリカの本社では、ある場所でドローンを24時間飛ばしてテストを行ってAIにどんどん学習させ、アルゴリズムの精度を高めており、自律飛行技術の向上とさらなる自動化に伴って、ユースケースも広がっていくと感じています。

Skydio合同会社 柿島氏
Skydio 2+

KDDI、Skydio機体での橋梁点検ソリューション開発へ

編集部 :現状のドローン活用事例について教えてください。

博野氏 :我々は、作業員に危険が伴う高所などの点検からドローンに代替していきたいと考え、風力発電や、ダム、橋梁の点検にも力を入れています。例えば、橋梁の点検を長年手がけてこられ、ノウハウや深い知見を持たれている補修技術設計と一緒に、Skydioの機体を活用した橋梁点検ソリューションを構築中です。

 特殊車両を用いる従来の点検手法では、非常にコストがかかります。そうなると、頻繁には点検できない、定期点検対象項目しか点検できない、という話になって、リスクが増大してしまうのです。

 コスト面からデータ取得のハードルが下がれば、点検頻度を上げてデータをもっと蓄積でき、より安全な作業につなげられます。そのため、どうやったらSkydioの機体を活用して橋梁点検をより簡易かつ効率的に行うことができるのか、補修技術設計と議論を交わしています。橋梁点検のプロセスや業務フローまでも、ドローンの活用で変わってくるという議論も進めています。

柿島氏 :首都高技術の道路点検においても、特殊車両を用いて高所に人が登る、足場を組むなどの従来手法の代替にSkydioのドローンを活用することで、少ない人数でもきちんと点検ができるため採用が進んでいます。また、大林組の建設現場においては、建設状況記録にドローンを活用することは不可欠になってきています。

博野氏 :鹿島建設も活用されていましたよね。

柿島氏 :そうですね。鹿島建設は、現場の記録や海辺の崖みたいになっているところのコンクリートのチェックや、トンネルの竣工式の記念撮影など、いろいろなところで試していただいていますね。

 あとは、電力会社の変電所など、電磁波が強いところで活用されるケースも増えました。アメリカでも同様です。

博野氏 :機体の制御にマグネットメーターを使っていない、というのは大きいです。我々も高圧線を点検しているときに、機体が近づけないことがあって、送電線点検の難易度を上げる1つの要因になっていましたが、そのあたりが解決される機体というのは、まさにドローンの適用範囲をぐっと広げてくれる機体ですね。

 また、熟練パイロットの方でなくても運用しやすい機体なので、例えばこれまで点検作業を担ってこられた作業員の方に、Skydioの機体を点検業務に活用していただくことで、各社のDXや効率化を図ることができ、ドローン活用の裾野を広げることにもつながっていくと考えています。

編集部 :非GPS環境下である屋内でも、活用事例はあるのでしょうか?

柿島氏 :アメリカでは、かなり引き合いがありますね。大規模な屋内施設を保有する事業者からは、何かを見る、探す、3Dマップ作成など、さまざまなニーズが出てきています。12月7日には屋内用ポートで充電可能なSkydio Dockを公開する予定なので、そこから実際のユースケースを発表できると思います。

博野氏 :そうですね。私も屋内での活用には大きな可能性を感じています。例えば、物流倉庫での監視業務では固定カメラの死角をドローンで補完して、効率アップを図れますし、今は人間が目視で行っている棚卸業務も、ドローンが自動飛行で代替するということが、未来では当たり前になってくるのではないでしょうか。

 Skydioの機体とDockをセットで運用できれば、ドローンが完全に自律飛行で作業をこなして、戻って充電してまた飛行という、屋内の導入事例の1つの形になってくると思います。

KDDI×Skydio、具体的な取り組み

編集部 :両社は具体的には、どのようなことに取り組んでいますか?

柿島氏 :Skydio合同会社のパートナー企業は、現在5社ありますが、KDDIスマートドローンもその1社に加わっていただいて、一緒に販売やユースケースの開拓など、活用の裾野を広げる活動を行っています。

博野氏 :我々はSkydioの販売代理店という立ち位置もありますが、いわゆる代理店とは異なる点がいくつかあります。1つは、我々自身がソリューション事業を生業にしており、既存の顧客がいるということです。KDDIグループとしても、各領域に営業担当がいるので、全方位的にリーチできるのは大きなポイントになります。

 例えば先ほどお話したように、補修技術設計と一緒に橋梁点検ソリューション開発を手がけていますが、他のパートナーとも、我々のサービスやSkydioの機体を活用いただいて、活用事例をどんどん増やしていきたいと思っています。

