説明会登壇者は左から、KDDI株式会社 取締役執行役員常務 CDO 先端技術統括本部長 兼 先端技術企画本部長 松田 浩路氏、Skydio,Inc. Chief Corporate Development officer Tom Moss氏、KDDIスマートドローン株式会社 代表取締役社長 博野 雅文氏

 Skydio、KDDI、KDDIスマートドローンは2024年5月13日、3社合同で説明会&デモ飛行を実施した。KDDIは、Skydioに3桁億円を出資して、APAC(アジア太平洋地域)(※1)11カ国におけるSkydio製品の独占販売権を取得したことを発表。本稿は双方の思惑に焦点を当て、当日の様子をレポートする。また注目が高まっているナイトセンスを使った暗所飛行の飛行デモも動画でお伝えする。

※1 APAC(アジア太平洋地域)とは、韓国、台湾、シンガポール、モンゴル、タイ、フィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシア、バングラディシュ、カンボジアの11カ国

KDDI、Skydioに3桁億円出資の決め手は「AIドローン」

 冒頭、KDDI 取締役執行役員常務の松田浩路氏は、5月10日の2024年3月期決算説明会にて見直しを発表した「新中期経営計画」の内容を引用して、「5G通信を中核として新たな事業領域に注力していく、モビリティはその有望株だ。ドローンはそのうちの重要なひとつ」と話した。

 そして、背景にある「2030年、日本市場では644万人の人手不足が予想される」という社会課題を確認したうえで、「航空法改正」「上空での携帯電波利用」「アナログ規制の見直し」といった整備環境とともに、建設、点検、監視、災害対応などの領域でドローン活用がさらに広がるとの見解を示した。

 そのうえで、「本日のポイントは、Skydio X10という驚くべきプロダクトが現れたことだ」と切り出して本題に移った。

「Skydio X10はエッジAI搭載で、4G LTE/5Gにも対応している。これによって遠隔制御のみならず、エッジとクラウドの両方でAI活用ができる。このAIドローンは、ゲームチェンジャーになると確信している。またドローンポートを遠隔から操作する時代も来る。我々はSkydioのテクノロジーを日本向けにアレンジして磨き上げ、ドローンの普及に注力していきたいという強い思いを持って、資本業務提携を締結させていただいた。プライマリーパートナーとして、国内におけるソリューション提供を行いながら、APACにおいては独占販売権を頂いたので、課題先進国である日本の社会課題の解決の実績を積み重ね、国内外で事業を拡大していきたい」(松田氏)

 また松田氏は、米国から寄せられたSkydio CEOのAdam Bry氏からの動画メッセージを紹介したのち、ドローンポートの日本全国1,000か所への配備による10分以内の駆けつけ体制構築、今年2月に株式取得し経営に参画したローソン店舗とのシナジー創出、スペースXの衛星コンステレーションStarlinkとauスマホの直接通信を年度内に開始したのちのドローンへの展開などを、将来的なドローンの活用案として挙げ、事業推進への意欲を示した。

Skydio,Inc. CEO Adam Bry氏からの動画メッセージ

上空モバイル通信も「従量」へ、新プランを発表

 また、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏は、同社が2022年4月にスピンアウトし法人化してからこれまでの歩みをおさらいしたうえで、Skydio X10の上空電波活用による点検や監視の業務効率化、将来的にはStarlinkとの直接通信による遠隔制御のエリアカバレッジを日本全国に広げていきたいとの意向を示した。

 そして、Skydio X10も対象とした上空モバイル通信利用プランに、「従量プラン」を追加したことを発表。従来は、使用しなくても月額料金が発生していたが、従量プランを利用すれば、年間基本料15万円、使わない月は0円とのことで、不定期利用者のニーズに応えた。現時点ではSkydio X10のモバイル通信対応の時期は未定だが、申し込み受け付けは開始しており、全国9か所で5月から7月にかけて飛行デモ会を実施予定だという。

