ACSLは2023年7月~8月、全国4か所で「レベル4飛行実現」をテーマに、初の第一種型式認証を取得したメーカーの立場から、有料セミナーを主催した。開催場所は、東京、大阪、名古屋、福岡で、プログラムは全5回とも同じ。2回目以降は、遠方からの聴講希望者への要望に応える形で、リアルとオンラインのハイブリッドで開催し、延べ100名が聴講したという。

 当日は、ACSL代表取締役 鷲谷氏によるセミナー開催の挨拶と事業紹介の後、制度、機体、運航の実務担当者が登壇し、「レベル4飛行」実施にあたり必要なポイントを詳しく解説した。

 鷲谷氏はビデオメッセージで、このように挨拶した。

「当社は、ロボットの自律制御技術を開発、駆使しながら、国内外への進出を推進している。調査すると、経済安全保障のニーズに応えることができ、軍事ではなくあくまでもB2Bに特化し、かつ用途特化型の機体を開発してきた企業は、世界的にも稀有なポジショニングだ。今後も、日本で培った製品を社会、そして世界に広め、安心安全なドローンの社会実装を実現していくために、みなさまからもフィードバックをいただきながら、業界全体が盛り上がるように取り組んでいきたい」(鷲谷氏)

ACSL鷲谷氏

当日のプログラム概要と登壇者

セッション1:
改正航空法の概要について|国土交通省航空局無人航空機安全課総括課長補佐 勝間裕章氏

セッション2:
レベル4飛行の事例と、使用機体の特徴|ACSL伊藤氏、中村氏

セッション3:
申請手続のプロセスとポイント|ACSL伊藤氏

セッション4:
運航設計と現場の実務について|ドローンオペレーション代表取締役社長 出口弘汰氏

改正航空法の全体像を解説

 セッション1は、国土交通省航空局無人航空機安全課総括課長補佐の勝間裕章氏が登壇して、無人航空機の制度の歩みや、現在の運用状況を解説した。

国土交通省 勝間氏

無人航空機の制度の歩み

 まずは、制度の歩みについてだ。無人航空機の制度に関する、最初の転換点は2015年4月。首相官邸の屋根に落下したドローンが発見されたことをきっかけに、ドローンの運用に関する法令整備について、急速に議論が進められた。また国会でも、皇居や原発の周辺での飛行規制について議論が盛んになった。

 制度整備の第一段階は、「許可承認制度」の創設だ。2015年12月に施行された。これは、空港周辺、高度150m以上、人口集中地区の上空、という一定の「飛行空域」と、夜間飛行、目視外飛行、人または物件との距離が30m未満での飛行、催し場所での飛行、危険物の輸送、物件の投下という一定の「飛行方法」、この2つを総称したいわゆる「特定飛行」については、原則禁止ではあるが、国土交通大臣の許可承認を取得すれば可能である、という制度だ。

 しかし、許可承認件数が右肩上がりに増加し、技術の進歩も目覚ましいなか、「危険な機体が出てきたときにきちんと対策を講じられるよう、ドローンの所有者を把握することが必要なのではないか」という議論が、その後も巻き起こってきたという。

 そこで、規制の第二段階となる「登録制度」が創設された。2020年6月公布、2022年6月施行だ。具体的には、無人航空機を飛行させる際は、所有者や機体の情報を国に登録して登録記号を機体に表示することや、電波的に識別情報を発信するリモートIDを義務化し、同時に、無人航空機として法規制対象となる機体重量を従来の200g以上から100g以上に変更した。

 そのうえで、レベル4飛行を見据え、規制の第三段階となる「機体認証制度」「技能証明制度」が創設された。2021年6月公布、2022年12月施行だ。これによってレベル4飛行は、国土交通大臣の許可承認を得ることで可能になった。また、レベル4以外の飛行についても、規制の合理化が図られた一部の飛行については、機体認証と技能証明を得て運航ルールを遵守することで、従来は必要だった個別の許可承認が不要となった。

制度の歩み

 勝間氏は、制度の歩みの補足として、飲酒時の飛行禁止など、飛行方法の遵守事項が追加されていることや、2023年6月末時点で機体登録件数は35万機を突破したこと、レベル1から4のすみ分けについても言及した。また、そもそもレベル4は「空の産業革命に向けたロードマップ2019」で明確にうたわれたことを皮切りに、2022年度をめどに有人地帯での目視外飛行を可能にするべく取り組んできたことも説明した。

「特定飛行」の説明
機体登録制度について
レベル1~4のすみ分け
レベル4実現に向けて

レベル4飛行に関する法規制

「レベル4飛行」実現に向けた議論の核は、「リスクに応じて厳格に安全性を確保していく」という点だったという。

「リスクが高いものについては、機体の審査や操縦の試験も厳しく、リスクが低いものについてはそこまでは求めない、最もリスクが低いものは機体の登録だけでよい。そして、審査や試験については、民間の力も活用していくといった、制度の基本的な方針をまずは打ち出した」(勝間氏)

 国が示したのは、カテゴリーI、II、Ⅲという3つの区分による、リスクに応じた飛行形態と必要条件だ。

 カテゴリーⅢは、「特定飛行」のうち立入管理措置を行わない飛行で、最もリスクが高く、機体認証と技能証明が必要なうえ、飛行形態に応じたリスク評価結果を反映したマニュアルの作成や運航管理体制を整備した上で、個別の許可承認が必要となる。「レベル4飛行」は、このカテゴリーⅢに含まれる。

