2022年12月に改正航空法が施行され、ドローンを取り巻く環境に変化が訪れました。ドローンの社会実装が本格化していく中で、安全性や人材の育成が重要になってきます。VFR株式会社は、パソコンの製造技術のノウハウをドローンの量産技術に生かし、さまざまな関連ソリューションを提供しています。

 当連載では、VFR 代表取締役社長 湯浅 浩一郎氏が業界の著名人と対談を行い、ドローン産業で直面している課題や展望について議論を交わします。

 今回は、東京大学未来ビジョン研究センター特任教授であり、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)理事長を務める鈴木 真二氏とともに、ドローンを安全に利用するために大事なことや、ドローン業界に必要とされる人材、利用する企業や個人に求められる事柄をテーマに対談しました。

新しい航空法が施行され、ドローンは実装のフェーズへ

湯浅  2022年12月5日に新しい航空法が施行され、ドローンの利用環境が整ってきましたが、ドローンを広く普及するためには安全な活用が必要です。鈴木先生は2014年頃からさまざまな講演や著書の中で、リモートIDの必要性やセキュリティの話をされていましたね。

鈴木  はい。2015年に航空法が改正されたことで、ドローンという存在が世間に認知されました。それまでは空を飛ぶものであるにも関わらず、航空法とはまったく無縁の存在だったのです。これが日本におけるドローンの制度の始まりとなります。制度化の準備に時間がかかり、ライセンス制度や機体の認証制度は2022年12月5日に施行されました。ビジネスでドローンを使う場合には特に一定のルールが必要ですから、ようやくそれが整った形です。

湯浅  2015年頃にドローンブームが起こり、さまざまな企業の方がドローンのライセンスを取りに行くという現象が見られました。その時点では民間資格しかありませんでしたが、2022年12月5日から国家資格である「無人航空機の操縦者技能証明制度」が開始されました。これによって、今後はどのように変わるのでしょうか。

鈴木  今までは民間でそれぞれ独自にルールを作って証明書を出していましたが、国が行うとなるとすべて統一されます。統一されたルールに則って講習や試験を受けて申告するという、自動車の運転免許と同じ形になります。

湯浅  ドローンの国家資格化に伴い、機体認証制度も開始されます。機体の認証は、弊社のようなメーカーが取ろうとすると結構厳しいと聞いたのですが、日本は厳しめのルールになったのでしょうか。

鈴木  ルールは今後実際に利用しながら適用の範囲を緩和していくのではないかと思います。どこまで緩和していけるかという議論がまだ十分できていないので、実情に合わせてルールを作り込んでいく必要があります。ルールができたからこれで完成、というわけではなく、利用しながらみんなでいいものを作っていくという姿勢です。

鈴木 真二 氏

湯浅  ルールができたことでドローンが実装のフェーズに移りました。弊社が開発したドローンポート(据え置き型のドローン格納庫)も、ブルーイノベーション様と共に仙台に設置しました。私たちのようなベンチャー企業がこのような社会インフラを作るのは本当に大変だなと感じましたが、なんとか実装はできました。まさにこれから利用をしていかなければならないのですが、安全性に関して課題があります。

鈴木  機体が認証され、ライセンスがあっても、それで安全が保たれるかというとそうではなく、実際のオペレーションの中で安全確保していかなければなりません。

 スイスの航空局の方が中心になって「SORA(Specific Operation Risk Assessment)」という安全確保のガイドラインを作りました。そこではリスクを評価するために、初めに「どんな機体を、どんな環境で、どんな人が、どんな使い方をするのか」というところをはっきり定義しています。そこでリスクの評価をしっかりと行い、もしもリスクが共有できない場合はその解決策を提案して、リスクを低減することでオペレーションしていきます。

 SORAは、機体だけではなく、それぞれの部署が一体となって安全確保していこうというコンセプトで作られています。新しい技術だからといって、何でも使えるものを使うとなると、過剰な要求になってしまいますし、十分な性能を発揮できません。十分にその性能を発揮するための環境を定義して、そこで制限を設けたうえで使用するということを各事業者が認めるというコンセプトで作られているので、非常に合理的です。