 もう1つは、サービスも積極的に開発、提供を進めていることです。9月1日より提供を開始した「Skydioあんしんサポート」はまさに、お客様がSkydioの機体を活用する際、より便利にかつ安心して使えるようなサポートサービスを作りたい、と社内でも話をしていて、第一弾として発表させていただきました。

編集部 :「Skydioあんしんサポート」のサービス内容を教えてください。

博野氏 :大きくは3点あります。1つめは操縦者講習サービスです。熟練の操縦技能を持つ方でなくても簡易に使える機体とはいえ、最初のとっかかりは難しさもあるので、利用を始めるにあたっての講習サービスを行っています。

 2つめは、Skydioの機体を購入する際に、補助金の活用をサポートするサービスです。産業用ドローンの機体購入は、結構な投資になりますので、日本の企業の9割以上を占める中小企業の皆様も含めてドローン活用の裾野を広げていくことを目指すならば、価格面で躊躇するときに後押しするようなサービスは、以前から必要だと考えていました。我々自身がドローンを活用したサービサーとして活動してきた中で蓄えた知見や、お客様との会話の中で見えてきたニーズなども反映して、今回サービス化しました。

 3つめは、機体補償サービスです。当社でSkydio 2+を購入し、この補償サービスを契約した顧客であれば、万が一事故で機体が故障した際は、それが事故であると判定できれば、すぐに代替機をお渡しいたします。国内にはまだあまりない事例のようで好評です。

「Skydioあんしんサポート」(KDDIスマートドローン公式サイトより引用)

柿島氏 :個人的には、「Skydioあんしんサポート」は、とてもリーズナブルだと感じています。やはりKDDIグループとして取り組まれているからこそのサービスですよね。

博野氏 :ありがとうございます。機体補償サービスは、KDDIグループのau損保という損害保険会社と連携して、年額5万5000円(税込)で提供しています。

 とはいえ、これは本当にサービス提供の第一歩だと思っています。今後も、これまでのドローンに関する事業構築の知見や経験、グループ会社のアセットも最大限活用しながら、サービスを拡大させていく予定です。

モバイル通信用のドローン専用モジュールも開発、提供へ

編集部 :ドローンのモバイル通信活用についても、お伺いしたいと思います。KDDIスマートドローンの強みや今後の可能性をお聞かせください。

博野氏 :モバイル通信が搭載されてインターネットにつながっているドローンというものが、当たり前になる時代が来ると思っています。だからこそ、我々は遠隔での制御を見据えて取り組んできました。インターネットを介することで実現できるサービスやユースケースは数多くあると思うので、ここはSkydioとも一緒に開拓していきたいです。

 例えば、ドローンが取得したデータをリアルタイムに多地点で共有する、ドローンの位置情報を使ってドライブレコーダーのような形で保険サービスに適用するなどです。実際に、当社の運航管理システムに連携した機体については、無償で賠償責任保険を付帯する4G LTEパッケージというサービスを提供しています。

編集部 :ドローン専用の通信モジュールも開発したと伺いました。

博野氏 :はい。まずは通信品質を安定させたいということで、耐ノイズ性のある通信モジュールを開発し提供しています。モジュールに搭載したソフトウェアを組み込んで、我々の運航管理システムに接続いただくのですが、機体サイズなどに応じてネットワーク接続やシステム連携の方法はいろいろあるので、メーカーの方々と議論しながら最適な方法を考えていきたいと思っています。

 というのも、モバイル通信を活用するためには、機体に何らかの通信モジュールを搭載する必要がありますが、ただモジュールを搭載するだけだと、通信品質の劣化を招くことも少なくありません。周波数に特性があったり、ノイズ源の発生している周波数帯がモバイル通信の周波数帯に合致していたりするなど、通信品質を安定させるためにはいろいろと対応が求められるのです。

 これまで、周波数ごとの干渉量などを評価してきた中で見えてきた部分があり、モバイル通信の事業者として、通信を安定的に提供しないといけないという思いがあります。私自身もKDDIに入社してからずっと基地局やネットワークの開発と企画、端末の開発と企画と、モバイル通信に全方位的に携わってきた上で、新規事業としてドローンを手がけてきたという背景もあり、ドローン専用の通信モジュールを独自に開発して機体メーカーに提供しています。

柿島氏 :通信の問題は、空飛ぶドローンに限らずだと思います。私も前職ではソラコムという、KDDIグループのIoT部隊に立ち上げから携わってきましたが、ドローンも含めてIoTの仕組みを作るためには、通信は必須で学ばなければいけないと痛感しています。後回しになりがちなところではあるのですが。

博野氏 :空飛ぶドローンに限った話ではないというのは、まさにその通りです。自動運転車など、ほかのデバイスでもノイズ耐性は必須になるので、モジュールの活用の幅も広げていきたいですね。先日、第10回ロボット大賞で総務大臣賞を受賞した水空合体ドローンも、水中ドローンをLTE通信を介して制御できるようにしています。

編集部 :Skydioさんの機体は、モバイル通信対応する予定はありますか?

