空撮用から業務用まで幅広いラインナップを展開するDJI Mavic 3シリーズ。写真は赤外線カメラを搭載した「Mavic 3 Thermal」。

 2022年9月にMavic 3 Enterprise(業務用モデル)シリーズが発表された。小型の写真測量用モデル「Mavic 3 Enterprise(M3E)」と赤外線カメラ搭載モデル「Mavic 3 Thermal(M3T)」の2機種だ。

2022年11月に発売が発表された「Mavic 3 Classic」。

 これに加え、11月にはMavic 3から7倍ズームカメラを取り除いた廉価版「Mavic 3 Classic」の発売も新たに発表されている。これには、自動車のクルーズ機能のように一定の飛行をボタンひとつで継続することができる「クルーズ制御」やノイズが少ない綺麗な夜景を撮影する「ナイトモード」が追加された(Mavic 3/Cineもアップデートで対応)。

 Mavic 3は高度な飛行安定性、高画質カメラ、40分を超える飛行時間、携帯性など、特長をあげればきりがない。その特長を継承して開発されたコンパクトな産業用モデル「Mavic 3E」「Mavic 3T」の登場は、業務にドローンを活用しているユーザーにとって待望の新機種と言ってよいだろう。

より手軽に高精度な写真測量を実現した Mavic 3 Enterprise

Mavic 3EにはRTKモジュール(機体上部)の搭載も可能。そのほか、スピーカーなどのオプション品を拡充している。

 Mavic 3Eは小型の写真測量モデルで、Phantom 4 RTKの実質的な後継モデルとなる。GNSSの測位誤差を数cm以内に抑えるRTKに対応し、カメラは飛行中に撮影しても歪みの少ないメカニカルシャッターに進化した(通常Mavic 3/Cineは電子シャッター)。ベースはMavic 3と同じ4/3インチセンサーを搭載した高画質カメラ(Phantom 4 RTKは1インチセンサー)なので、建物の影になっているような薄暗い場所等でも黒く潰れずに撮影することができる。

 また、静止画の最大サイズは5280×3956pxと一般的なサイズだが、最短0.7秒間隔でシャッターを切ることができる。そのため、40分以上の長時間飛行も相まって、バッテリーを交換せずに広範囲の測量が可能になった。何よりも、ネットワークRTKを利用すれば、手持ちキャリーケースひとつで手軽にドローンの持ち運びができるため、自動車でアクセスできない現場等では労力の削減につながり、足場の確保が難しい狭い場所や法面の測量にも活用できる。それに加え、DJIが販売している他の業務用ドローンと飛行アプリケーション(DJI Pilot 2.0)が統一されたことで、上位機種のバックアップ機材としても活用できそうだ。

製品に同梱されるキャリーケースに収納。現場で必要な機材をコンパクトに収納でき、手荷物ひとつで写真測量が行えるのもMavic 3 Enterpriseの特長だ。

小さなボディに高性能な赤外線カメラを搭載したモデル Mavic 3 Thermal

Mavic 3Tの搭載カメラは広角・ズーム・赤外線の3つを担う。アーム展開時(プロペラなし)の寸法は両モデルとも347.5×283×107.7mm(長さ×幅×高さ)。

 次に、Mavic 3Tはコンパクトな機体をそのままに赤外線カメラを搭載し、災害対応や点検業務への活用を目的としたモデルだ。「Mavic 2 Enterprise Advanced」の後継機となっており、上位モデルとほぼ同等の性能を持つ赤外線カメラを小型化して搭載。通常の光学広角カメラ(ただしセンサーサイズは1/2インチ)に加えて光学7倍×デジタル8倍の最大56倍ズームにも対応している。これは、従来からドローンを活用しているソーラーパネルや外壁の点検、夜間の調査業務や災害対応などに活用できる。特に、飛行エリアが狭い都市部での外壁点検などでは、近隣への騒音や第三者の目に触れたときの印象といった大型機では運用しにくい場面で、小型設計のメリットを大きく活かせるのではないだろうか。

使い勝手や機能の向上につながる細かなアップデートが満載

 機体やカメラのアップデートのほか、周辺の構成機器やパーツにもアップデートが施されている。両モデルとも伝送システムが「O3 Enterprise」となり伝送距離が8km(日本国内)となった。さらに、プロポも最新スマートコントローラー「DJI RC Pro」のEnterprise版フォーマット「DJI RC Pro Enterprise」を採用。テザリングにも対応しており、ネットワークRTKを利用する際に別途SIMカードの用意が不要となった。細かいところではあるが、ユーザーにはとても嬉しいアップデートだ。

 ただし、Mavic 3には防水機能が備わっていないので購入時には注意が必要だ。悪天候での運用が想定される捜索活動や災害調査では、Matrice 30TやMatrice 300 RTKといった防水機能を備えた上位機種の選択が懸命だ。

業務用モデルに採用される飛行アプリケーション「DJI Pilot 2.0」がインストールされた「DJI RC Pro Enterprise」。外観は「DJI RC Pro」とほとんど同じだ。スタンダードのMavic 3/Cine/Classicとの接続には対応していない。
DJI RC Pro Enterpriseの裏面には「ENTERPRISE」のロゴが表記された。
プロペラの材質はMavic 3/Cine/Classicとは異なるタイプ。先端のオレンジは塗装のみでゴム素材は使われていない。
バッテリー充電器は2系統出力で合計最大100Wに強化(1系統あたりの最大は82W)。
機体上部(前)のアタッチメント接続部の蓋は樹脂製からゴム製に変更された。繰り返しの脱着に対する耐久性も高い。
飛行中にドローンを見失わないように光を発するビーコンを機体後部に標準装着。これにより、ビーコンとオプション品の併用が可能になった。

新フォーマットが勢揃いとなったDJI業務用ドローンシリーズ

 Mavic 3 Enterpriseシリーズは、小型ながら高精度なデータ取得に対応している。特にMavic 3Eは、i-Constructionで求められる精度で写真測量ができることも実証されている。飛行速度5.6m/sで飛行させても基準を容易にクリアするレベルだ。

飛行高度37m(0.99cm/px)、オーバーラップ90%・サイドラップ60%、シャッター優先1/1000s、高度最適化:あり、ネットワークRTK、使用ソフト:DJI Terra、標定点5点・検証点3点使用。これらの設定で検証した結果、Phantom 4 RTKにも引けを取らないことが立証された。

どれを選ぶべきか?セキドが提案する産業向けDJI機の購入アドバイス

 DJIからは幅広い業務用ドローンがラインナップされており、Mavic 3 Enterpriseシリーズの登場でどの機種を購入すれば良いか迷うユーザーも多いだろう。そこで今回、DJIの正規代理店であるセキドの担当者に問うと、以下のようにアドバイスをしてくれた。

レーザー測量、高解像度写真測量:Matrice 300 RTK
降雨時対応する必要がある点検・調査・捜索:Matrice 30TまたはMatrice 300 RTK + Zenmuse H20T
汎用的な写真測量:Mavic 3E
降雨時を想定しない点検・調査・捜索:Mavic 3T

 Mavic 3 Enterpriseシリーズの発売で、DJIの業務用ドローンは大型(Matrice 300 RTK)、中型(Matrice 30T)、小型(Mavic 3 E/T)、と最新フォーマットの機体がフルラインナップとなった。旧モデルからの乗り換えも含め、ツールの選択を今一度考えてみてはいかがだろうか。