ドローンスタートアップのエアロネクストと、物流大手のセイノーホールディングスが、ドローンを含む新スマート物流「SkyHub(スカイハブ)」を発表し、山梨県小菅村でサービスを開始してから約1年半。2022年10月8日より福井県敦賀市で、サービス提供を開始した。

 当日は、ドローン配送の出発式が行われ、エアロネクストとACSLが共同開発した物流専用ドローンAirTruckの量産型機もお披露目された。従来の試作機よりも一回り大きくなり、KDDIスマートドローンの「スマートドローンツールズ」を組み合わせた構成だという。

 式典には、敦賀市長の渕上隆信氏、セイノーホールディングス事業推進部ラストワンマイル推進チーム新スマート物流推進プロジェクト課長の須貝栄一郎氏、KDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏、エアロネクスト代表取締役CEOでNEXT DELIVERY代表取締役の田路圭輔氏が出席した。

左から須貝氏、渕上市長、田路氏、博野氏
関係者一同での出発式記念撮影

買い物支援だけではない「SkyHubサービス」導入の狙い

 舞台は、敦賀市街地から車で約15分のところにある、愛発(あらち)地区だ。高齢化や過疎化が進む同地区では、唯一のコンビニがなくなるなど、買い物弱者の問題が顕在化している。敦賀市は、2021年11月にエアロネクスト、セイノーホールディングスと連携協定を締結し、2022年1月には雪が降り積もるなかでのドローン配送実証実験、8月には出前館も共同で実証実験を行った。

 今回のSkyHubサービス提供開始に先立ち、住民へのアンケートを行った結果によると、住民の約8割が買い物に不便を感じていることが分かった。また、約8割がスマートフォン、約7割がオンライン決済手段を持つことから、デジタルサービスを活用する土壌があることも窺えたという。

住民アンケートの結果を報告する田路氏

 このようななか、2022年10月8日、敦賀市、エアロネクスト、セイノーホールディングス、KDDスマートドローン、エアロネクストの子会社NEXT DLIVERYは、愛発地区の小学校跡地にある愛発公民館内に設置した、ドローン配送の拠点と商品の倉庫を兼ねたドローンデポを公開し、3つのサービスを提供開始したと発表した。

ドローンデポ愛発(あらち)

 3つのサービスとは、「オンデマンド配送サービス」「買い物代行サービス」「フードデリバリサービス」だ。まずは10月から、オンデマンド配送サービスを開始する。配送サービス対象は、愛発地区にある11の集落のうち、「疋田」「奥野」「曽々木」「杉箸」の4集落。愛発地区のドローンデポから、各集落内に設置されたドローンスタンドへ、注文から最短30分で品物を届けるという。

 なお、住民の約6割がECサイトに苦手意識を感じていることから、最初はカタログからの電話注文を受け付ける。続いて、SkyHubアプリでの注文も促進し、利用の拡大を図る。注文可能な品物は、ドローンデポに備えた食料品や日用品で、約100品目。配送手段は、基本的にはドローンだが、陸送も併用して、「確実な配送」を目指すという。

 式典に参加した渕上市長は、「買い物支援だけではなく、高齢者の安否確認にも役立つと考えている。定期便の構想もあるようなので、これからいろんな形で広まっていくことを期待している」と意欲を示した。

 セイノーホールディングスの須貝氏は、「敦賀市との取り組みは、約1年経過した。本日ようやく、実装に向けたスタートが切れる。これから住民の方々の生活の利便性の向上を追求するとともに、物流の効率化、環境にもやさしい物流を構築することを目指して、地域の皆様と連携させていただきながら、進めさせていただきたい」と語った。

 KDDIスマートドローンの博野氏は、「当社のミッションは『叶えるために、飛ぶ』。ドローンを飛ばしたいから飛ばすのではなく、お客さまの想いを叶ええる、社会の課題を解決するために、当社ができることを考えている。今回の取り組みも、住民の皆様に根付くよう、しっかり進めていきたい」と挨拶した。

