佐川急便とイームズロボティクス、日本気象協会、サンドラッグは2023年10月30日、東京都青梅市で実施しているドローンを活用した物流実証実験の一部を関係者に公開した。4社は10月2日から約1か月にわたって、通常時の宅配便配送や災害時の救援物資輸送を想定した取り組みを行っている。この日イームズロボティクスのLAB6150が、多摩川上空約4.8kmのルートを2往復するデモンストレーションを行った。

レベル4飛行による安定運用を目指す3年計画のプロジェクト

 2022年7月28日、東京都が実施する「都内におけるドローン物流サービスの社会実装を目指すプロジェクト」のひとつとして、佐川急便とイームズロボティクス、日本気象協会、サンドラッグが提案するプロジェクトが選ばれた。この東京都の事業は、都内におけるドローン物流サービスの社会実装を目指し、2022年度から2024年度にかけて実施者に都が支援を行うというもの。選定されたのは、佐川急便を代表事業者とする4社の「山間地域の生活利便性向上に向けたドローン配送」プロジェクトと、KDDIを代表事業者とする「ドローンによる医薬品卸から医療機関への医薬品配送」の2件であった。

 これを受けて佐川急便ら4社は、協議を重ねながらプロジェクトを推進。2023年1月には、東京都青梅市において日用品や市販医薬品、食品といったサンドラッグの商品を、ドローンで店舗から指定場所まで届ける実証実験を約1か月間にわたって実施した。この時には、利用者がサンドラッグのオンラインストアで購入した商品を、ドローンが利用者の地区まで届けている。

 今回、10月2日から実施した実証実験は、プロジェクトの2年目にあたり、初年度に対してルートを拡大したほか、個人宅への配送実験も行っている。また、1か月を通じて原則的に平日は毎日3便の飛行を実施。「飛行回数等の定量的な指標に基づいて最適なルートの検討」や「事業化に向けて必要となる配送手段の選定基準、選定フローを検討」をテーマに取り組みを行ってきた。さらに今年度中に約1か月の実証実験を予定しており、イームズロボティクスが開発中の機体が第一種型式認証を取得することができれば、その実証実験でレベル4による運航を行うとしている。

10月2日から31日にかけて実施された実証実験の概要。2023年度は緑の矢印の区間が新たに追加されている。(出所:三菱総合研究所

送電線を越えるために巡航時の飛行高度は対地約300m

 この日、関係者に公開されたのは、東京都青梅市御岳と同市二俣尾2丁目を往復する飛行。ほぼ多摩川上空を飛行するルートには、途中3つの橋があるほか、都道45号線を横断する形となっている。そのため、運航形態としては “補助者あり目視外飛行(レベル2)” として航空法上の承認を得ており、飛行ルート直下の橋などに補助者7名を配置。都道の横断についてはトンネル上空を飛行することで、道路上の交通の影響を受けることなく飛行できるルートとしている。

取材日の飛行ルート。多摩川の上空約4.8kmを飛行する。(出所:佐川急便

 また、飛行ルートは2本の高圧送電線を横断する。「高圧送電線を運用する東京電力パワーグリッドに問い合わせたところ、多摩川の谷をまたぐ送電線の一番垂れ下がった部分の地上高は、さまざまな要因で変化することもあり回答を得られなかった。そのため、架線を吊る鉄塔の高い方の最頂部より30m以上高く飛ぶように指示された。結果として飛行ルートの高度は対地約300mとなった」(宇田丞イームズロボティクス事業推進本部ソリューション営業部長)という。また、この対地300mという高度は、GNSSの電波のマルチパスの影響を受けにくいといった面でも都合がいいと説明している。

 さらに、この300mという高高度を飛行するために、150m以上の高さの空域で飛行させるための航空法上の許可を得るほか、高度150m以上における携帯電話の上空利用に関する電波法上の手続きも行っている。航空法上の許可については飛行高度が300mという高高度になると、墜落した場合に影響を及ぼす範囲も広くなるため、「補助者を配置することで安全を確保している」(宇田氏)。また、モバイル通信については、150m未満の空域のように携帯電話事業者のサービスとして利用することはできず、150m以上については実用化実験局として利用する形となっている。

東京電力パワーグリッドの東京・新秩父線を越えるドローン(赤丸中央)。右岸側の鉄塔は標高約360mの山の上に立っており、塔頂部と飛行ルート直下の標高との差は200m程度ある。

巡航中は配送先のオペレーターがモバイル通信で機体を監視・操作する

 この日の飛行は出発地の御岳運動広場に2名、配送先想定の二俣尾2丁目運動広場に2名と、合計4名のオペレーターによる運航。離着陸は発着地それぞれのオペレーターがコントローラーを使って手動で行い、2地点間の巡航はあらかじめ設定したルートに従って自動飛行する。巡航中のドローンの状態を監視・操作するのは、配送先側のもう一人のオペレーターが、PCのGCS(Ground Control System)ソフト上で行っている。出発地のもう一人のオペレーターは、GCSの画面をGoogle meetでモニターしていた。なお、このGoogle meetは補助者も含めて全員が使っている。「機体の状態を全員で共有できるほか、トランシーバーと違って双方向で話せる」(宇田氏)というメリットがあるとしている。

巡航中のドローンに対しては配送先を想定した二俣尾2丁目運動広場から監視・操作を行う。離着陸はオペレーターによる手動操縦で行っていた。
GCSであるミッションプランナーで機体を監視・操作するほか、モバイル通信経由で機体のカメラの映像とテレメトリーを監視する。
この実証では配送先として設定された二俣尾2丁目運動広場。

