今年12月から始まるレベル4目視外飛行に向けて、ドローン物流の動きが加速している。機体開発事業を主とするACSLの鷲谷代表は、2030年におけるドローンの機体市場は3000億円規模に急成長すると予想しており、それと同時にドローン物流の市場拡大も見込んでいると発表した。そして2022年は、航空法改正を機にACSLなどのスタートアップ企業のほか、大手の通信事業者や航空会社が本格参入する市場に変わり始めた。

「AirTruck」を披露するACSLの鷲谷代表(左)とエアロネクストの田路CEO(右)。

 ドローン物流の実現を目指して国と民間企業の動きが加速するなか、ACSLとエアロネクストは物流専用のドローン「AirTruck」を開発。3月23日にデジタル田園都市国家構想の一環として新スマート物流推進協議会が開催した新スマート物流シンポジウムで初めて機体を公開した。

4D GRAVITYを搭載した初の量産機、物流専用ドローン「AirTruck」登場

独特なフレーム構造に流線型のボディを採用したAirTruck。

 理想的な空力設計を取り入れた流線型のボディが特徴的なAirTruckは、飛行中の機体の傾きに対し、搭載した荷物を常に水平に維持する4D GRAVITYを採用した初の量産機となる。エアロネクストおよび、その子会社であるNEXT DELIVERYは山梨県小菅村や山口県美祢市、新潟県阿賀町などで実証実験を含むドローン配送を実施してきた。AirTruckはこれらの実証実験で実績を重ねながら改良を続けてきたドローンであり、いよいよ量産製品として受注を開始した。

 ドローンの多くはカメラや測量機器、物資積載用装置などのペイロードを換装することで、さまざまな用途に使える汎用性の高いツールとして開発されている。しかし、ACSLとエアロネクストはドローン物流には専用設計のドローンが必要だと考え、共同開発に取り組んできた。なお、エアロネクストが開発した4D GRAVITYは、傾けられない食品や飲料を配送するためには必要不可欠な技術とされ、この技術は物流専用ドローンを見込んで2018年には完成させている。

機体の中心に80サイズの箱を積載可能。4D GRAVITYによって汁物や飲料なども運ぶことができる。機体は飛行中の姿勢で展示されていたため、進行方向に傾いていたが、荷物は水平のままだった。

 AirTruckには4D GRAVITYのほか、物流配送に欠かせない機能やノウハウが搭載されている。1つ目は目的地まで短時間で移動するための飛行速度だ。限られたエリアを飛行する点検や測量、農業では高速移動は求められないが、物流配送では配送時間が利用者の満足度につながる。そのため、空力を活かした流線型のボディを採用し、最高速度に重きを置いた設計としている。

 2つ目は最適な荷物の積載量を確保したことだ。ACSLの大型産業用ドローン「ACSL-PF2」のペイロードは3kg弱だが、AirTruckのペイロードは5kgに拡大した。物流における積載量は重量だけでなく、積載物の形状に合わせたスペースの確保も重要だ。そのため、地上の既存物流事業を担うセイノーホールディングスのアドバイスのもと、大部分のニーズをカバー可能な80サイズ(外形寸法合計80cm)の箱を搭載できる設計とした。より多くの荷物が運べるように、ドローンを大型化すれば良いのではないかという声も多いが、ドローン物流においては社会受容性もひとつの重要な課題となっており、住民に恐怖感を与えないことや受け入れやすいドローンを目指し、AirTruckの大きさを決定したという。

 そして、3つ目はドローン物流に特化した利便性だ。物流用ドローンは、貨物トラックのように1度に大量の荷物を配送することはできないが、少量の荷物を積載し、迅速かつ環境にやさしくピストン輸送できることが利点となる。このような使い方をするうえで、ドローンの運用は荷物の積み下ろし作業が頻繁に発生することとなる。この労力を低減するために、AirTruckは荷物を上部から積載し、下から切り離される構造にした。また、AirTruckの運用者はドローンに長けたオペレーターとは限らない。地方自治体や一般企業、ボランティア団体などが取り扱うことを考え、誰でも簡単な手順で荷物の積み下ろしが可能なつくりとなっている。

ドローン物流の仕組み、SkyHubの実装を推進する「新スマート物流推進協議会」を発足

新スマート物流SkyHubの仕組み。

 山梨県小菅村ではエアロネクストとセイノーホールディングスが共同でドローン物流に取り組んでいる。これは、セイノーホールディングスが担ってきた地上の既存物流と新たな空の物流をつなぐことで、ドローン物流を社会実装し、より利便性の高い物流配送を実現していくことが目標となる。そして、2021年11月にはSkyHubという仕組みでドローンを活用した物流配送サービスを開始した。

 SkyHubは荷物の集積および配送拠点となるドローンデポと、ドローンの離発着所であるドローンスタンドの2つからなる仕組みで、在庫を持たずに無人で運用できたり、ラストワンマイルの配送効率の改善などにつながる。また、小菅村のように人口減少や少子高齢化といった物流における地域課題を解決するひとつの施策となっている。

協定を締結した市町村長。左から松岡町長(東川町)、橋本町長(境町)、竹中町長(上士幌町)、舩木村長(小菅村)、渕上市長(敦賀市)。

 今回のシンポジウムでは小菅村のほか、北海道上士幌町、北海道東川町、茨城県境町、福井県敦賀市の市町村長が登壇した。5つの自治体はSkyHubやドローン物流を先行して地域に取り入れ、知見やノウハウを他の地域や関係者に共有していくことで、新スマート物流をより早く社会実装していくことを目標に、新スマート物流推進協議会を発足するとともに、協定締結式を行った。また、5つの自治体のほか、千葉県勝浦市、山口県美祢市、新潟県阿賀町もSkyHubの推進活動に取り組んでいる。

新スマート物流推進協議会について発表した小菅村村長の舩木氏。

 新スマート物流推進協議会を代表して小菅村の舩木氏は、「小菅村では新たな課題やさまざまなノウハウが蓄積されつつある。また、地域特性への対応や住民への説明といった、これまでにない経験を積んでいる。これらの培ったノウハウを多様な地域課題の解決に活かし、他の自治体との交流を促進していく。また、新スマート物流を通じて豊かな地域社会を実現するために広域連携協定を結び、地域物流の効率化を進めていきたい」と話した。

ドローン物流の実現に欠かせない採算性の考え方

 ドローン物流の社会実装に向けた課題のひとつとして、採算性があげられる。小菅村では配送料300円でサービスを提供しているが、舩木氏は「自動飛行で荷物を配送するとはいえ、荷物を準備するオペレーションの人件費なども考えると配送料300円では採算性は見合わない。先行して取り組んでいくためには、国からの補助などを受けながら進めていく必要がある」という。一方、セイノーホールディングスの執行役員 河合氏は「1社で採算性を成立させていくのは難しいが、地域、同業他社、関連企業と連携していくことでコストを抑えることが可能になる。地域の荷物を1か所に集約して共同配送すれば、費用の削減と配送の効率化が見込める。また、AirTruckは日本初の量産機であり、ドローンが量産されはじめれば、価格帯は軽トラックと同じ水準まで下がってくるだろう」とコストについて触れた。

 最後に新スマート物流推進協議会は、「参画する市町村の数を2~300規模に増やし、取り組みを加速させていきたい」と目標を発表。各自治体でドローンに関する各種申請の進め方や地域課題に対する解決策などを共有することで、スムーズなドローン活用を進めていきたい考えだ。