5月24日から26日の期間、幕張メッセ(千葉県)で第5回建設・測量生産性向上展(CSPI-EXPO2023)が開催された。測量業務に関わる多くのドローンや関連ソリューションが展示される中、ドローンの国内シェアNo.1と言われているDJIが出展し、多くの関心が寄せられていた。今回は、DJI JAPANの呉 韜代表取締役にドローンメーカーの観点から企業方針と市場動向について話を伺った。
DJIが久々の展示会出展、初披露の新製品も並ぶ
DJIは、ドローンを活用する専門業種の関係者が集まるさまざまな展示会に出展してきたが、土木建築の関係者が多く来場するCSPI-EXPOへの出展は、2019年以来、実に4年ぶりだ。
――今回、4年ぶりにCSPI-EXPOへ出展した狙いを教えてください。
「弊社では、新型コロナウイルスの影響もあり、直近4年間は産業関連の展示会への出展を取りやめていました。新型コロナウイルスによって、顧客と対面で接する機会が大幅に減っていました。CSPI-EXPOでは、弊社の機体販売業種として建設測量分野での需要がかなり高いということもあり、出展を決定しました。機体の導入については、コンシューマーは法規制がハードルとなり、扱いにくい側面が目立ちます。一方で、産業用は制度上扱いやすくなってきているということもあり、まずは産業分野の中で最もシェアの多い建設測量分野で出展することとしました」
DJIのブースでは、5月に予約販売を開始したばかりのDJI Matrice 350 RTKや、据え置き型によるドローンの運用を前提としたDJI Dockといった新製品が初披露された。これに合わせてCSPI-EXPOへの出展を決定したようにも思えたが、呉代表は「偶然にも新製品のリリースとタイミングが合いました」と話す。
セミナー参加者のほぼ100%はドローン導入済み、日本市場に向けた企業方針
ドローンが話題となった当初から、日本国内で不動のシェア率No.1を誇るDJIは、日本市場をどのように捉えているのか。昨年には、日本独自の新たな制度が創設されたこともあり、今後の企業方針への影響などを伺った。
――日本市場に向けて、今年はどのような方針を定めているのでしょうか?
「DJIの方針は、毎年大きく変わることはありません。基本的な方針として、新製品の開発と人材育成を通じて新たなジャンルの創出に挑戦しています。そして、さまざまな活用事例を作ることで普及活動を継続しています。ひとつあるとすれば、今年の方針に大きく影響を与えたのは2022年12月に施行された航空法の改正です。これによって、どのように人材を育成していくのか、機体の認証をどうやって進めていくのかという課題があり、今年の戦略は以前と少し変わってくるのではないかと思います」
――世界各国に比べ、日本市場はどういう特徴があるのでしょうか?
「まず、日本のマーケットは世界で見るとそれほど大きくはありません。ひとつの特徴として、日本ではドローンの利用がほぼ産業だということが挙げられます。中国、アメリカ、ヨーロッパではホビーユースが圧倒的に多いのです。本日のCSPI-EXPO出展社セミナーの冒頭で、“すでにドローンを導入している人は挙手をお願いします”と呼び掛けたところ、満席(255名)にもかかわらず、ほぼ100%の方が挙手されました。これには大変驚かされました。弊社の統計から測量関連のユーザーへの販売が最も多いと分かっていたのですが、想像以上でした」
――航空法の改正によって、DJIの今年の方針に少し影響があるとのことでしたが、DJIは型式認証という日本独自の制度に対応する可能性はあるのでしょうか?
「DJIには、型式認証に取り組むチームがありますが、それほど人材は多くありません。また、今は型式認証を取得しても大きなメリットが生じないので、時間をかけて関連機関とコミュニケーションを取り、いくつかの機種を選考して取得することを考えています。ただし、認証の取得には膨大なコストと時間が必要となります。例えば、取得までに半年以上もかかってしまうとなれば、取得し終えた半年後に製品がリリースされているという側面があり、もう少しスピーディーな対応を期待しています。特にドローンは有人航空機とは異なるので、いかにスムーズに認証を取得できるかが重要だと思います。現時点では、国家ライセンスを受験するのも大変だったり、認証機体も数少ないというのを鑑みると、まだまだ意見をすり合わせる期間が必要だと思います」
前述のとおり、日本のマーケットはそれほど大きくないことに加え、国家ライセンスや型式認証は日本独自の制度となっている。そのため、編集部はDJIが認証を取得することは難しいと捉えていたが、認証取得の可能性も十分あることが分かった。
新製品発表が相次ぐDJIのドローン、次の開発ステップと課題
次に、今回の展示会では、新製品となるDJI DockとDJI Matrice 350 RTKが初披露された。そのほかにも、4月にはDJI Mini 2 SEとDJI Mavic 3 Proがリリースされるなど、新製品が相次いで発表された。そこで、製品開発についても話を伺った。
――今回、ドローンの新たなツールとしてDJI Dock(据え置き型のドローン離着陸格納庫)が参考出展されました。他社製品も含め、日本ではまだ馴染みのない製品ですが、期待値は高そうでしょうか?