 また、モバイル通信経由で機体を遠隔操縦するオペレーターは、GCS以外に日本気象協会が提供する気象情報を表示したPCも監視している。気象情報は出発地・配送先に設置した気象モニターと、ルートの中間地点に設置したドップラーライダーからの情報などを表示。10分間の移動平均で風速変化がある場合は飛行できないとしている。「昨年からの取り組みの中で、飛行中のドローンは水平方向よりも下から吹き上げる風に弱いことが経験的にわかってきた。そのため今回は機体に搭載する箱を以前より小さくしている」(宇田氏)という。

離着陸場所には気象センサーを設置。また、ルート中間の沢井市民センターには、ドップラーライダーを設置し、上空の風況を観測している。

 御岳運動広場を離陸したドローンは最初の送電線をめがけて高度を上げ、巡航高度まで上昇。送電線を越えると多摩川上空に出て、川筋に沿って飛んでいく。途中、多摩川を渡る橋を通過するたびに、補助者が遠隔操作するオペレーターに状況を報告。13分ほどで約4.8kmを飛び、配送先となる二俣尾2丁目運動広場にドローンは着陸した。

 今回の実証実験の舞台となった青梅市御岳、沢井、二俣尾の各地区は、多摩川左岸に国道411号青梅街道と、JR青梅線が走り、この道路と線路に沿って各集落が広がる。飛行に際して落下分散範囲を考慮すると、ドローンの高度は低い方がこうした人家や道路、鉄道をはじめとした第三者に対して立入管理を行う範囲を狭くすることができる。その一方で、高圧送電線を安全に越えることや、GNSSのマルチパスの影響などを考慮すると、高度を下げることは難しく、「飛行ルートの設定はこうした要素のせめぎ合い」(宇田氏)だという。

多摩川に架かる軍畑大橋で、通過するドローンを監視する補助者。
本実証に使用されたのはイームズロボティクスのLAB6150型機。同社ではこの機体をベースにしたE6150TC型で第二種型式認証を申請。2023年11月1日に販売を開始し、2024年1月のデリバリーを見込んでいる。
イームズロボティクスオリジナルのモバイル通信用ユニット。前方と下方を監視するカメラを装備している。この日はNTTドコモのSIMを使用。
荷物は佐川急便のエクスプレスBOXのMサイズを搭載。同社の宅配便ではこのサイズが80%を占めるという。

物流事業者としていちばん大きな課題は“社会受容性”

 今回の実証実験は、都市部に比べてグラウンドリスクが少ない山間地域における河川上空の飛行ではあるが、その一方で高圧送電線をはじめとした山間地域ならではの課題も少なくない。「橋の上の交通の往来や、橋周辺の川原にいる人については、ドローンが上空を飛行する旨を声掛けすることで対応できるが、それ以外の場所で釣りをする人や、川を下ってくるカヌーを見つけて、飛行を一時的に停止したり、中止したこともある」(曽谷英司イームズロボティクス代表取締役社長)という。そのため、近隣のラフティングボートの団体にもドローンの飛行について周知を行っている。こうしたことから「物流事業者は “道” があって初めて荷物を運ぶ車を走らせることができる。ドローンで荷物を運ぶためにも、まず “ドローンが飛ぶ道” を整備してほしい」(千葉春生 佐川急便東京本社 事業開発部 技術研究課長)という。

青梅市沢井の集落周辺を飛行するドローン(赤丸中央)。

 また、いちばん大きな課題として社会受容性を挙げる。「これまでやってきた中で、地域の方々とコミュニケーションをとる中で、さまざまなご指摘をいただくが、おおむね前向きに受け入れていただいている」(千葉氏)という。しかし、今回の実証実験で新たにルートを開設する予定だった御岳山の山頂部への飛行については、ルート上の地権者の同意が得られず断念することとなった。「回覧板で周知をしたとしても、その回覧板の仕組み以外の住人の方からクレームが入ったり、ドローンがカメラを搭載していることでプライバシーの侵害だとご指摘を受けることがある。こうした問題は今後、業界全体で考えていかなければならない」(曽谷氏)としている。

佐川急便の千葉春生 東京本社事業開発部技術研究課長。

 佐川急便では2024年4月に完全実施となるトラックドライバーの残業時間規制によって、ドライバーを中心にした物流業界の人材が不足するという、いわゆる “物流2024年問題” を抱えている。「御岳山の山頂エリアはケーブルカーで上っていく必要があり、この地域を担当するスタッフによると、一日に数件の配送に数時間かかっているという。こうした場所にドローンなら5分、10分で荷物を届けることが可能となる」(千葉氏)。それだけに同社では2025年のドローンによる配送サービスの実用化を目指している。

 近年、ドローン物流の取り組みが進む中で、数百円という配送料金ではコストが見合わないという向きが大きいが、「今はコストの話をしても仕方ない」(千葉氏)と、現段階では目の前の人材不足という課題に対する取り組みという位置付けだ。その上で、医薬品の配送や、フードデリバリー、ネットスーパーの配送、さらには災害時の緊急物資輸送といった、ドローンによって新しく生まれる価値提供を見据えている。

 また、イームズロボティクスでは、「こうした運航コストを抑えるために、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト(ReAMoプロジェクト)で、一対多運航制御システムを開発している。いずれはコントローラーを持った操縦者も排した全自動による飛行で、荷物も配送先に置いて帰ってくるような運航スタイルを2030年に実現したい」(曽谷氏)としている。

ドローンビジネス調査報告書2023【物流編】

執筆者:青山 祐介、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:220P
発行日:2023/9/14
https://research.impress.co.jp/logistics2023