2023年4月1日付で、ついに自動運転の実用化を盛り込んだ「道路交通法の一部を改正する法律(以降、改正道路交通法)」が施行された。本格的な自動運転時代の号砲が鳴るなかで、自動運転のレベル4走行車は「特定自動運行」に、自動配送ロボットは「遠隔操作型小型車」と分類・定義されることになった。ここでは「無人地上車両」(UGV:Unmanned Ground Vehicle)の観点から、自動配送ロボットの実証実験を進めてきた楽天の取り組みと将来の事業展望について、同社のUGV事業課 シニアマネージャー 牛嶋 裕之氏に話を伺った。

楽天グループ株式会社 UGV事業課 シニアマネージャー 牛嶋 裕之氏

そもそも4月に改正された道交法でロボット配送の何が変わるのか?

 自動運転の実用化を盛り込んだ改正道路交通法が、この4月1日に施行され、本格的な自動運転時代が幕を開けたが、この改正によって自動配送ロボット、いわゆるUGVはどのようなメリットが得られるのであろうか?まずは改正道路交通法について、簡単におさらいしておこう。

2023年4月1日付で施行された改正道路交通法。自動運転の実用化を目指し、配送ロボットの公道走行ルールが盛り込まれた。(出典:楽天)

 冒頭で触れたように改正道路交通法では、ドライバーなしの自動運転を可能とするレベル4走行を「特定自動運行」とし、都道府県公安委員会からの許可制で走行できる。一方、自動配送ロボットなどは「遠隔操作型小型車」と定義され、届出制で公道での走行が可能になった。

(出典:経済産業省)

 今回、話の中心となる自動配送ロボット(遠隔操作型小型車)については「人または物の運送を行う原動機を用いた小型車」となり、「遠隔操作によって通行させることができるもののうち、車体の大きさや構造が歩行者の通行を妨げることがないよう一定基準を満たし、かつ非常停止装置を備えたもの。歩道または路側帯を通行すること」を基本としている。

 これまで自動配送ロボットは、特例措置として警察署長からの許可制で走行が認められていたが、届出制になったことで、より企業の参入が容易になったといえるだろう。通行方法に関しても、基本的に歩行者と同様の交通ルールが適用される。したがって、UGVは歩道、路側帯、道路の右側端での通行が可能だ。ただし歩行者には進路を譲る必要があり、歩行者の通行を妨げないように、車体サイズはW70×L120×D120cm以下、最高時速6kmとし、非常停止装置の搭載も求められる。つまり既存の電動車イスと同程度の要件と考えればよい。

 もちろん道路交通法の改正以前にも、道路使用許可を取得することで、国内で自動走行ロボットの実証実験がスタートしていた。機体のパイオニア的な存在としては、自動運転技術で有名なZMPが複数店舗の注文を扱う本格的な実験を開始したり、パナソニックも近接保安員なしの実証実験を進めてきた。ほかにもティアフォーや、Hakobot、LOMBYなどのプレイヤーが注目を浴びている。

ECサイトを持つ楽天、これまでのロボット配送の取り組み

 そのような競合の中で、楽天は実用的な自動配送ロボットを見据えた実証実験を早期から実施してきた。同グループではドローン配送実験も含めて、未来の物流の在り方を模索しているところだ。特に同グループはECサイトを有しているため、実用面において他社とのスタンスが異なっている。

 牛嶋氏は「近年、楽天市場などのインターネット通販の取り扱いが増加するなかで、物流の担い手が減少しています。将来的に宅配需要の拡大に対応できず、地方での買い物弱者が増えるものと予想されます。そこで我々は、従来の物流を維持するためにロボット・ドローンによる無人化と省人化を進めています。具体的には、地域の小売店や飲食店からのデリバリーや、将来的にはインターネット通販・ネットスーパーのラストワンマイル配送に使っていきたいと考えています」と説明する。

これまでの楽天のロボット配送の取り組み例。写真は東急リゾートタウン蓼科のグランピング施設での配送実験。(出典:楽天)

 同グループは、2019年からロボット配送の実証実験を推進してきた。たとえば千葉大学のキャンパス内で、生協の飲食物や文房具などを研究棟に運んだり、2020年には東急リゾートタウン蓼科(長野県)のグランピング施設で、宿泊者へのバーベキュー食材などの配送実験を行ってきた。これは最近のレストランで利用されている配膳ロボットの屋外版のイメージとして捉えればよいだろう。

 また2021年には、筑波大学構内の宿舎周辺と一部の公道において、ホンダが開発した自動配送ロボットと楽天モバイルの回線を使い、遠隔監視による配送実験を試みた。2019年当時は、まだロボットが公道を走行するルールが定まっていなかったため、あくまで私有地での実証実験に留まったが、2020年から公道で実証実験を可能にする特別措置がとられるようになり、公道での実験も可能になった。