能登半島地震の被災地で、ドローンの活用が広がっている。そのきっかけをつくったのは、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)参与の嶋本学氏だ。嶋本氏は同地での甚大な被害を知り、すぐに「ドローンの出番だ」と確信。またJUIDAは「社会貢献」を柱の一つに掲げており、その中には当然、災害時の活動も含まれる。今回のような大規模な地震でJUIDAが支援に乗り出すことは、「当然の話」(嶋本氏)だった。

被災地で指揮を執る嶋本氏(左)。元陸上自衛官の知見を活かし、JUIDA参与として現地で対応にあたった。(出典:一般社団法人日本UAS産業振興協議会より提供)

 嶋本氏はまず、石川県に対し「ドローンで支援したい」と打診したが、県とのやり取りの過程で、基礎自治体と直接連携を取る事とし、次に輪島市に連絡を取った。深刻な被害を受けた輪島市は、嶋本氏の申し出を二つ返事で受け入れ、1月4日、改めてJUIDAに対し支援を要請した。要請を受け、翌5日には嶋本氏自ら車を飛ばして現地入り。電灯もない中、あちこちに損壊がみられる道路を慎重に進み、到着するころには夜もすっかり更けていた。

 また嶋本氏は、輪島市からの支援要請を受け取ると同時に、旧知のドローンメーカー各社に協力を依頼。そうして嶋本氏は、元陸上自衛隊幹部自衛官としての経験も生かしつつ、各機関や企業との調整役を担うことになった。輪島市役所では「JUIDAの嶋本です!ドローンのことなら嶋本へ!」と告げて歩き、自身の携帯番号も掲示。各課のニーズを拾ったうえで、翌6日から本格的に活動を開始した。

 なおJUIDAはすでに、関東地方などを管轄する陸上自衛隊東部方面隊とは災害発生時の連携協定を結んでいるものの、それ以外の地域では未締結。「連携協定を締結していれば、その協定に基づきもっと早く出動できたはず」との思いから、1月10日には石川県を所掌する陸上自衛隊中部方面隊第10師団と災害時連携協定を結び、より自衛隊との意思疎通を強化できるように整えた。この協定により、ドローンを飛ばすにあたっての電波状況の確認や地形の様子を陸上自衛隊のヘリで実施するといった連携も容易になった。

甚大な被害を受けた街並み。

ドローンで孤立地域に医薬品配送

 嶋本氏が輪島市役所に到着したその日、早速DMATから寄せられたのが「孤立した避難所へ薬を配送できないか」との相談だった。そこで1月9日、株式会社エアロネクスト、株式会社NEXT DELIVERY、株式会社ACSL、株式会社ドローンオペレーションが連携し、孤立地域内にある鵠巣小学校避難所へと医薬品を配送した。医薬品配送の取り組みは実証実験こそ進んでいるものの、実際の災害時にドローンを活用して物資を届ける試みとしては、国内で初めての事例となった。

医薬品を届けるAirTruck。(出典:一般社団法人日本UAS産業振興協議会より提供)

 この輸送で使用したのは、エアロネクストとACSLが共同開発した物流専用ドローン「AirTruck」。輪島市文化会館から約3km離れた鵠巣小学校避難所に、3人分の医薬品を約10分かけて配送した。同社らは9日にも、2回にわたり同小学校避難所へ医薬品を届けている。

 市役所内の各課などから寄せられたドローンに対するニーズについては、まずJUIDAが窓口となって受け取り、そこから嶋本氏が各社の得意領域に合わせて業務を割り振る形を取っている。ドローン各社については、当初は嶋本氏から協力を依頼したものの、すぐに企業のほうから「何か手伝えることはないですか」といった連絡が来るようになったという。

 被災間もない同地では、当然のことながらホテルや飲食店も開いてはいない。そこで嶋本氏は事前に、各社に「来ていただけるのであれば、寝袋と食料を持ってきてください。こちらでは用意できません」と告げている。食べるものも、みなもっぱら持参したレトルト食品だ。それでも、支援を志願する声は後を絶たない。

 ただ長期にわたる車中泊を覚悟で被災地を訪れた嶋本氏だったが、住民の好意で同地の民家の一間を借りることもできた。いまは集まってくれたドローン関連企業の社員らとともに、一間に寝袋を敷いて雑魚寝する日々を送る。「みなさん、何とかして被災地に貢献したいと思ってくれているのです。本当にありがたいことです」と嶋本氏は話す。

ダム点検でドローンを活用

 1月14日には、輪島市でのドローン活用を知った珠洲市からも支援要請が寄せられた。ドローンが活用される場面も、先に述べた医薬品の配送のほか、河川の調査や港の被災状況の確認、橋梁のチェックなど多岐に渡る。とりわけ多いのが、仮設住宅の設置予定地域の被災状況の確認だ。現在県も仮設住宅の建設を急いでおり、建設予定地域の安全を確認することは急務といえる。

 1月31日には、日本航空株式会社とKDDI株式会社が珠洲市で建設予定地域の被災状況を確認。DJI社製の「Mavic 2」を用い、約150m四方の空き地でドローンを自動飛行させ、約10分をかけてあらかじめ設定した通りに上空から写真を撮影した。

被災状況の確認に使用されたDJI Mavic 2。

 また同日には輪島市内において、地震による土砂崩れで川がせき止められて発生した「土砂ダム」を定期的にドローンで確認するJUIDAの試みが始まった。具体的には、ブルーイノベーションの開発したドローンポート「BEPポート」から、ACSL社製の「PF-2」を飛び立たせ、点検を行うというもの。仙台市ではBEPポートを2022年10月から運用しているが、実際の被災地での運用は今回が初めてとなる。