湯浅  SORAのルール作りは比較的ヨーロッパ主導かと思いますが、これは日本の政府含め関係者にはどの程度理解されているのでしょうか。

鈴木  日本とヨーロッパでは法律や環境が異なるので、日本の環境に合わせて作り込みをしています。福島ロボットテストフィールドがそれを担っており、2022年12月5日に公開しました。

 福島ロボットテストフィールドは私が非常勤で所長を務めています。全国の普段使用されているトンネルや橋梁等を用いた実証実験は現実的ではありません。そこで、テストフィールドに模擬的なインフラ構造物を設け、常時実証実験を行える環境を整えました。専門家が実験を重ね、新たなガイドラインを作成したり、教育法やトレーニング方法を開発しています。今回はドローンの安全評価のガイドラインを、ロボットテストフィールドで検証し、内容の見直しと改善を図りました。

技術、ヒューマンリソース、インフラ的環境の3つの歯車をうまく回していく

湯浅  ドローンの社会実装が進んでいく中で、安全にドローンを利用するために検討しなければいけないことはなんですか?

鈴木  技術、ヒューマンリソース、インフラ的環境の3つです。自動車を例に挙げれば、まず自動車自体が故障していては安全ではありません。そして運転免許を持った操縦者が自動車を運転しなければなりません。それから信号や道路の整備も必要です。このようにすべての環境が整って初めて安全に利用することができます。さらに技能の面では、ノウハウだけではなく、知識と駆使できる技能が必要です。

 ヒューマンリソースに関しては、ドローンスクールが担っています。当初は、ドローンスクールがビジネスとして本当に普及するのか不安でした。例えばラジコンでは、ラジコンショップに通ってベテランの人からマンツーマンで指導を受けるという文化がありました。ドローンも同様の文化で広がっていく可能性がありましたが、ドローンに関する知識や操縦技能に対するニーズがあり、ドローンスクールが普及し始めたのです。「ドローンを使いたい」という人が多く出てきたところがドローンのすごいところだと思います。

 スクール制度は2016年頃から本格的に始まり、現在JUIDAの認定校は300校ほどあります。このようにドローンに精通した人を育成することは重要ですが、機体や飛行ルール、環境整備といったものも重要です。今後も技術、ヒューマンリソース、インフラ的環境の3つの歯車をうまく回していかなければなりません。

湯浅  人材育成が進む一方で、現在のドローンはIT機器や家電ほどの品質が保たれていないという印象があります。ハードウェアについてはどのようにお考えでしょうか?

鈴木  航空機が誕生した時も同様でした。それが100年という長い歴史の中で改善され、収束してきました。ドローンが今の航空機と同様の安全性を確立するには、やはり長い時間がかかるのは当然だと思いますし、それに向けて利用者の意識も向上していただきたいと思っています。それをどのようにやっていけばいいのかということを、全体で考えることが重要です。それは会社の競争領域ではなくて、協調領域です。業界が協働してこの産業を育てていく必要があると思います。

 どのようなことを考えてルールを作り、機体を設計し、試験をすればいいのかなどを検討するNEDOの「DRESSプロジェクト」という取り組みがあります。これは一旦2022年3月に終了したのですが、航空法の改正によって新しい制度が始まるため、12月末まで延長しました。メーカーの従業員約100名に参加していただき、いくつかのグループに分かれて、具体的な検討をしました。最初に、基盤となる安全性や信頼性や考え方というところをみんなで共有できるようにしていきました。

 次のステップとしては、どんな機体を設計すればいいのかを検討します。図面を書いて人を集めて設計してという設計のプロセスから、安全性をきちんと確保していくためにはどうしたらいいのかということを次のプロジェクトで継続的に検討していきます。そうして基盤が作られていくのだと思います。

 これは国のプロジェクトなので、ノウハウなり知識なりを一般に広げられるようにドキュメントにして、全体で共有できるようにしていく予定です。

湯浅  わかりました。現在、私たちはカスタマーサポートに力を入れています。弊社はドローンのブランドは持っておらず、いわゆる量産設計から製造・販売のサポートを行っていますが、それだけではなく、アフターサービスにも注力しなければならないと考えています。テクニカルサポートでは、作った製品に対してどんな不具合があったかといったナレッジの積み上げに取り組んでいます。

