コンパクトなボディに、ミラーレス一眼と同等レベルの4/3インチセンサーを搭載したMavic 3シリーズがデビューして早くも1年半が経過する。幅広い層に支持されている同シリーズにおいて、DJI JAPANは焦点距離の異なる3つのレンズを搭載した3眼カメラを武器に、さらなる進化を果たしたMavic 3 Proシリーズの発売を2023年4月に発表した。今回は、このMavic 3 Proを実際に手にしてレビューをお届けする。

洗練された工業デザインと機体性能

コンパクトにまとまったデザイン。アームを折りたためば持ち運びも便利だ。

 外見上、やはり目を引くのは3眼レンズのジンバルカメラだ。カメラの外観サイズは思いのほか大きく、機体が旧Mavic 3よりも小さくなったと勘違いするほどだ。166mm(1/2インチセンサー)・70mm(1/1.3インチセンサー)・24mm(4/3インチセンサー)のレンズを備え、プロポの画面をタップするだけで切り替えることができる。

3眼レンズ搭載のメインカメラ。
カメラはかなり大型化されたが動きはとてもスムーズだ。

 また、流線型のデザインや全方位の障害物検知センサーなどは、これまでのMavic 3シリーズと同様。機動性の高い機体性能と安全性を両立したデザインとなっている。

機体の前後上下に障害物検知センサーを搭載する。
上方の障害物検知センサーは広角、前後と底面は魚眼カメラとなっている。
アームは細く空気抵抗の少ないデザイン。
底面にはToFセンサー(下部、低空時の高さを検知)とLEDランプ(上部)も備える。

飛んでいるとは思えない安定飛行とジンバルのスムーズさ

 機体の動きはとても滑らかであり、そのうえ安定していて、想定している飛行ルートを難なく飛行させることができる印象だ。低速から加速にかけてのスムーズさや旋回時のドリフト(横滑り)の少なさ、そして、安定したジンバルによるブレの少ない映像など、非常に扱いやすい機体に仕上がっている。特に、望遠寄りのレンズの場合、手元が少し揺れただけでも画面がブレてしまうのだが、Mavic 3 Proでは、その心配がいらないほどに、ジンバルカメラの安定性が増しているのが分かる。

レンズの違いによる画角の変化

 続いて、今回のアップデートのメインとなる3眼レンズをチェックしていきたい。まず、実際に飛行させて好印象を感じたことは、レンズ交換をすることなく、画面タップひとつでレンズを切り替えることができる手軽さだ。手軽に空撮したい小型機においては、この機能はとても便利に感じた。

 ここからは実際に撮影した写真を基に解説していこう。まずはじめに、機体の位置を変えずに3つのレンズで撮影してみたい。166mになると驚くくらいズームできることがわかる。

左から24mm、70mm、166mm。
3眼レンズ比較 定点

 次に、焦点距離の違うレンズを使いながら、同じ被写体を同等の画角で撮影し、背景の見え方を比べてみる。ちょっとした岩を中心に構図を決めてみたが、背景の見え方や動き方に変化が付くことがよくわかる。特に70mmや166mmを使った際には、パララックス効果(被写体と背景で動くスピードが変わる現象)が出ており、これまで主流だった広角レンズとは少し違った画作りをすることができそうだ。

左から24mm、70mm、166mm。
3眼レンズ比較 画角

高度な撮影機能

 Mavic 3 ProはHDR(ハイダイナミックレンジ、暗さの限界値と明るさの限界値の広い高度な記録方式)にも対応している。D-LogとHLGはこれまでのMavic 3シリーズでも対応していたが、今回新しく「D-LogM」という方式にも対応した。

 D-Logは一般に言うところのダイナミックレンジが広く、色の補正・調整を前提とした記録方式だ。撮影したままのデータはグレイ系のフラットな色調となっており、色補正や色調整を行うことで色調破綻の少ない自由度の高い編集ができるようになっている。

 通常の撮影データ(都合上、「NORMAL」とサンプル動画では記載)はもともと色が乗っているので、意図を持った色調補正を施そうとすると、意図しない色が補正に引っ張られてバランスを崩したりノイズが増えたりなどの“破綻”を起こすことがある。Log撮影したデータは色補正・色調整を前提としているため、情報量が多く、全体をフラットに記録しており、編集者の意図に合わせて仕上げることができる。

 D-LogMはLog撮影をしつつ、より簡易的に色を整えることができる形式だ。D-Logよりは色の調整幅は狭いものの、画質や鮮明度を下げることなく、効率的に色の調整や表現が可能になる。

 HLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)はNHKと英国のBBCが開発したテレビ放送向けHDR方式。Log撮影はフラットなグレイ系の色調で記録されるのに対し、ほぼ見た目どおりの色が乗った状態で高画質記録できるため、そのまま放送に高画質な映像を配信することができる。

 上の参考図は、DJIから提供されているRec.709のLUT(ルックアップテーブル、Logデータを通常のモニターで自然な色調で見ることができる色調整数式データ)を編集ソフトでLogデータに当てた簡易的な画像であるが、その色表現の違いを見てほしい。

4K60fps・SS1/60。それぞれEV値が0.0になるようにF値を設定して撮影。

 NORMALは明らかに岩場などのハイライト部分が飛び気味だが、ほかは岩のテクスチャがわかるくらい表現されている。また、HLGは何も編集しておらず、撮影した素の写真だが、とても高画質なのでLIVE配信などでも使えそうだ。

 また、Logデータを見ると、LUTを当てただけのD-LogMが想定していたよりも綺麗なことに驚いた。D-Logは少し色がボケている印象もあるが、今回はLUTを当てただけなので編集者の意図にあわせて色調整を施したほうが魅力的な映像に仕上がるはずだ。

便利な飛行支援機能

 今回のレビューでは基本的な機能・性能を検証してみたが、Mavic 3 Proには他にもMavic 3シリーズより引き続いた「Waypoint(地図上の点と点を結んで自動航行する)」や「クルーズ機能(一定のスティック入力を継続する)」といった飛行支援機能も搭載されているため、とても便利だと感じた。実際、Log等記録方式の比較用映像は、直線的な動きではあるがWaypointによって飛行開始・終了位置、速度・高度などを一定に設定して撮影を試みており、GNSS(GPS等)から取得する位置情報の精度によって多少のズレはあるものの、GNSS感度が良好な環境であればかなりの再現飛行を行うことができる。

Mavic 3 Proがマッチするユーザー

 Mavic 3 Proは、軽量・コンパクトながら4/3インチセンサー搭載24mmレンズカメラや、70mm・166mmといった中望遠・望遠レンズを画面のタップのみで使い分けることができ、長時間かつ安定的な飛行ができる万能機だ。

 映画やCMなどのハイエンドな現場では、上位機種となるInspireシリーズのほうが使いやすく、求められる品質をクリアするかもしれないが、少人数で撮影を行う現場や移動の多い撮影現場、一部のTV番組撮影、ハイエンドを目指すコンシューマーなどの撮影では必ず重宝する機体となるだろう。特に、これほどコンパクトなのに4/3インチセンサーの高画質撮影ができ、バッテリー1本あたり43分の飛行(カタログ値)ができるのは、少人数チームには強力なツールとなることは間違いない。ぜひ手にとって確かめてほしい。