茨城県境町、エアロネクスト、出前館は2023年4月5日、デジタル化やドローン等の次世代高度技術の活用による連携協定式・出発式を開催し、出前館アプリと新スマート物流SkyHubを連携した、町民向けデリバリーサービスを提供開始すると発表した。

左から、出前館 代表取締役社長 藤井英雄氏、茨城県境町 町長 橋本正裕氏、エアロネクスト 代表取締役 CEO 田路圭輔氏

 茨城県境町の橋本町長は、茨城県境町とエアロネクスト、セイノーホールディングス、BOLDLY、セネックの5者が、2022年10月より内閣府のデジタル田園都市国家構想推進交付金(デジタル実装タイプ TYPE2)に採択され取り組んできた、ドローンや境町で定常運行する自動運転バスをトラックなどの既存物流と組み合わせて物流を最適化する「新スマート物流」の実用化に向けた実証を土台とし、本サービスを運用開始できたことを歓迎して、このようにコメントした。

 「小さな自治体には、デリバリーサービスがないところが多い。境町でも、道の駅にピザーラさんが出店してくれたが、買いに行かなくてはならない。また町内からは、商店が消えていっている。出前館さんとドローンが組み合わさって、配送サービスを提供してもらえることで、『自分で買いに行かなくても、食料や日用品も届けてもらえるんだ』という気づきが広がると期待している。そして、境町の取組を見て、全国各地で同時並行でデリバリーサービスが始まると、『住み続けられる』ということが分かってくるのではないか。困っている自治体の助けになれればと思う」(橋本町長)

茨城県境町 町長 橋本正裕氏

エアロネクスト田路社長“町まるごとECモール化”を発案

 本サービスの全体像はこうだ。出前館アプリ内に、SkyHub「ドローンデポ境町」が出店する。ドローンデポとは、エアロネクストとセイノーホールディングスが開発したドローン配送と既存の陸上輸送を融合した新スマート物流「SkyHub」の拠点となる場所の総称で、全国で5か所目となる「ドローンデポ境町」は2023年2月3日に開所している。そして、ドローンデポ境町が、境町町内にある商店や飲食店の品物を代理販売する形で、出前館アプリ内で品物を取り扱い、注文を受けた品物のデリバリーサービスの提供も行う。なお、スマートフォンや電子マネー決済に親しみのない高齢者などを考慮して、当面の間はカタログ配布による電話注文も受け付ける。

アプリの画面

 配送手段は、ドローンレベル3飛行による空輸と、トラックによる陸送を組み合わせる。配送料は1回500円。ドローン配送は、境町町内にドローンの着陸地点となる「ドローンスタンド」を設置して、飛行ルート申請許可を取得し次第、順次増やしていく予定で、2023年度内のレベル4飛行を目指す。陸送は、当面はドローンデポ境町を運営する、エアロネクストの子会社NEXT DELIVERYが担うほか、BOLDLYとセネックが手がける自動運転バスの活用も見据える。

 ドローンデポ境町への出店数は、2023年4月5日のサービス開始時点で17店舗。品数は、約300品目だ。スーパーやドラッグストアが出店すれば、品数は飛躍的に増えることが予想される。また今後、境町商工会会員のうち飲食店などを重点的に参画を呼びかけ、“町ごとECモール化”を図ることで、住み続けられる町づくりへの貢献を目指す。

 “町ごとECモール化”を発案したエアロネクストの田路社長は、ドローンデポは新スマート物流で荷物を集約する拠点でもあるが、買い物代行サービス、無人店舗サービス、デリバリーサービスなど、さまざまなサービスを、地域の課題や特性に合わせて提供していく拠点であると説明し、このようにコメントした。

 「出前館にSkyHub Delivery境町として出店して、境町町内のお店にはSkyHub Delivery境町に出店してもらう、町をまるごとECモール化する構想を、出前館の藤井社長にお話したところ、出前館ではすでにモール形式にチャレンジされていたが、“地域をまるごと”というのは初めてとのことだった。この座組みなら、出前館さんのサービスを日本全国津々浦々までお届けできると考えている。いまは、午前と午後の2便体制だが、まずは知っていただいて、便利だと思っていただき、24時間365日ドローンのオンデマンド配送で荷物をお届けしたい」(田路社長)

エアロネクスト 代表取締役 CEO 田路圭輔氏

 出前館の藤井社長も、エアロネクストとは2021年に横須賀市で行った、日本初のオンデマンドドローン配送サービス実証実験で、新型コロナウイルス感染症の対応で昼夜なく勤務する医療従事者に、吉野家の出来立ての牛丼を届けたときから、ドローン配送の活用や協業について検討してきたと説明し、このようにコメントした。

 「今回のように、出前館のシステムを提供して連携することで、我々のサービスでは実装できないエリアにも、サービスを展開していける。地域の加盟店さんや住民の方にご利用いただくことで、地域の買い物弱者の方々の支援のみならず、地域の雇用も生み出せると思うので、今後も自治体さんと連携してやっていきたい。また、ドローンではすぐに運べないかもしれないが、処方薬も含めて医薬品の配送なども、積極的に手がけていきたい」(藤井社長)

出前館 代表取締役社長 藤井英雄氏

将来的には、自動運転バスとの連携も

 境町は、全国的にも珍しく、地域住民が日常生活で利用できる自動運転バスを実用化している。近い将来、配送手段として、この自動運転バスへの貨客混載も視野に入っているという。田路社長は、「配送先が密集している市街地は、ドローンよりも陸送のほうが配送効率が高いと考えている。一方、市街地から離れた地区への配送は、ドローンのほうが効率がよいのではないか」と話す。今後は、エアロネクスト、セイノーホールディングス、BOLDLY、セネックの4社で、配送の最適化について協議する予定だ。橋本町長は、「境町で改善したことを、ぜひ他の困っている自治体にも展開してほしい」と期待を滲ませる。

出発式で離陸ボタンを押す田路社長、橋本町長、藤井社長(左から)

 出発式では、橋本町長が出前館アプリで、ピザーラのピザを注文して、出来立てのピザが出発地までSkyHubトラックで運ばれた。

出前館アプリでピザを注文する橋本町長
注文内容はスタッフがリクエストした

 また、ピザの到着を待つ間に、出前館のロゴがあしらわれたドローンに、安全祈願も行われた。

ドローン安全祈願の様子
テープカットするところ
関係者による記念撮影

 続いて、ピザを搭載したドローンが離陸。出発地点のすぐ隣の道路は、車の往来が多く、レベル3飛行では車の上空を横断できないため、車が通り過ぎるのを待ってから利根川の上空へ移動したのち、高度約100メートルを約2キロメートル飛行して、住民にピザを届けた。将来的にレベル4飛行が可能になれば、このような運用上の非効率も解消されるのではないだろうか。

トラックからドローンへピザを載せ替えるところ
ドローンの離陸前チェック
ドローンが離陸したところ