ブルーイノベーションが開発したBEPポートが設置された。

 監視するのは、同市を流れる牛尾川の上流地点。決まった時間になるとポートが自動で開き、高度約150mから土砂ダムの様子を撮影したのち、自動でポートに戻ってくる流れだ。31日から数日間はブルーイノベーションの社員らがポートの調整を行い、その後は完全に自動制御とする予定となっている。同社の尾向恵介氏は「この場所は電波が弱くLTEが利用しづらいなど、まだ改善しなければならないこともたくさんある。被災地のために万全な状態にしなければならない」と意気込んだ。

BEPポートの内部にはACSL PF-2が格納されており、全自動で土砂ダムの点検にあたる。

 また冬の能登地方では、強い風や雪が吹きすさぶことも珍しくない。2月1日には、伊藤忠商事株式会社とANAホールディングス株式会社が連携して珠洲市内のダムおよびダムに至る道路約10kmの被災状況を確認する予定だったが、強い風と雪のため延期となった。それでも両社の社員らは現地を訪れ、経路の選定や目視を行う補助者の位置の決定など、「いまの自分たちにやれることを」との熱意を燃やしていた。

 嶋本氏は、「この1か月は、目の前にある自分のなすべきことを必死にこなしてきたという思いしかありません。それでも一つの業務が終わるたび、達成感や『ドローンが役に立っている』との実感を抱きます」と振り返る。震災から丸1か月が経過したが、まだまだ輪島・珠洲の両市は復興からほど遠い状態にある。そんな中で、JUIDAやドローン関連企業は「ドローンを活用することが住民の安全・安心につながる」との思いを強く抱き、日々被災地の空にドローンを飛ばしている。

▽JUIDAと連携した企業一覧(1月31日現在)

ブルーイノベーション株式会社孤立地域の情報収集
仮設住宅設置予定地域の被災状況の確認
河川の調査に関する検討、調査準備
JUIDA災害支援本部の支援
株式会社Liberaware被災住宅の被害状況の確認
株式会社ACSL地滑りの兆候がある地域の撮影
孤立地域の情報収集
孤立地域の避難所への医薬品配送
港の被災状況の調査
地滑り危険区域の調査
仮設住宅建設予定地域の被災状況の確認
新たな避難先候補の屋根の崩落状況の調査
株式会社ドローンオペレーション孤立地域の避難所への医薬品配送
株式会社エアロネクスト/株式会社NEXT DELIVERY孤立地域の避難所への医薬品配送
新たな輸送ルートの調査
孤立地域の避難所への医薬品輸送ルートの検討・申請
輪島市での新たな孤立地域避難所への輸送ルート配送可能性調査
能登町での物資輸送
川崎重工業株式会社現地調査
イームズロボティクス株式会社石川県庁DMAT本部における政府との運用調整・情報連携
ウェザーニューズとの連携
スペースエンターテインメントラボラトリーとの水上飛行にかかる事前調整
日本気象協会との調整
防災科学技術研究所との事前調整
ISUT情報集積班との事前調整
孤立地域における港湾の状況調査のための飛行可能性調査(門前地区等)
港湾の状況調査
珠洲市仮設住宅建設候補予定地の地形確認
状況調査およびオルソ化のための計測飛行
悪天候下で計測飛行可能な機体検討および事前調整
日本航空株式会社との情報共有、事前調整
警察、消防、海上保安庁へのニーズ調査
名古屋市消防局および緊急援助隊との調整
双葉電子工業との事前調整、オルソデータ作成
オルソ画像作成およびデータアップロード
NTTドコモとの意見交換
伊藤忠商事、全日本空輸との事前調整
航空調整本部内実働機関のニーズヒアリング
防災科学技術研究所と陸上自衛隊中部方面総監部との活動状況の共有
株式会社SkyDrive道路途絶地域への物資輸送
道路途絶地域における飛行可能性の調査
日本DMC株式会社佐比野林道の離陸地点周辺のロケハン
輪島市総合体育館周辺のロケハン、被災状況の調査
住宅建設予定地の被災状況の調査
株式会社やさか創研仮設住宅建設予定地の被災状況の調査
株式会社スペースエンターテインメントラボラトリー港・海岸の状況調査
オルソ画像データ作成
エアロセンス株式会社飛行通知の作成
道路損壊状況の調査
漁港の状況調査
合同会社SKYTRYING河川の河道閉塞状況の調査
日本システムバンク株式会社飛行通知の作成
仮設住宅建設予定地の被災状況の調査
佐川急便株式会社機体の提供
NTTコミュニケーションズ株式会社ドローン飛行予定地域の上空電波の情報提供
株式会社ウェザーニューズ輪島市役所に臨時気象観測装置の設置
ドクターヘリの現在位置情報の提供
双葉電子工業株式会社漁港の状況調査
日本航空株式会社県庁土木部などへのヒアリング、ニーズ調査
ニーズと機体性能に関する情報整理
災害時のドローン利活用における課題の整理
珠洲市との調整
全日本空輸株式会社計測飛行に関する現地調査
伊藤忠商事株式会社計測飛行に関する現地調査
五光物流株式会社河川の調査に対する検討、調査準備
ドローンポートの輸送
日本航空株式会社/KDDI株式会社仮設住宅建設予定地の被災状況の調査