「Dockは主に中国で普及が進み始めています。おそらく、日本での使い方は中国とは異なるでしょう。例えば、石油プラントを巡回点検するような使い方が想定されます。ただし、そこまで日常的にドローンを飛ばすかどうかということが鍵となります。Dockは、これまでに無いツールのひとつです。どのように運用するか、さまざまなアイデアがあり、一定の間隔に配置することで薬やAEDの配送など、緊急時や災害時に役立てることができます」
――DJI Dockといった新しいツールだけでなく、直近でドローンの新製品も複数発表されました。機体開発の面では、飛行性能やカメラの技術は概ね確立されてきたのではないかと見受けられますが、現在、注力して技術進歩を目指している部分はどこでしょうか?
「ひとつ目はペイロードの拡充に注力しています。この数年間でラインアップを増やしましたが、そのほかにもマルチスペクトルカメラのように、特殊用途を前提とした製品の開発を進めており、これによって一気にドローンの使い方が変わると期待しています。マルチスペクトルカメラというと農業でしか使えないという印象がありますが、点検や測量にも使えます。マルチスペクトルカメラのほかにも、水量や水質を測るセンサーなど、搭載機器を増やすことでドローンの付加価値がさらに高まります。ふたつ目は通信の技術です。最新機種であるDJI Matrice 350 RTKの飛行時間は約55分を実現しており、新しいDJI O3 Enterprise伝送システムを採用、3つのチャンネルを使用し、耐干渉性が大幅に向上することで、さらに安定した伝送が実現します。もちろん、カメラのさらなる向上を図っていく必要もあります」
――やはり、飛行制御や安定性の向上に対しては、それほど重きを置いていないのでしょうか?
「飛行の安定性というよりも、この数年間は飛行制御の部分を重点的に開発してきました。自動航行の制御や飛行モードの拡充です。業務によっては、壁に沿って飛行させる技術などが必要となります。そういった場合、飛行モードを追加していく必要があります。また、同じルートで定期点検するケースや、同じ地点で写真を撮影したいとなった時には自動航行や飛行モードが欠かせません。このように、より実用性の高い飛行モードを開発していくという進化もあります」
――最後に、ドローンの普及を促進していくにあたり、市場に足りていないものは何だと考えていますか?
「技術の面では、足りていないものはないと思っています。一方で、法規制の整備が必要だと感じています。現在は国と企業、団体、利用者などを交えた調整期間だと考えており、この調整を終えればスムーズにドローンを扱えるようになるのではないでしょうか。現在は機体登録の手続きが煩雑だという声など、さまざまな意見を耳にします。業務利用する場合は、あらゆる手続きを行うのは仕方ありませんが、ホビーユースなどの一般利用者を同等の制度に組み込むのは正直厳しいと思います。国の制度を設けて安全を確保するのは非常に重要だと考えますが、そのやり方や仕組みをスムーズにするとさらに良くなるでしょう」
「また、法規制を整備したからといってドローンが爆発的に普及していくことは無いと考えています。市場は、今まで同様に地道に成長していくのではないかと予想しています。ドローンを扱うには人材育成をしないといけませんし、さらに用途を拡大していかないといけません。これには時間がかかりますので、おおよそ毎年20~30%の推移で市場が拡大していくだろうと見ています」
ドローンの進化は早く、ユーザーの要望に応える形で性能向上を繰り返してきた。ハードウェアの品質が確立されてきた今、DJIが目指す先は、これまでにない新たな活用方法を提案していくことにあると、いよいよ活用フェイズへと進み始めているようだ。最後に呉代表は「近年、同業も増えてきましたが、弊社は負けないように努力していきます。その結果、ドローン全体のマーケットが拡大し、皆さんの仕事にドローンが役立てられていくことが我々の最大の目標です」と締めくくった。