ブルーイノベーションとLiberaware(以下、リベラウェア)、ACSL、エアロネクスト、NEXT DELIVERYのドローン関連5社は、令和6年能登半島地震に際し、日本UAS産業振興協議会(以下、JUIDA)の指揮のもと、石川県輪島市の要請を受け、同市内においてドローンによる捜索や被災状況確認、物資輸送等の初期災害時支援活動を実施した。

災害時活動 各社参画の経緯と体制

1月1日石川県能登地方で地震発生
1月2日能登半島全域においてドローンをはじめ無人航空機の飛行が原則禁止となる
以後ドローンを飛行させる際は国か地方自治体、現地災害対策本部の要請が必要に
1月4日石川県輪島市よりJUIDAへ支援要請が入り、ブルーイノベーションに協力要請
1月5日ブルーイノベーションよりリベラウェア、ACSL、エアロネクスト各社に協力要請
1月6日ブルーイノベーションとリベラウェアが支援活動を開始
1月8日ACSLとエアロネクスト・NEXT DELIVERYが支援活動を開始

 災害対応の現場では個社個別に行動するのではなく、統一された指揮系統のもとで集結・協業することで、国や自治体との連携や飛行・活動環境の確認、活動内容に適した担当社を割り振り、災害時のドローン利活用の有用性を最大化し、より幅広い支援活動が可能となった。

ブルーイノベーション(1月6日~7日)

被災者の捜索活動、被災状況の調査 :日常から災害ソリューションを開発し、JUIDAの運営事務局としてプロジェクトマネージャー的な役割を担った。

土砂崩れによる孤立地域をドローンで上空から撮影

【支援内容1】
自衛隊と連携した土砂崩れによる孤立地域の情報収集/2024年1月6日 輪島市光浦町

 光浦町の海岸沿いの道路では、土砂崩れにより道路が大きく崩れ落ち、集落が孤立していた。道路が寸断された先に孤立者がいないかをドローンで撮影し、自衛隊がリアルタイムで映像を確認し、捜索活動を行った。孤立者の存在が確認できた場合は、自衛隊による徒歩での救援活動が行われるが、その際に必要な物資を映像から判断し、持参する物資を決める際にドローンの映像が役立つことがわかった。

【支援内容2】
仮設住宅設置予定地域の被災状況の確認/2024年1月7日 輪島市門前町 2カ所

 輪島市では、災害時に備えて仮設住宅設置が可能な地域を確保している。市が事前に把握している仮設住宅設置エリア周辺を上空から撮影し、道路が寸断されていないか、倒壊家屋で土地が使用できない状況にないか、土地そのものが使用できるかどうかをドローンで撮影して輪島市と共有した。

仮設住宅設置予定地域をドローンで上空から撮影

リベラウェア(1月6日~7日)

倒壊家屋・施設内部の調査 :屋内狭小空間の点検に特化した「IBIS2」により家屋内を飛行。

【支援内容1】
倒壊家屋内部の現状調査/2024年1月6日 輪島市内

 震災により倒壊した家屋の内部調査を実施。家屋が潰れて人が進入できないエリアや、余震で倒壊する可能性がある危険なエリアでリベラウェア開発の小型ドローンIBIS2を飛行させ、内部の被害状況や紛失物(金庫や権利証など)の有無を確認した。倒壊家屋は、倒れた柱や壁で20cm前後の高さ・幅しかないスペースが多数存在し、またドローンを飛行させると木くずや砂ぼこりが舞う環境であった。自社開発のフライトコントロールシステムによる屋内狭小空間での安定飛行、防塵構造モーターにより、倒壊家屋内部の現状調査を安全に遂行した。

家屋外観(左)、家屋内部(IBIS2撮影映像より抜粋)(右)

【支援内容2】
家屋床下の現状調査/2024年1月7日 輪島市内

 家屋床下の破損状況調査を実施。高さ10cm程のエリアが多く人が進入できない床下でIBIS2を飛行させ、破損状況や柱のズレなど余震が続く被災地での二次災害防止に向け、被害状況を確認した。木くずや塵ぼこりが舞う環境であったが、防塵構造モーターや高感度カメラにより鮮明に撮影することができた。

