豊かな社会の実現や社会インフラ整備のために期待されているドローン。VFR株式会社は、PC事業で培った設計・製造技術や国内外のサプライチェーンのマネジメント能力を武器に、ドローンおよび関連ソリューションを提供する企業です。VFR 代表取締役社長 湯浅 浩一郎の対談シリーズでは、業界の著名人との対話から、これからのドローン産業や市場のあるべき姿について議論していきます。

 今回は、産業用ドローンメーカー 株式会社ACSL(旧社名:株式会社自律制御システム研究所)の創業者/元代表取締役CEOで、日本のドローン研究の第一人者である千葉大学名誉教授の野波健蔵氏をお招きし、現在取り組まれているドローンプロジェクトや日本のドローン産業における課題、将来像などについてお聞きしました。

日本が培ってきた匠の技術は、一夜にして得ることはできない

湯浅  私たちは、ACSLの開発製品を量産しています。機種としてはACSL-PF2から始めていますが、それ以前のモデルについての話を関係者からお聞きして、創業者である野波先生はいろいろご苦労されてきたと想像しています。まだドローンという名前もない時代でしたが、諏訪のセイコーエプソンに行ったとき、先生が最初に作ったドローンが飾ってあったことを覚えています。

野波  懐かしいですね。セイコーエプソンとは20年ほど前に「マイクロフライング・ロボット」を開発して、姿勢制御機構を私たちが担当しました。12gほどの超軽量で話題になり、アメリカの国防総省の目にも留まりましたね。

野波 健蔵氏
千葉大学 名誉教授/日本ドローンコンソーシアム 会長/先端ロボティクス財団 理事長

 ドローンにとって制御技術は重要です。三次元空間を安定して飛ぶためには制御技術は欠かせません。当時、私は他に研究している人たちもいない中で研究を続けていて、セイコーエプソンと共同開発した時点で、ドローンの研究はすでに10年以上経過していました。そういった意味では、屋外で本格的な自律飛行に取り組んでいたので、ドローンの草分け的存在だったと思います。

 ドローンは飛行時間がネックだと考えていましたので、20年前にバッテリーを自動交換する機体も作りました。バッテリー残量が減ると、ドローンを帰還させ、バッテリー交換を終えるとまた飛び立つものです。

湯浅  弊社でも、ACSL-PF2に特化したドローンポート(据え置き型のドローン格納庫)を開発し、量産を見据えた生産をすでに開始しています。バッテリー交換の機構はないのですが、ポートに格納されたドローンの自動充電が可能です。

野波  すでに国内に納品されているのですか?

湯浅  はい。ドローンポートは、災害時の避難誘導ツールとして社会実装されました。
 何か緊急事態が発生した際には、ポートからドローンが飛び立ち、市民への避難誘導・警告を行います。

ドローンポートとACSL-PF2

湯浅  野波先生は新しいチャレンジをされていると聞きました。現在はどのようなプロジェクトに関わっているのですか?

野波  先端ロボティクス財団で、東京湾縦断飛行プロジェクトのVTOLカイトプレーンを作っています。カイトプレーンはカイトで揚力を得る仕組みですが、新たに開発したカーボン製のカイトプレーンでは、カイトの素材をカーボンにすると抵抗が小さくなるので、スピードが30%ほどアップします。すると、80~90kmの距離をマルチコプターと同じ速度かそれ以上で飛行できます。さらに、自重はすべて揚力で受けているので、より省エネルギーになります。

 過疎地や山間部でのドローンの実証はよくやられていますが、私は首都圏でやることが重要だとして、横浜と千葉の間を10機縦列編隊で飛ばそうとしています。

東京湾を縦断飛行したカイトプレーン機

 ほかにも、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで採択された、フライトコントローラーも開発しています。これは、次世代型フライトコントローラーで、目的地を設定すると自動で経路生成をして、その経路が安全であるかをセルフチェックしながら衝突回避もします。異常があれば不時着もするというものです。

湯浅  ドローンはハードウェア、ソフトウェアともに重要ですね。弊社も共創するパートナー企業にお声がけして、いろいろ作っています。たとえば、物流専用ドローンの精度を高めるための治具(加工や組み立ての際、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具の総称)です。モノづくりは治具や金型が重要で、この分野は日本が優れていると感じています。航空関係や自動車関係の企業に治具を作っていただくと、高い精度を得るための匠の技術があることを実感します。

