ついに日本での販売が決定したDJIの物流用ドローン「DJI FlyCart 30」。2023年から発売を開始している中国では、すでに山岳地帯の観光地、港湾輸送、緊急救助などの物流配送に活用されている。DJIならではの安定した飛行性能に加え、物流に特化した機能を兼ね備えた同社初の物流用機体となる。今回はDJI JAPANに機体の特長と詳細を聞いた。

ドローン物流の不安を解消したDJI FlyCart 30の各種性能

 DJI FlyCart 30はDJIとしては初の物流用ドローンとなり、計画から発売まで約3年の時間を費やし、10万回以上の飛行テストを経て市場へ投入された。農業用の大型機体AGRAS T50(日本国内未発売)の機体をベースに物流用の機能を備えている。同製品の特長は下記の通りだ。

【基本機能】
2種類の搭載モード(貨物ケース、空中吊り下げ)
最大積載量30kgで16kmの飛行(デュアルバッテリー時)
O3による低遅延高画質映像伝送

 最大積載重量は30kg(デュアルバッテリー時)となっており、その積載時の飛行距離は16kmに及ぶ。バッテリーをシングルにすれば、40kgまで搭載可能(飛行距離は8km)となり、利用状況に合わせて運用することができる。これほどの積載重量があれば、重い建材や資材を運搬することも可能だ。

 また、運搬方法は「貨物ケース」と「空中吊り下げ」から選択することができる。足場が悪い等で着陸が困難な現場や、貨物ケースに入れることが困難な形状の物を運搬する現場などでは空中吊り下げ方式が重宝しそうだ。吊り下げた荷物を下ろすときには、送信機画面のAR機能で設置場所に狙いを定め、荷物の着地後は吊り下げていたフックが自動的に外れるので操縦者の負担も軽い。なお、貨物ケースの外寸は754×472×385mm(長さ×幅×高さ)、内容積は約70L、重量は3kg。

機体下部に取り付けられた貨物ケース。
貨物ケースに荷物を入れる様子。
吊り下げ式で荷物を運ぶ様子。

【環境耐性】
全天候型(IP55)
最大飛行高度:海抜 6,000m
動作温度環境:-20℃~45℃
最大風圧抵抗:12m/s

 機体は全天候型(IP55)で、多少の雨なら問題なく運用することができるという。一般的なドローンは、雨天は荷物や資材を運ぶことができず、ドローンを運搬に活用する醍醐味が薄れてしまうが、DJI FlyCart 30であればその心配は無さそうだ。さらに、最大飛行高度は海抜6,000m、動作温度環境は-20℃~45℃となっており、標高の高い山間部や寒冷地での運用に強いという特長を持っている。

機体はIP55規格の防水性能。

【セーフティ機能】
システムとセンサーの冗長性
ホットスワップ対応大容量デュアルバッテリー
重量 / 重心検知センサー搭載
障害物検知センサー搭載
パラシュート搭載
デュアル制御モード

 サイズが約3m四方(2800×3085×947mm・アーム&プロペラ展開時)、機体総重量が最大65kgにもなるDJI FlyCart 30においては、安全性能は一般的な大きさのドローン以上の意味を持つことになる。基本的に飛行安定性をつかさどるIMU(慣性計測センサーユニット)や高度を計測する気圧センサー、モーターやバッテリーなどのシステムやセンサー類は冗長性を持たせており、ひとつに不具合が起きてもバックアップ等によりリカバリーが利くようになっている。

 もちろん、これまでのDJI製ドローンと同様に障害物検知センサーも搭載されており、前後にAGRASシリーズのものをベースに調整・搭載したフェーズドアレイレーダーと前方にデュアル両眼ビジュアルセンサーを備える。カメラを利用したビジョンセンサーだけでなく、レーダー方式の障害物検知システムを装備することで夜間などの障害物検知にも対応することができる。

 それでも、万が一機体が墜落するような事態に陥った場合には、パラシュートが開いて墜落の衝撃を和らげる。パラシュートの最低有効開傘高度は60mとなっており、ある程度の飛行高度は必要となるが、アクシデント発生時には被害規模を大幅に軽減する有効な手立てとなるだろう。さらに、デュアル制御モードもサポートされており、送信機の信号品質が悪くなった時には、別のオペレーターに制御権を移すことができ、作業のカバー範囲を広げ、安全な飛行を保証することが可能。

パラシュートが展開した時の様子。

DJI FlyCart 30の物流機能は運用のリスクを大幅に軽減

 DJI FlyCart 30に搭載されている物流機ならではの機能も紹介しよう。特に技術が盛り込まれているのは積載機能関係だ。例えば、物流用ドローンにおいて、積載物を搭載する重心位置は飛行制御に影響を与えるため、とても神経を使わなければならないが、DJI FlyCart 30では70Lの積載容量を持つ荷物が入った発泡ポリプロピレン製ケースの重量と重心を検知し、安定した飛行を実現することができる。

 一方、空中吊り下げに利用するウインチユニットには揺れ抑制機能が搭載されている。通常、荷物を吊り下げると移動の初動時や停止時に吊り下げた荷物が振られて振り子状態になり、荷物の重量によっては機体の安定飛行を奪う程の揺れを作り出してしまう場合がある。DJI FlyCart 30では、機体のセンサー類が吊り下げた荷物の揺れを感知し、揺れが収まるように機体を自動的に制御することができる。

DJI FlyCart 30の揺れ防止機能

 万が一吊り下げた荷物やワイヤーが樹木等に引っかかってしまった場合は、ワイヤーを加熱切断することも可能とのこと。このあたりの安全に対するきめ細かい対策は利用する側にとってはとてもありがたいものだ。

 また、統合された物流管理プラットフォーム「DJI DeliveryHub」では、フライトプランの作成・管理だけでなく、機体状況や位置情報のモニタリング、チームリソースの管理など、包括的に作業状況の把握が可能で、さらにそれらを複数の端末から同時に確認することができる。高機能な機体の開発だけでなく、使いやすく便利なソフトウェアも開発・連携できるのがDJIの強みのひとつと言える。

DJI DeliveryHubによる各種情報は、タブレットやPCなどの複数のデバイスで共有できる。

年内に4G LTEにも対応予定。まだまだ進化するDJI FlyCart 30

 建築現場や山間部において、重量のある建材や資材を運搬したり、過疎地域での物流に活用したりするなど、DJI FlyCart 30の活躍できる場はさまざまありそうだ。現状では4G LTE回線の接続は対応していないものの、年内には対応を予定しているという。これが実現すれば目視外飛行による長距離輸送も可能になる。

 また、サードパーティ製ペイロードを機体に取り付け、統合することができる「PAYLOAD SDK」も提供しているため、ユーザーがペイロードをカスタマイズしてピンポイントな用途に利用することも可能だ。

 DJI DeliveryHubはすでに一部の公開API機能を開放しており、DJIは問い合わせを受け付けている。

 DJI FlyCart 30の機体・システムの機能性はこれまでのDJI機と同じくとても高次元で統合されたものになっている。DJIの参入で物流分野のドローン活用市場の加速は今後さらにスピードを上げて進んでいくことになるだろう。