FIFISHシリーズでおなじみの水中ドローンメーカーQYSEA(中国)は、新たな水中ドローンのプラットフォームとして「FIFISH V-EVO」と「FIFISH E-GO」を発表した。V-EVOは5月発売、E-GOは8月~9月に発売する予定だ。V-EVOとE-GOは、6月に開催したJapan Drone 2023で展示され、E-GOは世界初公開となった。

 今回は、FIFISHシリーズの販売を担うCFD販売の王氏に、FIFISHシリーズのラインナップのコンセプトとともに両機種の特徴について話を伺ったので、今一度ラインナップを整理していこう。

Japan Drone 2023でCFD販売、ジュンテクノサービスらの合同展示ブースにて公開されたV-EVOとE-GO。画面左からW6、V6 PLUS、E-GO、V6 EXPERT、V-EVO。

ホビーユースから産業用まで多様なニーズに応えるFIFISHシリーズ

 QYSEAのFIFISHシリーズは、撮影を楽しむホビーユースから産業用まで幅広く展開しており、現在は5機種がラインナップされている。まずは5機種の特徴を紹介しよう。

ホビー/プロ向け機体のV6、V6s

FIFISHの名を周知させた、最もスタンダードな水中ドローンFIFISH V6。イエローの流線形のフォルムが印象的な機体。E-GOが新たなスタンダードとなることもあり、世代交代として生産終了となる。(出典:CFD販売)

 ホビーユースからプロユース向けの利用を想定した「FIFISH V6」はQYSEAのベストセラー機だ。2019年に発売を開始し、角ばった形状の水中ドローンが多いなか、水の抵抗を減らすために流線形のボディーを採用するなど合理的な設計が魅力となった。さらに、6つのスラスターで水中を360度自在に動き回れる高機動性、鮮明な4K UHDカメラと光量4000lmのLEDライトを標準搭載、最大稼働時間4時間(環境により変動)、最大潜航深度は100mと当時20万円以下で提供される機体の中ではハイパフォーマンスな仕様で、発売から長年支持された機体だ。

 王氏は、「当時は水中ドローンって本当に使えるものなのか?というユーザーの声が多かったが、V6はFIFISHの信頼を得ることに貢献し、プロユースでも有用であることを証明してくれた機体でした」と話す。

V6にオプションパーツを取り付けたいというニーズに応えたFIFISH V6s。(出典:CFD販売)

 水中ドローンに作業性を持たせるオプションパーツの登場が徐々に主流となってきた当時、V6にオプションパーツを取り付けたいというニーズに応えたのが「FIFISH V6s」だ。物を掴むためのロボットアームはこの時に登場した。5kgの握力で10kgまで引き上げることができる。また、バッテリーもV6から60%向上し、最長稼働時間は6時間(環境により変動)となった。「ロボットアームは、数百万円する法人用機体に搭載されているのが一般的でしたが、この頃から安価な機体に搭載されるようになりました」という。

点検などの産業を視野に入れたV6 EXPERT、V6 PLUS

産業用機体として開発されたFIFISH PRO V6 PLUS。(出典:CFD販売)

 次は、2020年に産業用機体として発売された「FIFISH PRO V6 PLUS」だ。V6と大きく異なる点は、距離ロックソナーと高性能レーザースケーラーを標準搭載していることだ。距離ロックソナーは、水中ドローンと被写体との距離を固定することができ、自動的に均一な距離を保ちながら撮影が可能となった。それに加え、目標物との距離も自動的に算出されるため、点検用途などで力を発揮する。また、ARスケーラーは、QYSEAが特許を取得した独自技術だ。AIビジョンアルゴリズムによって、ターゲットのサイズを自動的に誤差2cm以内で算出することができ、他社製品と迷っていたが、この機能が購入の決め手となったという声も多いという。

距離ロックソナーは、水中ドローンと被写体との距離を固定することができる。手動操縦で均一に距離を保っての横移動などは難しかったが、自動的に被写体と距離を取りながらの撮影が可能になった。
ARスケーラーは、AIによってターゲットのサイズを算出することが可能。