 エアロネクストの田路氏は、「まずは年度内、3月までに100日運航を目指す。ドローンの配送の仕組みは、日常的なサービスだけではなく、緊急時の物資輸送にも使えるほか、住民の方々の安否確認にもなる。地域住民の方々に定期便を用意して、配送と見守りを同時に行うようなサービスなど、やりたいことは本当にたくさんあるが、まずは順番にやっていく」と話した。

ドローンの置き配に、住民ら笑顔で拍手

 出発式では、ドローン飛行デモも2回行われた。出発地点は愛発地区の「ドローンデポ愛発」で、配送地点は杉箸地区にある集会場に設けられた「杉箸ドローンスタンド」だ。車で移動すると約6km、さらに山間へと向かう。民家は点在しているが、お店らしいものはほとんどなさそうだった。

 ドローン飛行デモでは、住民が「朝食セット」を注文すると、ドローンデポのスタッフが品物をドローンに搭載して、ドローンが離陸し自動航行で飛行し、品物が入った箱を置き配してドローンデポに自動で帰還する、という一連の様子が披露された。

品物が入った箱を、スタッフが2階のドローンデポから運んでくる様子
箱をドローンに搭載するところ
離陸前のドローン
ドローンがドローンデポ愛発を離陸したところ
ドローンが飛び去るところ

 離陸後、しばらくすると山の向こうにドローンが姿を現した。集まっていた近隣住民のお年寄りたちも、ドローンを指差して笑顔を見せていた。

住民らがドローンを指差す様子
ドローンが杉箸ドローンスタンド上空に現れたところ
ドローンが下降してきたところ

 ドローンが着陸後に、自動で荷物を「置き配」して、再び飛び上がると、住民らは拍手を送って見送った。「上手にボソッと静かに置いてくれた」と、ドローンの働きぶりを評価した。

ドローンが着陸後に、自動で「置き配」したところ
「朝食セット」を注文した住民の方に渡したところ

 注文した住民の方は、「卵が割れてない」など驚きの声を漏らしながら、嬉しそうに品物を受け取っていた。「今後、薬の配送にも期待したい」との声もあった。当面は、「朝食セット」や「おやつセット」の配送から始めるが、この日稼働した物流専用ドローンAirTruckは、可搬重量(ペイロード)5kg、最大飛行距離20kmとのことで、対応商品の拡充にも期待が寄せられる。

 ちなみに、現状のガイドラインでは、ドローン配送が認められているものは医薬品全体の約3割にとどまると聞く。一般的によく処方される鎮痛剤などの配送も認められていないため、現地利用者の期待に応えるには、医薬品配送に関する規制改革は待ったなしの状況だ。他方、杉箸ドローンスタンドへの航路が安定稼働すれば、紅葉やお花見シーズンのBBQなど、外部からの来訪者向けに訴求できる観光資源にもなりそうだ。

買い物代行やフードデリバリも組み合わせてサービス提供へ

 今後は「オンデマンド配送サービス」を皮切りに、11月には市街地のスーパーと組んだお買い物代行サービスを提供開始し、さらに11月後半からは、出前館と協働してフードデリバリサービスを提供していく方針で、鋭意動いているという。

 「オンデマンド配送サービス」も、最終的には11集落全てをカバーし、愛発地区のどこからでも注文できるよう、対象エリアを拡大する予定だ。また、「ドローンデポ愛発」は、住民が立ち寄って買い物ができるコンビニとしても機能させる予定だという。

 エアロネクストの田路氏は、「将来的には、高齢者の方々が使いやすいタブレットなどの大きな画面で、銀行のATMを使うぐらいの簡単な操作で注文ができるようなシステムも構築できればと考えている。また、敦賀市さんと連携して、スマホ講習を開催するなど、高齢者の方々がSkyHubサービスを存分に楽しんでいただけるよう、サポートさせていただきたい」と展望を語った。