小菅村、丹波山村、福山通運、富岳通運、セイノーホールディングス、エアロネクスト子会社のNEXT DELIVERYは、2024年問題に揺れる物流業界と、過疎化や高齢化が進む中山間地域の、双方にメリットがある新しい物流インフラの構築を目指して、特積み(特別積合せ貨物運送)物流会社の共同配送を開始し、2023年8月1日に「道の駅こすげ」において6者共同で出発式を開催した。

 なお、セイノーホールディングスとエアロネクストが小菅村と連携し進めてきた新スマート物流「SkyHub」は、当初より複数の物流事業者による共同配送の構想を掲げてきたが、買い物代行やドローン配送などのサービスが先行し、約2年を隔ててようやく共同配送が開始した。セイノー側のキーマンである執行役員の河合秀治氏は、「今日からがスタートだ」と感慨深い表情で力強く語った。

「物流2024年問題」中山間地域に危機の足音

 2024年4月から、トラック運転手の時間外労働にも、年間960時間の上限規制が適用される。もともと担い手不足に苦しむ物流業界は、これからまさに転換期を迎えるが、一方で、トラックの積載率は2010年以降、40%以下の低水準のままだ。

 出発式で、最初に挨拶した小菅村の舩木直美村長は、共同配送への期待をこのように述べた。

「小菅村の人口は約650人、高齢化率は46%と非常に高く、少子高齢化の先進地ともいえる。これまで買い物難民をつくらないよう、さまざまな施策を実行してきたが、物流2024年問題を目前に、我々のような小さい村から、本当に配送できなくなる可能性も出てきた。そんななか小菅村と丹波山村では各社の協力を得て、共同配送という新しいステップを踏むことができ、このモデルが全国に広がることを切に願っている」(舩木村長)

小菅村の舩木直美村長

 小菅村から車で約15分の隣接する丹波山村の木下喜人村長も、続いてこのように挨拶した。

「丹波山村も人口520人、村内にはお店が1つしかないため、高齢者は買い物に困っている。小菅村と同様に移住者が多く、人口520人のうち100人程度は田舎暮らしをしたいと移住してこられた方々だが、最寄りのコンビニまで車でも40分かかるため、日々の買い物はネットでしている。つまり、買い物は配送にほぼ100%頼っている状況だ。2024年問題で、いまは注文から翌日には届いている品物が、2日後、3日後に届くことになれば、生鮮食品は買えない。今回、4社と共同でこのような事業に参画できることは、本当に喜ばしい」(木下村長)

丹波山村の木下喜人村長

福山通運も初の試み、「全国展開を目指す」

 今回、小菅村と丹波山村への共同配送プロジェクトに参画した企業は4社。福山通運、富岳通運、セイノーホールディングス傘下の西濃運輸、エアロネクスト子会社の運送事業者であるNEXT DELIVERYだ。

 NEXT DELIVERYは、小菅村の橋立地区に「ドローンデポ」とよばれる荷物の一時集約拠点を設立、運営しており、ここから小菅村内の複数地区へのドローン配送や、買い物代行サービスなどの提供を行っている。

ドローンデポは「SkyHubStore」としても営業している(道の駅こすげで撮影)

 今回の共同配送でも、このドローンデポで各社の荷物を集約して、小菅村内や丹波山村内へのラストワンマイル配送を担う予定だ。また福山通運、富岳通運、西濃運輸は大月市や都留市から小菅村や丹波山村へ荷物を運ぶ業務そのものを、共同配送に変更することも予定。例えば、富岳通運の都留支店で各社の荷物を集約して、富岳通運が代表して山越えするという方法が考えられるという。

小菅村と丹波山村の地図(道の駅こすげで撮影)

 福山通運 常務執行役員の小林哲平氏は、「従来も、自社配達できないエリアについては、協力会社に委託してきた」と話し、今後の意気込みを語った。

「今回のような、特積み各社や自治体と連携しての共同配送は、当社としても初めての取り組みだ。いま2024年問題が注目されているが、ライフラインを担う会社として本取り組みを成功事例にして、全国へ積極的に展開していきたい。全国885の過疎地域は同じような課題を抱えている。それぞれの地域でしっかりとコミュニケーションを取って進めていく」(小林氏)