 これらの機能によって、被写体と一定距離を保ったまま水平移動し、撮影・計測ができるようになったので、撮影に集中しながら正確な計測がより簡単に行える。例えば、ダイバーが手持ちの水中カメラでクラックを発見したとしても、クラック位置の特定と精密な計測を行うためには、再びダイバーを登用しなければならなかったが、V6 PLUSを使用すれば、劣化の診断から場所の特定、周辺の計測まですべてが一度で済むことになり、作業時間もコストも削減できる。

「V6 PLUSの登場で法人ユーザーが圧倒的に増えました。V6/V6sよりも本格的な業務に利用される事例が多く、100台以上の販売実績となりました」という。

 使い勝手を向上する機能のほかに、最大潜航深度を150mに伸長し、4K UHDカメラと6000lmのLEDライトを搭載。そして、オプションパーツを取り付けるためのコネクタを1つ装備するなど、細かな仕様も見直された。

 国内では、農業用排水路・防火水槽の調査やダム・水力発電所の検査などで活用実績がある。ロボットアームやウォーターサンプラー(採水器)といったオプションパーツや、陸上からの外部給電システムなども利用可能となっている。

V6 EXPERTとPLUSは通電パーツと通電しないパーツを各1種類づつ取り付けられる機体。(出典:CFD販売)
V6 EXPERTは、20種類を超える多彩なオプションパーツが用意されており、水中でのさまざまな業務に対応している。(出典:CFD販売)

 2021年にはV6とV6 PLUSの中間を補完する機体として「FIFISH V6 EXPERT」が発売された。4K UHDカメラ、6000lmのLEDライトと、オプションパーツを取り付けるためのコネクタを2つ装備し、最大深度は100m。V6 PLUSのようなソナーやレーザースケーラーは別売りとなっているため、主に目視用途が想定されるが、V6に比べてバッテリー容量を2倍に増やすなどの改善も見られた。現場で使用できるオプションパーツは、イメージングソナーやレーザースケーラー、水中測位システムやロボットアームなど40種類以上と豊富でさまざまな現場で活躍する機体だ。

最も業務に特化した産業用中型機W6

産業用中型機のFIFISH PRO W6。外洋などの過酷な状況下でも作業ができる水中ドローンとして開発された。(出典:CFD販売)

 重量20kgと、これまでの水中ドローンに対してひと回り大きいサイズとなった「FIFISH PRO W6」は、2021年に発売。W6は波が高く、複雑な海流の中でも安定性を保ちながら水中作業を行える水中ドローンとして開発された。

 W6は、広い視野角で鮮明な映像を撮影可能なデュアル4Kカメラ、高精度のレーザースケーラーと測量アームを標準搭載。レーザースケーラーは、2つのレーザーを被写体に照射し、ビーム間(10cm)を参照して測量を行う。測量アームは、アームが分度器と定規の機能を有しており、ただ掴むだけでなく、構造物の傷やひび割れを測ることにも使用できる。オプションパーツを取り付けられるコネクタは5つあり、ARスケーラー、ソナーシステム、QYSEA U-QPS水中測位システム、ドップラー対地速度計、陸上からの外部給電システムなど豊富な機能を取り揃え、さまざまな点検作業にも対応した。

 王氏は、「産業用の本格的なROVは、大型機がほとんどですが、W6は大きすぎない中型機なので、セットアップも少人数で行えます。オペレータのほかにケーブルをさばく補助者がいれば、最小2名での運用が可能です。大型機並みの性能を誇りながらも低コストで提供できるのがW6なのです」と説明した。

 以上がFIFISHシリーズの機種となるが、中国国内向けには機体重量200kgの大型機「FIFISH X2」もラインナップされている。ユーザーの多様なニーズに応える品揃えであり、王氏によるとV6やV6 EXPERTを購入して機体の性能を実感したユーザーが上位機種を導入するというパターンも多いという。

 そして今年に入って新たなプラットフォームとして登場したのが「FIFISH E-GO」とV6の後継機「FIFISH V-EVO」だ。これによりV6とV6sは世代交代となり、生産終了を迎える。