ナイルワークスは2024年3月から、自動飛行型の農業用ドローン「Nile-JZ Plus」(以下、Nile-JZ)の販売を開始した。同機は農林水産省が農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)を通じて実施した「安全安心な農業用ハイスペックドローン及び利用技術の開発」プロジェクトによって開発された。ヤマハ発動機の「YMR-Ⅱ」をベースに使用しており、ナイルワークスが培ってきたモバイル通信経由による自動飛行技術を搭載した国産ドローンだ。今回、ドローンの製造工場(キョウデンプレシジョン)を見学。そこでは、部品の製造から組み立てまで一貫した作業が行われており、品質管理を意識した高度な製造現場となっていた。

ナイルワークスの国産自動飛行農業用ドローン「Nile-JZ Plus」。

 ナイルワークスではNile-JZの量産をEMS(電子機器製造受託サービス)企業であるキョウデンプレシジョンに委託している。ナイルワークスは、国内農業のニーズをエンジニアが直接ヒアリングし、現地現物のものづくりを主軸にしているため、キョウデンプレシジョンのような規模感での「ものづくり協業」を実現しており、委託の背景となる。

 キョウデンプレシジョンは電子機器で使われているプリント配線板(プリント基板)のメーカーであるキョウデンの子会社であり、IoT機器や半導体製造装置、3Dプリンターをはじめとした大小さまざまな電子機器の受託製造を行っている。同社で製造する製品は産業用途向けの製品がほとんどだが、GROOVE Xの家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」のようなコンシューマー向け製品の製造およびサービス・メンテナンスも手掛けている。

 また同社は電子部品の調達からプリント配線板の設計・製造・実装、製品の構成部材である金属部品や樹脂成形部品の製造も手掛けており、成形部品は金型から製作するなど、部品の製造から製品の組み立てまでを一貫して行える、“カスタムパーツを内製できるEMS”をうたっている。製造される製品の多くは少量多品種であり、平均して1ロットあたり100から200程度を製造している。例えば、大型の3Dプリンターでは年間10台前後を生産しており、中には1年に1台のみ製造する工業用洗浄機等もあるという。

静岡県伊豆の国市にあるキョウデンプレシジョンの三福工場(左)と狩野川工場(右)。

製造から飛行試験まですべてを一貫して行える製造工場の体制構築

 Nile-JZは、キョウデンプレシジョンの工場でナイルワークス製の自動飛行ユニットをはじめとした同社オリジナルの部品を製造し、これをヤマハ発動機の機体に搭載する形で生産されている。製造は静岡県伊豆の国市にあるキョウデンプレシジョンの三福・狩野川の2か所の工場で行われており、三福工場ではナイルワークスの自動飛行ユニットの部材を製造し、狩野川工場で機体の組み立て、検査と出荷を行っている。

 三福工場では樹脂製ケース、板金のシャシー、基板実装等を製造している。同工場には金属板を切り出しながら一部の加工ができるファイバーレーザー複合機、曲げ加工を行うプレスブレーキ、樹脂製品を成形する射出成形機など、モノづくりに必要な設備のほとんどが揃っており、Nile-JZのオリジナルパーツで電子部品を除くこれら構成部品のほぼすべてを施設内の設備で製造することができる。一般的にEMSはこうした構成部品を製造する専門のメーカーから部材を調達、供給を受け、これらを組み立てるケースが多いが、キョウデンプレシジョンでは部材そのものを同社の工場内で生産できるのが大きな特長だという。

“部品管理タワー”と呼ばれる電子部品リール入出庫システム。
チップ部品を貼り付けたテープを巻いたリールの形で電子部品は管理されている。
Nile-JZの自動飛行ユニットのプリント配線板にペーストはんだをプリントしている様子。
はんだ付けロボットが基板上に電子部品をはんだ付けする。
できあがった基板は赤外線とX線、人の目で検査が行われる。
自動飛行ユニットのシャシーのアルミ板を切り出すファイバーレーザー加工機。

 ここで作られた自動飛行ユニットをはじめとするNile-JZオリジナルの部品は狩野川工場に送られる。狩野川工場ではヤマハ発動機から供給を受けたドローンの筐体に自動飛行ユニットやRTK-GPSのアンテナ、液剤・粒剤散布装置などを搭載していく。組み立ては専用のスペースで行い、機体を中心にして1台ずつ組み立てるセル方式を採用。作業者はナイルワークスからOJT(On the Job Training:職場内訓練)という形で製造技術の指導を受けたうえで、手順書をもとに作業を行っている。キョウデンプレシジョンはEMSとして受託した顧客製品の製造を長年行ってきており、そのノウハウの蓄積が活かせているという。

狩野川工場3階のNile-JZ専用の製造スペース。
ヤマハ発動機から供給されたドローンの筐体。ドローンとして飛行するための基本的なパーツと、液剤タンクのみが搭載されている。なおスキッドはNile-JZオリジナルの形状となっている。
組み立て作業はナイルワークスの指導を受けた作業者のみが携わることとなっており、この日は2人が組み立て作業を行っていた。

 狩野川工場の3階にある作業スペースでの工程が完了すると、機体は1階の作業スペースに降ろされ、屋外で磁気キャリブレーションを行ったうえで散布装置を搭載して機体の組み立てが完了する。散布装置の搭載をキャリブレーションの後に行うのは、Nile-JZの構造上、モーターの入った散布装置と磁気センサーが近接しており、その影響を抑えるためだ。

工場1階の作業スペースでは、キャリブレーションや飛行検査といった屋外での作業と、散布装置の取り付け、GNSSローバーとの動作確認などが行われる。
完成したNile-JZとパッケージ。

 組み立て終わった機体は定置状態での散布装置の試験を行った後、工場に隣接する飛行試験場に移され、飛行試験が行われる。飛行試験場は工場建屋から40mほど離れた敷地に設けられ、約4m四方がアスファルト舗装されている。これは、Nile-JZの製造のために新たに設けられたものだ。ドローンの飛行はフライアウェイをはじめとした事故防止のほか、狩野川工場が航空法上の人口集中地区(DID)内にあるため、DIDでの飛行を禁じる同法の適用を避けながらも、安全性も十分に確保したロープでの係留飛行によって行っている。また、登録記号を送出するリモートIDは、試験場が屋内扱いのため不要だとしている。

狩野川工場の敷地内に設けられた飛行試験場。約4m四方の飛行スペースとそこに続く通路がアスファルトで舗装されている。

 飛行試験は機体のホバリング、上昇下降、前進後進左右移動といった基本的な動作のほか、上空での散布機能の確認が行われる。試験飛行はナイルワークスの指導を受けた作業者のみが行っており、現在2名が無人航空機操縦者技能証明を保有している。飛行試験中の機体の飛行および動作の状態は機体に記録され、これを飛行後に確認して試験結果の可否を判断している。これらの工程を重ねて飛行試験をクリアした機体は、専用のパッケージに梱包されて、いよいよ顧客に向けて発送される。

試験飛行を行うNile-JZ。定置した状態で液剤散布装置の試験も実施する。(注)撮影上の演出のためヘルメットを被っていません