野波  日本のモノづくり技術には、品質保証の考えがあります。中国など、諸外国の企業が急成長しても、匠の技術は一夜にして得ることはできません。日本の電気釜は美味しいお米が炊けるので、外国人が買いに来ていますよね。

湯浅  本当にその通りだと私も思います。よく見るとわかりますが、材料や加工の技術が違いますね。日本の量産技術は非常に優れていると感じています。

湯浅 浩一郎
VFR株式会社 代表取締役社長

諸外国より遅れてしまった、日本のドローン産業の課題

湯浅  野波先生が黎明期からご尽力されたおかげで、世界的にもドローンの上場企業はあまりないなかACSLはパブリックカンパニーになりました。しかし、日本のドローン産業はこの10〜15年の間に遅れてしまったと指摘されています。

野波  日本の教育に課題があるのではないでしょうか。学生は皆勉強するのですが、モノ作りの意欲が少ないように思います。ハンダ付けもしませんし、ソフトウェアのコーディングにも興味がないのです。

 私の研究室では、「自分で飛ばせる機体を自力で作りなさい」と指導してきました。ドローンはハードウェアとしての機体が半分、制御のためのソフトウェアが半分です。プログラムも以前のものを一切使ってはだめで、ゼロから作るよう指導してきました。私の研究室の卒業生の中には、力をつけて自分でドローンの会社を起業した者もいます。

 アメリカや中国では、大学や大学院の卒業後の進路に「起業」があり、優秀な人ほど起業を選ぶ傾向にあります。日本の場合は逆で、優秀な人は大企業を選びますね。そこに課題があるのではないでしょうか。

湯浅  大手メーカー出身の設計者から「ベンチャーに入って始めて営業の人と話した」という意見を聞きました。大企業では役割がしっかりと決まっていて、他部門との連携や情報共有をせずに業務を進めている(サイロ化されている)ということですが、教育においても分断が生じているのかもしれませんね。いろいろな体験を通じてイマジネーションを得ることが少なくなっているのでしょうか。

野波  まわりに起業の成功者がいないので、寄らば大樹の陰ということで、大企業に行きたがるのでしょう。確かに起業は色々と大変です。私は60歳を超えて創業しましたが、資金を得るために苦労しました。

湯浅  私も投資家の方々に説明をしているのですが、製造業自体に疑問を持たれる方も多いです。しかし、Appleは元来ハードウェア企業で、MicrosoftやGoogle、Amazonといったソフトウェア企業も自分達のハードウェアを提供しています。IoTの時代で、いろいろなモノがインターネットにつながるようになるというのに、ハードウェアの重要性をわかってもらえないのです。

 ソフトウェアももちろん重要ですが、ハードウェアがしっかりとしたスペックを持っていてこそ、機能すると思っています。野波先生が作られてきたドローンというモノを、インターネットにつないでもっと高い価値を提供したいと考えているのです。

 私たちは野波先生が作られたシミュレーターを継承して、ACSL製の国産ドローン「SOTEN(蒼天)」をバーチャル上に再現し、操縦訓練できる「SOTEN バーチャルトレーナー」の開発をしています。

 プロポ型コントローラーは実物なのですが、MAVLink(ドローンと地上ステーション間の通信プロトコル)を使ってバーチャル空間上で操作できます。火災現場や橋梁点検など、何度もトレーニングができます。リアルな環境で何度もテストするとお金がかかってしまいますので、シミュレーターによってPDCAサイクルを速くまわしていくのです。

ドローン「SOTEN」(左)とコントローラー(右)
SOTENバーチャルトレーナーの操作画面

野波  コンピューターもスマートフォンも、スマートウォッチも、すべてハードウェアがポイントです。ハードウェアが世界の進化を牽引していると思います。しかし、ハードウェア企業は、教育の課題に加え、資金調達も課題ですね。工場や建屋や材料、ランニングコストもかかります。SaaS企業ならノートPCがあればどこでも仕事できますから。

 また、匠の技術は良いものですが、次の世代に継承されないまま、熟練した方々がリタイアしていくのも問題となっていますね。AIはすぐには追いつけないと思いますので、少し心配です。これはお金では解決しにくい問題です。