柿島氏 :はい。KDDIのセルラー回線に対応してPoCを進めるという話はしています。ただし実機への搭載時期は、まだ非公表です。

Skydio Dockも含めた「連携強化」でユースケースを拡大する

編集部 :最後に、今後の方向性について教えてください。

博野氏 :直近では、人が担っている作業のなかでも、大変なところ、人災リスクがあるところを、ドローンに置き換えるということに優先して取り組み、我々自身も橋梁点検などノウハウを蓄積して、より利活用できるサポート体制を構築していきたいと思っています。

 また、2022年8月からつくば市において、内閣府のスーパーシティ調査事業が始まりました。複数台のドローンと自動配送ロボットを組み合わせた輸送や、ドローンの飛行経路を空の道としてデジタル上で可視化するなど、都市連動型空間メディアの構築にも取り組んでいます。3Dモデルを作る際、衛星で撮影した画像に加えて、ドローンで撮影した画像を用いることで、デジタル情報の高精細化が図られるので、3Dスキャン機能を持つSkydioの機体はデジタルツインのこうした取り組みを、強力に後押ししてくれると思います。

柿島氏 :我々は、12月にDockのローンチが控えているので、まずはこれをしっかりと提供して、パートナーからのフィードバックを受けて改善する、という取り組みを地道にやっていきたいと思っています。Dockは、まずは屋内用からのご提供になりますが、ユースケースはかなり広がると思うので、事例のタイムリーな発信もやっていきたいです。

 また、ユーザーの導入ハードルを下げるような取り組みや、運用に乗せるときの手順の構築、ナレッジの共有なども、KDDIスマートドローンさんはじめ5社のパートナー企業さんと一緒に取り組んで、業界を盛り上げていきたいと考えています。

編集部 :KDDIの運航管理システムと、Skydioの機体およびシステムとの連携は、予定していますか?

博野氏 :ここは、今まさにお話しさせていただいている部分です。Skydioの機体は、飛行、データ取得、モデリングまで一気通貫でできて非常に使いやすいのですが、いちばん魅力的なのは、ハードウェアは統一しつつソフトウェアで外部システムと連携できるAPIをすでに揃えているという部分です。

 システム間のクラウド連携や、インターフェースを互いに持ち寄って作ることもできるし、連携の方法はさまざまな可能性がありますが、とにかく顧客にとって適切な方法でやっていきたいです。

柿島氏 :そうですね。ユーザー目線では、おそらく複数のインターフェースは欲しくないと思うので、KDDIスマートドローンが自社プラットフォームを前面に押し出していくのであれば、我々のクラウドとAPI連携して利用いただくのがシームレスで使いやすそうですね。

博野氏 :我々も他社さんのアプリケーションをつなぎ込める仕組みは、すでに構築しているので、ベストなアプリケーションを選択しながら、顧客にとって最も使いやすいサービスを提供することが、我々のミッションだと思っています。

編集部 :連携については、企業さんごとの個別案件を動かしながら、これから最適解を模索していくということですね。

柿島氏 :ユーザーによって、いろいろとご要望は異なるので、いくつかの選択肢を用意しておかないといけないかもしれないですね。

編集部 :10月にはStarlinkが、アジアで初めて日本で提供が開始されました。今後、モバイル通信への対応はPoCを進めるとのことでしたが、衛星インターネットのStarlinkも、Skydioさんの機体で使えるようになる見込みはあるのでしょうか?

博野氏 :そうですね。KDDIがStarlinkの法人向けサービスを年内に開始するということで、我々としてはSkydioさんとの連携をぜひ検討していきたいと思っています。特に、いま通信が提供できていないエリア、例えば山間部や海などは、非常に可能性があると感じています。

柿島氏 :前職でも、海の沖でIoTをネット接続したいというニーズはとても高かったですし、ドローンでも山小屋や灯台など、インターネットがつながらないところ、特に毎日使うわけではないけどピンポイントで使いたいエリアはたくさんあるので、そこにSkydio Dockを設置しておいて自動で飛ばせるような仕組みが構築できれば、非常に意味のあることだと思います。

▼<外部リンク>活用事例:現地調査が3日から1日に ドローンが橋梁点検の常識を変えた
https://kddi.smartdrone.co.jp/solution/case/case-009.html