床下進入口(左)、床下内部(IBIS2撮影映像より抜粋)(右)

【支援内容3】
倒壊リスクのある大型商業施設の現状調査/2024年1月7日 輪島市内

 倒壊リスクのある大型商業施設の現状調査を実施。人が進入することが危険な大型商業施設内部でIBIS2を飛行させ、柱の破損状況や屋根裏の梁の状態など、余震が続く被災地での二次災害防止に向けて被害状況を確認した。

 余震が続く状況では、内部状況の確認を人が進入して行うことは非常に危険が伴うが、人の代替としてIBIS2を進入させることで点検を実施することができた。屋根・天井崩落などの二次災害の危険があるかを確認するため、40cm×40cm程の大きさの点検口から進入させ、屋根裏の梁や柱に近接飛行して点検を行った。

大型商業施設内部(IBIS2撮影映像より抜粋)
天井裏内部(IBIS2撮影映像より抜粋)

ACSL(1月8日~14日)

被災状況の調査 :風に強く、災害時などの厳しい環境下でも安全に使用可能な小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」を活用。

悪天候の中SOTENを飛行させる様子

【支援内容1】
地滑りの兆候がある地域における調査/1月9日、11日~12日 輪島市稲舟町

 稲舟地区の広い範囲において地滑りの可能性があり、避難勧告が出された。地滑りが起きると多数の災害復旧に主要な役割を果たす幹線道路が広範囲に寸断されるため、応急処置が必要か初期的判断が必要となり、SOTENによる補助者なし目視外飛行(レベル3相当)を実施。オルソ画像を作成することで、地割れの全体像を把握して初期調査に貢献した。

作成したオルソ画像

【支援内容2】
漁港の被害状況の調査/1月10日~14日(10日:南志見地区、11日:鵜入地区、12日:仁岸小学校、あぎし近辺、13日:町野地区、14日:光浦漁港、深見漁港)

 孤立地域への海運を検討するも、漁港の被災状況が分からない状態のため、SOTENで早期調査を実施。被災状況の把握を行った。

作成したオルソ画像

【支援内容3】
仮設住宅建設予定地の被災状況の調査/1月10日、12日~13日(10日:南志地区2カ所、12日:仁岸小学校、あぎし、13日:町野地区2カ所)

 仮設住宅建設候補地は広範囲にわたることから、地割れ等の被害を確認するためSOTENで撮影を行い、合計6カ所の被災状況を把握した。気温は氷点下、降雪、強風という悪天候の中で撮影を行う日もあったが、問題なく撮影を完了。撮影画像からオルソ画像を作成し、状況把握を行った。

作成したオルソ画像

エアロネクスト・NEXT DELIVERY(1月8日~15日)

支援物資の運搬、被災地区、配送物の確認 :物流専用ドローン「AirTruck」による目視外での救援物資輸送。

荷物を切り離して再離陸する物流専用ドローン「AirTruck」(鵠巣小学校避難所、JUIDA提供)

【支援内容1】
孤立地域への物流専用ドローンによる医療物資輸送/1月7日~15日(ドローン配送は1月8日~11日実施)輪島市

 現地に入り、状況把握や孤立地域避難所への輸送ルートの調査検討を実施後、物流専用ドローン「AirTruck」を使用し、孤立地区2カ所に医療物資等をドローン配送。計40名以上の処方薬、またカイロ、紙おむつ等の必要品を配送した。具体的には、1月8日~11日に、輪島市文化会館から約3.5km離れた孤立地域内の鵠巣小学校避難所に持病を持つ避難住民の処方薬を約8分で配送、さらに紙おむつ、カイロ、歯ブラシなどの必要品も届けた。1月11日には、光浦トンネルから片道約7km離れた西保公民館に、5人分の処方薬を約15分で配送した。

 機体は、エアロネクストとACSLが共同開発した物流専用ドローンAirTruckを使用。最大飛行距離20km、特許技術4D GRAVITYによる安定した飛行、遠隔操作による精密な自動着陸、荷物の自動切り離し(置き配)機能が被災地での活躍につながった。運航は、各地の実証実験や日常的にドローン配送サービスを提供しているエアロネクスト戦略子会社NEXT DELIVERYの運航チームが実施した。