 カテゴリーIIは、「特定飛行」のうち立入管理措置を講ずる飛行で、一定以上のリスクがあるため、飛行形態によって対応が異なる。「特定飛行」のなかでも、人口集中地区、夜間、目視外、人または物との距離が30m未満で飛行する場合は、機体認証と技能証明を有し、飛行マニュアル作成などの安全措置を講じることで、原則として個別の許可承認は不要となる。ただし、「特定飛行」のなかでも、空港周辺、150m以上の上空、催し場所の上空、危険物輸送、物件投下という5つの特定飛行と、機体の最大離陸重量が25kg以上の場合は、立ち入り管理措置を講じたうえで、個別の許可承認が必要となる。カテゴリーI は、「特定飛行」に該当しないため、機体登録以外は不要とのことだ。

カテゴリーI、II、Ⅲの説明
新制度の説明

レベル4飛行に必要な新たな制度

 勝間氏は、「ここまでが制度の歩みについて。これからは、レベル4を実現するための制度の各要素について説明する」と話して、「機体認証」「操縦技能証明」という新制度についてと、この2つの制度に合わせて整備された「運航ルール」について説明した。

 特に、運航ルールに関しては、レベル4を含むいずれの飛行においても遵守が求められる「共通ルール」が創設されたことと、「レベル4飛行」では運航管理体制を個別に確認するという、「レベル4特化ルール」が創設されたことについて、詳しく説明した。

 機体認証制度とは、無人航空機の安全基準を明確に定め、その基準への適合性を検査し証明する制度だ。一機ごとの機体認証と、量産機を対象とした型式認証がある。勝間氏は、「有人機でいう耐空証明と型式証明、車でいえば車検と型式指定と似たような制度」だと説明した。「レベル4飛行」に必要となる第一種の検査は国が行い、第二種の検査は原則として国の登録を受けた登録検査機関が行う。

機体認証制度の概要

 技能証明制度とは、ドローンを飛行させるために必要となる知識や能力の試験を行い、それを保有することを証明する制度だ。「レベル4飛行」には一等が必要になる。試験は、二等の技能証明も含めて、指定試験機関である日本海事協会が実施する。

 勝間氏は、「民間のドローンスクールの能力も活用する。車の運転免許証では、指定教習所で教習を受けて卒業検査に合格すれば、免許場では筆記試験だけでOKとなるが、ドローンも国の登録を受けた登録講習機関の講習を修了すれば、実技試験が免除されるという制度になっている」と説明した。

 また、登録講習機関には、一等までの講習が可能な機関、二等のみの講習が可能な機関、更新のみができる機関と、3種類あることにも言及した。

操縦ライセンス制度の概要

 運航ルールには、「共通ルール」と、「レベル4に特化したルール」の2つがある。共通ルールには、飛行計画のDIPSを通じた通報、飛行日誌の作成、事故報告の義務、人が負傷する事故が起きた場合の救護義務がある。レベル4に特化したルールについて勝間氏は、「特にリスクが高い飛行なので、これらの基本的なものに加えて、運航形態に応じたリスク評価を行い、評価結果に基づいたリスク軽減策を立てて、飛行マニュアルに盛り込んだうえで遵守することを求めている」と解説した。

運航ルールの概要

 また、国土交通大臣に報告が必要な事故や重大インシデントについても、イラスト付きの資料を用いて分かりやすく説明した。事故とは、人の死傷のうち、重傷以上の場合、物件の破損、航空機との衝突または接触が該当する。重大インシデントとは、事故になりかねない事象のことで、航空機と衝突や接触しそうになったとき、人が軽傷を負ったとき、機体の制御が不能になった事態、飛行中に発火した事態が含まれる。「有人機の場合は必ず運輸安全委員会による調査対象になるが、無人航空機の場合は一部のものが調査対象になる」(勝間氏)。

事故・重大インシデント

 勝間氏は最後に、「レベル4飛行はやはり極めてリスクが高いので、個別の許可承認において運航管理体制を綿密にチェックしている」と話した。操縦者だけがリスク管理を行うという体制では不十分なので、所有者、整備者、運航管理者、安全運航管理者が総合的に運航管理を行うことが必要で、そういった前提に立ってリスク評価を実施し、その結果を踏まえて飛行マニュアルを作成することが求められるという。

 リスク評価の実施にあたっては、世界標準になりつつあるJARUSによるSORA(Specific Operations Risk Assessment)をベースに福島ロボットテストフィールドが作成したガイドラインを用いることを推奨しているという。リスク評価の手順は、運航計画(CONOPS、コノプス)を作成し、地上リスクと空中リスクを把握し、安全性と保証レベルを決定し、安全目標と阻止性を決定したうえで、運航リスクに応じた運航体制の構築と、その結果を飛行マニュアルに反映するというプロセスになる。

 勝間氏は、「運航管理体制に関する詳しい説明は、ACSL伊藤氏が担当のセッション3に譲る。今後は、レベル4飛行を段階的に人口密度の高いエリアへ拡大していけるよう、制度を活用いただければ」と話して、講演を締めくくった。

運航管理体制