湯浅  弊社は60歳で定年退職された技術者の方を採用していて、75歳まで勤務いただける制度を導入しています。技術の継承という意味では、追い風が吹いていると言えるかもしれません。今の若い技術者は、残業などの制限があり、キャリアのなかで身につけられる経験が、ベテランの人たちよりも少なくなっていると思います。今、熟練の方々と仕事をご一緒できることは貴重です。

野波  私は、飛行機でも新幹線でも車でも、完成されたモノに対して畏敬の念を持ちますし、たとえライバル会社のドローンであっても「かっこいい。どうやって作ったのだろう」と尊敬します。これから活躍する若い人たちも、そんな想いを抱いて取り組んで欲しいですね。

レベル4時代に向け、軽快な処理の仕組みと共創の場が求められる

湯浅  野波先生はまだまだチャレンジを続けていらっしゃいますが、レベル4飛行のドローンの世界では、どのような技術が必要だとお考えですか?

野波  2030年には、日本国内で20万機のドローンが同時に飛ぶと予測されています。そのほとんどが物流ドローンで、都道府県あたり4500機となります。これを東京の面積で割ると、700m四方に1機となりますが、おそらく東京はもっと過密になるでしょう。

 すると、複数機が飛び交う高密度飛行を可能とする精度の高いオートパイロットが必要となります。たとえば、バッタは大群でも衝突して落ちたりしませんね。そのような新しい制御技術が必要だと考えています。

湯浅  自律的に飛行させるためには、より軽快で反射的な処理をすべきだと先生は提言されていますね。その着眼点はすごいと思います。

野波  オートパイロットは、ガイダンス(誘導・意思決定)・ナビゲーション(航法や環境)・コントロール(制御)という3つの要素が必要ですが、今のドローンはナビゲーションとコントロールで飛んでいて、ガイダンス機能については全く無いか、あっても極めて脆弱な状況です。そこでAIを導入しようという流れがあります。

 皆さん、AIといえば、NVIDIAなどのGPUを使います。しかし、私はARMのCPUもいいと思っています。GPUはCPUと比較すると圧倒的に電力を消費しますので、車など、大きなモノに使うのはいいのですが、軽さが求められるドローンには向いていないからです。一部の海外メーカーも、ドローンにGPUを搭載しようとしましたが、飛行時間が犠牲になっています。私は高度なガイダンスをCPUで実現したいと思って、現在回路設計を行っています。

湯浅  フライトコントローラーについて、技術者のなかにはこの先あまり開発することがないという人もいますが、私はもっと発展できると考えています。

野波  富士山に例えると、5合目まではできていて、これから山頂への正念場を迎えているような状況だと思います。そこで競争が行われるでしょう。日本はこの10年取り残されてきましたが、私はここでゲームチェンジできると考えています。

 国内の法改正でレベル4の飛行ができるようになって、海外製のものばかり飛んでいては、海外メーカーのための法改正となってしまいますね。国の機関にも提案していますが、官民協力して、海外に輸出できる機体を作れる会社を作っていかなければならないと考えています。御社とACSLはワンストップでさまざまなサービスを提供されているので、一番有力な位置にいる会社だというのは間違いないですね。

湯浅  私はIT業界、PCメーカー出身です。PCやサーバーの新製品を出すときには、コンピューティングを求めるソフトウェア企業に新しい製品をテストしてもらっていました。その事例を整理して、セールスに活用していたのです。ドローンに関しても、ソフトウェア開発企業がもっと扱うようになるための入り口を作りたいと思っています。

野波  APIやSDK(ソフトウェア開発キット)の提供はすごく重要ですね。ACSLのSOTENも間口を広くして、いろんなソフトウェア企業が周辺サービスを提供したくなるような、産業育成の仕掛けを作ったほうがいいと思います。

湯浅  私も同感です。APIやSDKがあれば、SOTENがより競争力のある製品になると思います。また、必要最低限の昆虫の脳のようなセンサーをつけて、反射によって制御すればいいという先生の考えは、ハードウェア重視の視点からくるものだと感じました。

野波  最適化ですね。昆虫は小さな体でうまく飛んでいます。捕まえようとしてもパッと逃げられるじゃないですか。あれは風を読んでいるのです。そういうセンシングをドローンの小さな機体やシステムにインテグレーションしなければならないと思っています。

湯浅  先生の開発する新しいオートパイロット技術を弊社でも使いたいです。今日は先生とお話ができてよかったです。ありがとうございました。