米国のCartken製の自動配送ロボットを独自にカスタマイズして利用
直近では昨年5月から、茨城県つくば市内の公道で、小売店や飲食店の商品を配送するサービスを開始している。牛嶋氏は「今回は短期間の限定的なものではなく、我々のお客様に日常的に利用していただくことを念頭に置き、長いスパンで実サービスに近い形での取り組みを進めています。つくば駅周辺は開発が進んでおり、遊歩道も整備されているので、この遊歩道を通って、お客様のマンションやオフィス、公園・広場などに商品をお届けしています」と語る。
すでに西友とスターバックスの商品を皮切りに、つくば駅周辺のマンションや戸建て、オフィスなどに商品を配送してきた。サイズの異なる2台のUGVを採用し、夜間や雨天時も含めて毎日、最大11便(指定の配送時間帯)×2=計22便で対応してきたが、2023年4月末時点では、先行した西友つくば竹園店からの配送は店舗閉店に伴い終了し、スターバックスからの配送は一時休止しており、その代わりにBeer & Cafe Engiの商品と、楽天ファームの冷凍野菜の注文をスマートフォン向け専用サイトで受けている。
▼楽天ファーム
https://agriculture.rakuten.co.jp/
同サービスによる商品の注文方法と受け取りの流れは以下のとおりだ。
この注文・配送システムは、楽天側で独自に開発したもので、一元的な管理が行えるようになっている。これにより最短20分での配送が可能になるという。また現在、指定配送先は78カ所ほどあり、そのルートもあらかじめ設定されている。ユーザーの要望により、配送先も順次拡大していく予定だ。
商品の配送中は、ユーザーが専用サイトからロボットの位置や到着時刻を確認でき、到着時には自動音声電話やSMSで通知が届く仕組みなので利用者も安心だ。マンションなどでは、エントランスまでロボットが来るので、そこで受け取ればよい。
気になる自動配送ロボットに関しては、今回は国産ではなく、海外製を採用した。米国のCartken製で、三菱電機が本サービス向けに調整したものとなる。大きな機体はサイズW56×L97×H96cm、小さな機体がW46×L71×H59cm。いずれも最高速度は6km/h。ただし現状の運用は、遠隔といってもロボットの走行を近くで見守る保安員が付いている。これは街づくり会社である「つくばまちなかデザイン」協力のもと、運用しているという。
▼Cartken
https://www.cartken.com/
▼つくばまちなかデザイン
http://www.tsukumachi.co.jp/
「CartkenのUGVを採用した理由は、海外でのサービス実績が豊富で、夜間・雨天時の走行ができるためです。ただし、そのまま利用するではなく、我々も専用ロッカーや保冷ボックスを開発して、冷凍食品を配送できるようにしたり、夜間対応の照明をつけて取り忘れを防止したりと、工夫を凝らしています」(牛嶋氏)。
今回の実証サービスの効果と、乗り越えるべき課題とは?
今回の実証サービスから約1年経ったが、実際の効果はどうだろうか?まず配送元であるBeer & Cafe Engiでは、これまでデリバリーサービス自体を行っていなかったため、あらたなオンデマンドの無人配送サービスとして一定の効果は得られたという。また、利用者からは「スーパーからの配送は米などの重いものや、よく利用する商品を運んでもらえるため便利だった」という声も多かった。
飲食業や小売業では商品を販売するため、商品価格に配送サービスのコストを少し転嫁することで、採算をとることはできるだろう。一方で楽天のようなECを主体とした配送サービスの場合は、やはりロボット配送コストが重要視される。現時点ではユーザーへの配送は無料だが、今後はコストを下げながら採算ラインに乗せていく方針だという。
牛嶋氏は「現状ではロボットに人が付いているのでペイしないでしょう。遠隔オペレータのほうも、付きっ切りで1台のロボットを監視するのではペイしません。しかし今回の改正道路交通法によって、近くで見守っていた人をなくせるようになりました。また複数のロボットを、1人の遠隔監視オペレータで同時対応できるよう工夫すれば、さらに運用コストを下げられるという試算が出ています」と自信を見せる。
楽天としては、今回の改正道路交通法に基づいて配送ロボットを運行できるようにして、こういったコスト面での課題を解決していく意向だ。道路交通法に則って運行するには、まずロボット自体の安全性を担保するために、ロボットデリバリー協会の安全基準の審査を受ける必要がある。それをクリアしたら、冒頭の都道府県公安委員会に届け出て受理してもらう。楽天では、その届出に向けた準備を行っているところだ。
▼ロボットデリバリー協会
https://robot-delivery.org/
まず、つくば駅周辺でノウハウを確立。将来的なドローン&UGV連携は適材適所で!
今後の展開について、楽天は改正道路交通法に基づく無人の配送サービスを、つくば駅周辺で確立し、それを地元で定着させてから、このノウハウを持って他地域での展開を図っていくという。
牛嶋氏は「具体的な地域については未定ですが、つくば駅のように小売店や飲食店が多く、配送できる商品が揃っている場所になるでしょう。また配送先も住宅やオフィスなど、サービスの需要がある場所を狙っています。ロボットの運行は、歩行者が動ける場所であれば対応できるので、制度上で基本的な制限はありません。我々が採用した配送ロボットは、ある程度の坂道や段差があっても対応できる性能があるため、この点も心配していません」と今後の展開を語る。
楽天は、これまでUGVに先行して離島や山間部へのドローン配送などの実証実験も行ってきた。こういった人による配送が難しい物流困難地域において、ドローンとUGVの連携も考えられるが、現時点では適材適所でそれぞれを活用していく方針だという。
いま物流業界では、ドライバーの時間外労働の上限が規制される「2024年問題」がクローズアップされている。実際に物が運べなくなる物流クライシスが現実問題として迫るなかで、ドローンとUGVの活用が課題解決のキーとなるだろう。これによりロジスティクス改革が一層進展していくことに期待したい。