福山通運 常務執行役員の小林哲平氏

 富岳通運 専務取締役の佐藤正氏は、「当社は明治30年に、地元山梨で創業した会社だ」と自己紹介しつつ、これからの展望についても語った。

「地元山梨で、今回のような共同配送を担わせていただいたが、今後はセイノーさんや福山通運さんが、この事例を全国に展開していくことを祈っている。また、静岡県、長野県、神奈川県との県境にある地域は、まさに小菅村や丹波山村と同じ道を辿りつつあるので、このあたりを次のステージとして視野に入れていきたい」(佐藤氏)

富岳通運 専務取締役の佐藤正氏

セイノー河合氏、「今日からがスタート」

 現状、大月方面から小菅村や丹波山村に登ってくるトラックは、出発式の会場となった「道の駅こすげ」で休憩を取ることが多いという。しかし、道の駅こすげに停車するトラックの荷台は決して満載ではなく、どの運送会社も「空き」状態でトラックを走らせているのが実情だ。

 セイノーホールディングス 執行役員の河合秀治氏は、「そんな状況を見ながら、課題の多さを常々考えていた」と振り返り、このように話した。

「約2年半、小菅にお邪魔させていただきながら、共同配送をやるとずっと言ってきたが、いつから始めるのか、どうやってやるのか、本当にいろいろな課題があった。ようやく今日の日を迎えられたのは、福山通運さん、富岳通運さんのご協力あってこそ。また、複数の路線会社が連携し、自治体ともしっかりとタッグを組んで進めているのは、全国においても新しく今後の参考になるモデルだと考えている。今後は、2トンや4トンといった大きな車を満載にして荷物を地域まで運び、地域内は小さな車で配達する、リレー形式の共同配送を進めていく。今日からが我々のスタートだ」(河合氏)

出発式の様子

 NEXT DELIVERY 代表取締役の田路圭輔氏も、「我々は、ドローンを使って荷物の配送をやっていきたいと思っている会社。小菅村では毎日、買い物の悩みを抱える住民のために色々なサービスを展開している」と話し、このように想いを語った。

「サービス当初から願ってきた共同配送をスタートできて、本当に嬉しい。また、小菅村の方々に加えて丹波山村の方々にも、新しいサービスを届けられることを本当に嬉しく思っている。しっかりサービスを拡充して、小菅村、丹波山村の方々に満足していただけるように頑張っていきたい」(田路氏)

セイノーホールディングス 執行役員の河合秀治氏(左)、NEXT DELIVERY 代表取締役の田路圭輔氏(右)

 最後に、共同配送開始まで2年を要した理由を尋ねると、河合氏は「住民の方々へのヒアリングに徹していた」と明かしてくれた。

「いきなり外からやって来て、共同配送だ、ドローン配送だ、とか言うのは簡単だけれども、やはりここに住んでおられる方々が、目の前にどんな課題を抱え、それをどう解決していくべきなのか、まずはちゃんと把握するべきだろうと思った。そこで約1年半、私どものスタッフが実際に小菅村に住み、地域のイベントなどにも参加しご一緒させていただいて、皆さんが抱えている課題などいろんなお話を聞かせていただいた。その中で運送会社各社さんともお話する機会があって、非常に長い道のりだったが、今日を迎えることができた。これからの取り組みは必ず、住民の方々のための輸送網の確立につながると考えている」(河合氏)

 今後も、自家物流を行う地元事業者や、4社以外の物流企業などに向けて、共同配送への参画を呼びかける。共同配送のボリュームが増えてくれば、不採算路線の黒字化も夢ではないという。さらに、陸送とドローンによる空送の最適な配送手段の棲み分けや、地域のニーズに合った新たなサービス開発なども加速する。共同配送スタートは、ドローンを含む新スマート物流の社会実装に向けて、大きな一歩になりそうだ。