プレスリリースより引用

SkydioがKDDIを選んだ理由は「技術をソリューションに変える力」

 Skydioは、NTTドコモ・ベンチャーズが2020年に出資し(出資額は非公表)、資本と事業面で提携してきた。このようななか、今回はなぜKDDIを選んだのか。Skydio,Inc. Chief Corporate Development officer Tom Moss氏に率直に尋ねると、開口一番「ドローンの子会社を作ってくださったことだ」と回答。

KDDI松田氏(左)とともにSkydio X10を紹介するTom Moss氏(右)

「KDDIは、通信事業者としてドローン子会社を作ってくださった。そこまでドローンを信じてくれる会社は、我々にとってすごく大事だ。なぜなら、現在だけじゃなくて、数年後の世界について同じようなビジョンを持つから。またもう1つの理由は、あんしん機体補償など、お客さんが本当に使いやすい形になるよう、技術をサービス化していく、ソリューションを開発する力がすごい。技術だけではお客さんにとってはメリットにならない。これからはソリューションの方が大事だ」(Tom Moss氏)

当日、KDDIスマートドローン博野氏が紹介した付随サービス

 Tom Moss氏は、今後も変わらず国内パートナーと協働する姿勢を丁寧に説明しつつ、APACについてはKDDIと連携して市場開拓を進める意向を明らかにした。米国本社がすでに、オーストラリアとニュージーランドには注力してきたが、今後はこの2カ国に加えて東南アジアにおけるインフラ点検の需要獲得を狙うという。

 Tom Moss氏の発言に間髪入れず松田氏が「APACへの拡大は我々に期待されている役目だと思っている。社会課題を先取りしている日本でプロダクトを成功させて海外に輸出していきたい」と語ったことも象徴的だった。

<参考資料>
NTTドコモ・ベンチャーズ「AIによる自律飛行型ドローンを開発するSkydio社への出資について」(2020年7月14日)
NTTドコモ「非GPS環境下での自律飛行を実現する北米ドローンメーカーSkydio社との協業に向けた合意」(2020年1月22日)

米国におけるSkydio X10の活用事例

 Skydio X10は、米国では2023年12月に販売が開始されている。Tom Moss氏は、「従来機種との最大の違いはAIの処理能力が10倍になった点だ」と断言する。手元のプロポで数分以内に3Dモデリングを確認できたり、オプション製品のナイトセンスを用いた夜間や暗所での障害物回避も、AIの恩恵だという。加えて、カメラ性能向上や、防水防塵 IP55等級対応も、顧客の要望に応えたバージョンアップだ。

「すでに官民の各所で導入が進んでいる」とTom Moss氏は、さまざまな活用事例を紹介して、Skydio X10の有用性を示した。例えば、ラスベガス都市圏警察が災害時の捜索や夜間の監視など多様な用途で毎日Skydio X10を飛ばしていること。American Electric Powerが発電所の点検でほぼ毎日活用していること。ニューヨーク市警察ではSkydio X10とSkydio 2+およびドローンポートを常設して遠隔で運用し、有事の際の駆けつけに用いていることなどだ。またこのほかにも下記の動画には事例紹介を載せている。日本国内でのユースケースとしても参考になるものがあるのではないだろうか。

Tom Moss氏によるSkydio X10活用事例の紹介
Skydio X10導入企業による活用方法の紹介

Skydio X10による暗所障害物回避の飛行デモ

 説明会終了後にリアル会場では、Skydio X10による各種飛行デモが行われた。担当は、KDDIスマートドローン所属のパイロットでX10 マスター・インストラクターの資格を取得した浦裕樹氏と、KDDIスマートドローンアカデミー講師で同じくマスター・インストラクターの下鶴崇氏

 まずは、屋内照明下でのビジュアルカメラによる障害物回避や、ズームカメラで後方の文字を読み取る様子を紹介し、続いて、ナイトセンスを用いた障害物回避やサーマルカメラへの切り替えなど、さまざまな飛行デモを披露した。

屋内照明下での飛行デモ
ナイトセンスを用いた飛行デモ