大和ハウス工業とNTTコミュニケーションズは2024年3月18日、物流施設におけるドローン巡回点検の実証実験を行い、その模様を報道関係者に公開した。施設の大型化により、共用部の設備点検にかかる歩数が1フロア1回あたり1万歩にもなる状況がある中、作業負荷を大きく減らすための技術として、実用化を進めているという。
物流施設の大型化で、点検のたびに1万歩歩く?ドローンの屋内飛行による無人点検が求められる理由
大和ハウス工業とNTTコミュニケーションズは、物流施設における無人点検管理の実現に向けて協業することを2023年7月27日に発表。ドローンやAIなどの先進技術を活用し、あらゆる物流施設で導入できるソリューションの開発を目指している。
今回のデモンストレーションは、大和ハウス工業が運営するマルチテナント型物流施設「DPL久喜宮代」(埼玉県宮代町、2022年11月竣工)にて実施された。デモに際しての説明会では大和ハウス工業の石川一郎氏(東京本社 建築事業本部 営業統括部 Dプロジェクト推進室 物流DX推進グループ 担当部長)が登壇。協業の背景、狙いについて語った。
まず大和ハウス工業とNTTコミュニケーションズの間では、物流施設の管理運営面でさまざまな協業を進めてきた実績がある。2020年12月には、コロナ禍における入館時マスク着用およびラウンジ混雑度の自動検知技術を、そして2021年8月には、熱中症やインフルエンザの発生リスクを見える化する技術の開発を共同で実施。ドローンによる無人点検は、こうした協力の新たなるステップにあたる。
DPL久喜宮代をはじめとした物流施設は、大和ハウス工業が開発を担当する一方で、施設内の各区画をテナントへ貸し出すことで収益を得る。よって施設の維持管理は大和ハウス工業が責任をもっている。大型の物流施設となれば敷地内を頻繁にトラックが行き交うため、事故やトラブルのリスクは一般建築物と比べて相対的に高い。施設点検は極めて重要な業務だと石川氏は指摘する。
実証実験が行われるDPL久喜宮代では、施設1階の中央を貫くようなかたちで屋根付き(トンネル状)自動車路がある。この自動車路に付随する形で設置されているシャッター、ガードポール(車が柱に直接衝突することを防ぐ鉄柱)、消火設備について、ドローンによる無人点検を行うのが今回の実験の柱だ。
「シャッターが壊れたり、ガードポールが折れたとなれば、結果として倉庫が使えなくなり、トラックドライバーを待たせることになります。つまりは物流が止まってしまいます。事故をいち早く発見して、早急に手を打つための手段を磨くことは、大和ハウスグループとしての社会的責務と考えています」(石川氏)
点検の省力化が期待される理由の1つとして、近年の物流施設大型化がある。情報技術の発展、倉庫内ロボットの普及などが進んだ結果、1人の担当者だけでより多くの荷物を管理できるようになった。この影響で物流施設を統廃合させる動きが広がっているという。
「例えば、千葉県流山市にある我々の施設は10万平方メートル規模とたいへん巨大ですが、ここで1フロアを点検するためには1回1万歩は歩くことになります。施設は合計4フロア。巡回点検は通常、1日に3~4回行います。もちろん実際には複数人で分担する訳ですが…。物流を止めないという意味でも、倉庫内を自由に飛び回るドローンによって、点検を効率的にスピーディに行いたいのです。これが実証実験の大きな目的です」(石川氏)
なお、実験ではドローンが無人飛行するが、今回は屋外ではなく、施設内の自動車路や共用部が中心となっている。そのため、GPSによる飛行位置の特定は原則として不可能。その環境でも確実に点検を行うための技術検証が実験においても重要なポイントだ。
ドローン無人点検が実用化すれば、点検にかかる時間を30%削減できると2社では見込んでいる。これは担当者が歩いて点検する時間に加え、事後の書類作成にかかる時間、情報共有にかかる時間なども含むという。
定時にドローンが自動運航、トラック運行を妨げない高い地点を飛行
具体的なドローン運用体制などについては、NTTコミュニケーションズの村川幸則氏(関西支社 第二ビジネスソリューション営業部門 主査)が説明した。
ソリューション開発に向けた動きは、村川氏によれば協業発表の直後、2023年8月にスタートした。同9月には、画像解析に必要となる教師データ(ダミーの傷を作って、これをもとに事故の有無を判定)の撮影を4500枚規模で実施した。これらのデータは、NTTコミュニケーションズが展開するデータ連携プラットフォーム「SDPF for City」を介して整理・制御されるという。
そして今回、2024年3月18日・3月19日の2日間にわたって、実用化後に現地・DPL久喜宮代で日々行うであろう、点検撮影のための環境を一時的に構築。ドローンを自動飛行させ、画像がクラウドへアップロードされるか、「SDPF for City」と問題なく連携できるかなどを検証する。
飛行させるドローンは、Skydio 2+(米Skydio社製)。「Skydio Dock and Remote Ops」というソリューションをベースに、Skydio 2+本体がGPSが受信できない環境でも操作・制御できるようにしている。
実験が行われた施設1階の自動車路は、大型トラックが2台併走できるかというレベルの広さで、かつ雨の心配がほぼない屋根付き構造。その両側に、トラックのテール部をつけられるバースが並んでいる。
ドローンは、バース周辺に仮設置された発着用の箱形ポートからせり出た後、自動で飛行。各バースの前で一旦空中静止し、点検用の撮影を行う。こうした撮影を複数回繰り返し、最終的には飛行路を引き返すように戻っていき、箱形ポートに着陸する。離陸から着陸までの時間は、およそ3~4分といったところだ。
報道関係者向けデモは、車の往来を制限した状態で行われた。ただし実運用ではトラック走行中でも点検を行わなければならない。村川氏によれば、多くのトラックは地上高が4.5mほどのため、ドローンはそれを上回る5.5mの高さを基準に飛行させる想定だという。
またGPSを受信できない環境のため、ドローンの飛行には常時インターネット接続が必要となる。そこで、実証実験ではドローンの飛行路周辺にWi-Fi電波装置を追加で設置した。リアルタイム画像解析による衝突回避にも対応するとしている。
ポートに着陸したドローンは、Wi-Fi接続で画像をクラウドにアップロード。この画像をAI基盤と突き合わせ、設備が壊れていないか検証する。例えば10時と16時の1日2回、ドローンを自動で飛行させ、その画像差分を比較するといったことができるようにしたいという。
デモンストレーション当日は風が強く(気象庁のデータによれば、デモが行われた当日11~12時頃の風速は4.2~5.4m/秒)、トンネル状の自動車路では特に大きな影響を感じた。にもかかわらず、トラブルなく飛行・離着陸できていたのが印象的であった。なお質疑応答によれば、最大10m程度の風速でも運航できるとのこと。
実証実験は今後も続けられ、2024年度内(2025年3月まで)にはAIによる画像解析技術を導入する計画。さらに将来的には、複数の施設の点検を遠隔地から一元管理したり、大規模災害発生時にドローンでいち早く現状確認できる体制の構築を目指す。