ドローンの活用に向けてさまざまな実証実験が進められるなか、神戸市、楽天モバイル、楽天ヴィッセル神戸(以下、ヴィッセル神戸)の3者は「ノエビアスタジアム神戸」において、5GとARを活用し、新しいスタジアム体験の創出と神戸市内の回遊性を高めることを目的とした「ドローン遠隔旅行」の実証実験を3月8日に実施し、そこで行われた内容を報道に向けて3月17日に公開した。

 実証実験の内容は、スタジアムの観客席からコントローラーを使用し、公共交通で15分ほどの場所にあるハーバーランドの海上を飛行するドローンをリアルタイムに操縦して上空からの映像を楽しむというもの。ARコンテンツを組み合わせて観光地の情報を提供したり、空に浮かぶアイテムをドローンでキャッチするとプレゼントがもらえたり、ゲーミフィケーションの要素も盛り込まれている。

 楽天モバイルとヴィッセル神戸は今回以外にも、新しい観戦体験を提供するため、楽天グループのアセットや5G、VPS(Visual Positioning System)、AR等の技術を活用した実証実験を行ってきた。また、神戸市は2018年から楽天グループと、市民サービスの向上と地域の活性化を目的とする包括連携協定(※1)を結んでおり、今回はハーバーランドでドローンを飛ばす港湾エリアの使用許可などで協力している。その神戸市では以前から、市外からもたくさん訪れるヴィッセル神戸の観客たちが、観戦後に観光したくなるような魅力を発信したいという課題があり、3者による実証実験が実現した。

※1:楽天、神戸市と包括連携協定を締結(楽天グループ株式会社)
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2018/1201_01.html

 3月8日のJリーグ開幕にあわせて行われた実証実験は、ヴィッセル神戸のファンである2組の家族を招待し、ドローンの操作は主に子供たちに楽しんでもらった。

 ドローンはDJI Mavic 2 Proを使用し、ハーバーランドとスタジアムを5Gネットワーク経由で離れた場所からも遅延無く操縦できる。ただし、ハーバーランドは観光船の航行も多いため、沿岸から安全に飛行できる海上エリアまではパイロットが操作し、充電やメンテナンスなども行う。操縦者はスタジアムにいるが、ドローンが目視できる範囲にパイロットがいるので、いわゆるレベル4飛行(第三者上空の目視外飛行)の扱いにはならないという。

操縦を体験する参加者の様子。
ドローンのカメラで撮影した映像を見るハーバーランド側の様子。

 操縦体験の手順だが、最初にスタジアムにいるスタッフがコントローラーの画面に表示される俯瞰地図で、スタジアムの場所とドローンがある場所を説明してくれる。次にドローンの操作方法がレクチャーされ、安全に操作できるエリアに入ったところでコントローラーを手渡された後はユーザーが操作する。

操縦手順を解説。

 ユーザーが操作できるのは上昇下降と前後の移動と静止状態での旋回だが、コントローラーの扱いはとても簡単で、ゲーム機に慣れている子供たちは問題なく操作できていたようだ。ドローンから見える360度の景色を楽しんだあと、その景色の中で画面に浮かぶアイテムをキャッチしたり、ゲートをくぐったり、ドローンの操縦そのものも楽しめたようで、反響は良かったという。

参加者がドローンを操縦する様子。
(出典:楽天)
ドローンの映像にARを組み合わせ、ゲーム要素も追加されている。

 「追加料金を払う価値はある」「ARが仮想旅行の体験を向上させていた」という感想があった一方で、「ゲーム性の高いアイテム獲得は観光モードからゲームモードに意識が変わってしまう」という意見もあった。もし、今後サービスを提供する場合は、コンテンツの作り込みなど検討項目はたくさんありそうだが、今回は実装に近い環境でサービスを体験してもらい、意見を聞くことや課題を洗い出すのが目的で、実現する予定は決まっていない。

 通常であればサービスのテストを行う段階で実証実験を行うところだが、こうした研究的な段階でニーズがあるかどうかを検証できるのは3者の協力関係があるからで、初期段階のうちにいろいろアイデアを試せる実証フィールドから得られるものは多くありそうだ。

 記者に対してはもう1つ、普通は入れない場所を4K360度映像で視聴できるVRスタジアムツアーのデモも行われた。バックヤードを歩きながら周囲を360度見回すことができ、ロッカールームや選手がピッチに入る通路など臨場感ある体験が楽しめた。撮影にはInsta360が使われたが、例えば小型のドローンで自在に見ることができれば、付加価値の高いコンテンツが制作できるかもしれない。

 ドローンのエンターテインメント分野での利用はまだ少ないだけに、今回の実証実験をヒントに新しい動きが始まることに期待したい。