輪島市で医療物資を配送するAirTruck
AirTruckによって届けられた薬を確認(左)、薬を受け取った様子(JUIDA提供)(右)(鵠巣小学校避難所)

【支援内容2】
孤立地域への物流専用ドローンによる物資輸送/1月13日~17日(ドローン配送は1月14日実施)能登町

 現地に入り、状況把握や孤立地域避難所への輸送ルートの調査検討を実施後、1月14日に柳田体育館から片道約0.8km離れた孤立地域内の高齢者施設多花楽会に、1日4回往復飛行してボディシートや菓子パンを配送した。新たな孤立地域避難所への輸送ルート調査検討も実施した。

離陸前のAirTruck(柳田体育館)(左)、荷物を切り離して再離陸するAirTruck(高齢者施設多花楽会)(右)
AirTruckによって届けられたボディシート(左)と菓子パン(右)(高齢者施設多花楽会)

災害時のドローンの有用性

 災害時を想定した実証実験や訓練は国内各所で行われてきたが、実際の被災現場におけるドローンによる災害支援活動は前例が少なく、今回の活動により改めてドローンの有用性を確認した。

迅速な初動対応
・ヘリコプターなどの有人航空機と比べて出動準備が短く、災害発生時に迅速な対応が可能
・人が入りづらい場所や危険な場所に入り状況確認が可能
・陸上輸送や海からの輸送が困難な状況でも配送が可能
・省スペースでも離着陸できるため、災害時も周辺環境に左右されず利用可能

救援者のリスク軽減・安全確保
・人に代わり危険な場所に入っていけるため、救援者への危険性や二次災害を低減

様々な情報・データの取得が可能
・他の航空機と比べて飛行高度が低く、空撮映像の解像度が高い
・ドローンからの空撮映像を用いて3次元測量が可能(現段階では未実施)

ドローンによる災害支援活動時の課題

 今回の地震において災害時支援活動におけるドローンの有用性が確認された一方、迅速稼働に向けた課題も多い。

飛行許可の課題
・ドローン関連事業者は、あらかじめ自治体などとの連携協定を結んでいない限り、被災直後の支援が難しい
・災害時は緊急用務空域が指定され、ドローンの飛行は原則禁止となる。自治体からの支援要請がない限り、災害時特例として民間企業の単独での支援は困難

機能の課題
・天候に左右される
・長時間飛行が難しい

人材の課題
・知見、経験があり、国や自治体との調整ができる統括役が必要
・運用者の育成が必要(通常時と比べて危険な場所や困難な状況下でのドローン操縦)

 5社は引き続き、能登半島地震においてドローンを活用した災害支援活動を行っていくとともに、災害時におけるドローンの有用性の認知拡大ならびに活用可能なインフラ等を広め、安心・安全な社会の構築に向けて業界一体となって取り組むとしている。

JUIDAのコメント

 この度の能登半島地震におきまして、民間5社の皆さまには、JUIDAの活動開始直後から御支援頂きました。JUIDAは平素から社会貢献を活動の重要な柱の1つとしておりますが、皆さまには私どもの方針を良く御理解頂き、現地の状況が不透明かつ慌ただしい段階から、率先して対応頂いた事に心より御礼申し上げます。

 活動間、皆さまにはそれぞれの社の特性に応じた活動を十分に発揮して頂きました。例えば、被災家屋内の調査、陸自第10師団と連携した支援活動、孤立地域避難所への医薬品配送、ドローンポートを利用した土砂ダムの定期監視などは、いずれも我が国初の活動であり、ドローンによる今後の防災活動の礎を築く事にもなりました。これらは各社さまの卓越した技術と技能がなければ成り立ちえなかったものと思料致します。

 この様に、皆さまの活動のお陰で、能登半島地震により大きな被害を受けた輪島、珠洲両市の応急救助、生活支援及び復興支援活動に少しでも手を差し伸べることが出来ましたことに改めて御礼申し上げますとともに、能登半島の1日も早い復興のため、引き続きご協力賜ります事をお願い申し上げます。