湯浅 浩一郎 氏
VFR株式会社 代表取締役社長

鈴木  それは素晴らしいですね。これからは販売するだけでなく、メンテナンスを前提にライフサイクルとして収益化が可能な構造に持っていかなければなりません。

湯浅  それから、一定の品質を保った業界標準の部品を作っていかなければならないと思っています。各企業から販売されている同じようなパーツは標準化していった方が良いと考え、そのような取り組みを始めています。

鈴木  素晴らしいと思います。現在のドローン開発・製造では、問題が発覚してもサプライチェーンがしっかりしていないという課題があります。例えば、ある部品を取り寄せてドローンを組み立てても、次に取り替える場合に同じ部品の取り扱いがないといった状況があります。各社が同じものを使うということで供給が安定すれば、メーカーもOEMとして特徴のあるものを開発していけば良いのです。

 航空機は異なる機体であっても構成部品は同じメーカーが納めています。見た目は違っても基本は一緒という状態です。そうした産業構造にならないとコストも下げられないし、数も確保できません。そこはぜひVFRに期待したいですね。

対談では茶道経験者である湯浅氏がお茶をたて、歓談するシーンもあった。

ドローンをどのように管理していくかはこれから解決すべき課題

湯浅  ドローンの運航では、さまざまな課題があると思います。例えば、周辺で飛行物体が確認された場合に、それをどう避けるのか、など。こうなると私たちのようなメーカーではなく、本当に国レベルでどう考えるのかということになると思います。

鈴木  基本的には官民協議会で作成したロードマップに基づき、ドローンの運航管理を3つの段階で実装していくことが決められています。最初は運航管理システム(UTM)を使って飛行させてくださいという推奨レベルです。次のステップでは、どんなUTMで管理しているかということを国が認証します。そして、最終的にはそれを必要な区域で義務付けていく予定です。

 現在の課題は、災害時に同じ空域で多数のヘリコプターやドローンが飛び交うということだと思います。そういった管理システムは国のプロジェクトでこれから検討されていくと思いますし、DRESSプロジェクトでもUTMの開発を行っていたので、そういうものがこれから使われていくと思います。

 新しいやり方なので、一度にすべては整備できません。そのため、まずは小さなシステムで試し、それをスケーラブルに国が認めて義務付けていくという段階的な実装を目指していこうとしています。

 航空機は国が航空管制官を使って全部管理していますが、ドローンは数が多いし、そこまでリソースを割けないので、どのように管理していくかというところはまだこれから解決していくべき課題ですね。

 アメリカでは、空港周辺でドローンを飛ばす場合、今どこを飛んでいるかということを管制塔に連絡しなければいけません。アメリカは国土が広いため、すべてを管理することはできません。そこで、空港周辺で飛行機同士が接近しているかどうかを認識し、回避する衝突防止機能をドローン同士でも実装しようとしています。

 ヨーロッパは日本と環境が近く、管理された空域が特定できるので、航空管制システムの無人機版をまず実装しようとしています。そうした動きを参考にして、日本としてどう制度化していくかというところが大きな課題ですね。

湯浅  5~10年後のプロジェクトについて話させていただきましたが、今後3年間で注力していきたいことは何でしょうか?

鈴木  先ほども申し上げましたが、技術とヒューマンリソースとインフラ的環境の3つのバランスが崩れないように、5年程度かけてドローンの社会実装が急速に進んでいければと思っています。

 私自身としては、空を飛びたいという喜びをドローンが叶えてくれるということが一番のモチベーションですね。多くの人にドローンを楽しんでもらいたいと思っています。

 人は空を飛ぶ技術を手にしましたが、多くの人は旅客機に乗って空を移動するだけで、操縦するわけではありません。一部の人しか空を飛ぶ楽しみを享受できていないのです。まさにドローンは、飛ぶ喜びをもう一度与えてくれるものであり、私もドローンを飛ばしていると本当に童心に帰ります。「こういうのを求めていたんだな」という喜びというものがもっと根底にあってもいいのかなと思いますね。