DJIのコンシューマー向けドローンの最上位機種「DJI Mavic 3」「DJI Mavic 3 Cine」が発売されたのは、2021年11月のこと。デビューからすでに約半年が経過し、前作の「DJI Mavic 2」シリーズの後継機として、ユーザーの代替が進んでいるようだ。Mavicシリーズの長兄としては約3年ぶりの登場ということもあり、大きな注目を集めたMavic 3。機体の設計思想や専用アプリの刷新など、これまでのMavic 2ユーザーにとっては戸惑うことも少なくないという。こうしたポイントを中心に改めてDJI JAPANにインタビューしつつ、実際にMavic 3を撮影現場で使っているユーザーの声を紹介しよう。

 Mavic 3はDJIの中でコンシューマー向けというカテゴリーに分類されてはいるが、写真や動画撮影の愛好家だけでなく、映像制作会社やクリエーター、メディアコンテンツに関わるプロシューマーも対象としたハイエンドモデルだ。

 カメラの撮像素子に2000万画素フォーサーズフォーマットのCMOSセンサーと、1200万画素1/2インチCMOSセンサーを採用したカメラを搭載。最高で5.1K50fps、4K120pの動画を撮影できると同時に、「Mavic 3 Cine」はH.264/H.265に加えてApple ProRes 422HQコーデックによる収録が可能となっている。

 Mavic 2シリーズよりわずかに大きい機体には、前方、後方、上方、下方に向けてそれぞれデュアルカメラによるビジョンセンサーを搭載。機体後方から差し込むスタイルに改められたバッテリーは、Mavic 2シリーズの3850mAh/約60Whから5000mAh/77Whに拡大され、同最大飛行時間は31分から46分と約1.5倍に伸びている。

 映像伝送には新たにO3+(OcuSync 3+)を採用し、最大伝送距離は15km(日本国内では最大8km)に拡大。飛行中にコントローラーに伝送されるのは、1080p/60fpsと高精細なライブ映像となっている。また、オプションもしくは「DJI Mavic 3 Fly Moreコンボ」セットに同梱されるコントローラーも、「DJI RC Pro」として刷新されている。

1フライトで高品質な映像を撮るための望遠カメラ

 L2D-20cカメラは、4/3タイプセンサーを採用した24mm(35mm判換算:以下同)Hasselbladカメラと1/2インチセンサーの162mm望遠カメラを搭載している。望遠カメラは4倍のデジタルズームが可能となっており、24mmの広角側に対して、望遠カメラに切り替えることで、最大28倍のハイブリッドズームが可能だ。
 ただし、Hasselbladカメラと望遠カメラはシームレスでズームできるわけではなく、“望遠カメラで対象物を探して、Hasselbladカメラで撮る”という「探索モード」を使うことで、「効率よく被写体を確認しながら撮影ができる」とDJI JAPANの担当者はいう。
 こうしたL2D-20cカメラの新しいコンセプトは、「Mavic 3は飛行時間が46分に伸びており、この探索モードと組み合わせることで、バッテリー1本のフライトでの中で、4/3タイプセンサーといういままでより大きな撮像面を生かした高品質な映像を撮ることにつながる」としている。

 DJIのドローンでは「Inspire 2」に搭載可能な「Zenmuse X5S」ジンバルカメラに採用されている4/3タイプセンサー。Mavic 2 Proの1インチセンサーに比べて2倍の面積がありながら、画素数はMavic 2とほぼ変わらない。「1ピクセルあたりの面積が大きくなることもあって、暗部の特性に優れており、暗い環境で高い画質が得られる」とDJI JAPANはいう。

 Mavic 3 Cineではこの4/3タイプセンサーの採用と同時に、Apple ProRes 422HQコーデックが利用可能になり、1TBの内蔵SSDを搭載している。同じ4/3タイプセンサーのカメラが使えるInspire 2では、仕様によってApple ProResのほかにCinemaDNG(RAW)による収録が可能である。CMや映画といった撮影ではInspire 2でCinemaDNGが使われることも多いが、「CinemaDNGは後処理の負担が大きく、Mavic 3ではデータが軽いApple ProResのみとした」という。

 また、内蔵式のSSDは万が一の墜落や電気的な故障など、データの喪失を懸念するユーザーから、Inspire 2のような脱着式SSDの採用を望む声もある。しかし「Mavic 3はあくまでもコンシューマー向けモデルであり、性能とポータビリティの両立が求められる。また信頼性の面でも有利なため、内蔵式としている」という。なお、内蔵SSDからPCなどにデータを転送する場合は、10GB高速データ転送ケーブルを使用することとなっている。

CPUやGPU、アンテナなどが強化されているDJI RC Pro

 Mavic 3では前方、後方、上方、下方のステレオカメラによる全方向デュアルビジュアルシステムを搭載。Mavic 2シリーズでは左右方向の検知は、アクティブトラックとトライポッドモードのみでの作動となっていたが、Mavic 3ではこうした条件なく機能が作動する。

 また、機体とコントローラー間の通信には、新たに「O3+」を採用している。O3は「DJI Air 2s」で新たに採用されたが、“+”になったことで映像伝送のフレームレートが60fpsに向上。さらに「通信プロトコルが改善されていて、都市環境の中で起こりやすい電波干渉に強い」という。また、LTEモジュールもサポートしている。

 通信はO3+となっているが、付属のコントローラーのデザインはDJI Air 2Sと共通。一方、Mavic 2で“スマコン(スマートコントローラー)”と呼ばれていたディスプレイ付きコントローラーは、Mavic 3の場合「DJI RC Pro」という呼び名とともに刷新されている。

 従来のものに比べてCPU性能が4倍、GPU性能が7倍となっていて、スティックジンバルはDJI FPV付属のコントローラーと同じものを採用。アンテナが左右独立式となり、「トランスミッターは2つ、レシーバーは4つ」となっている。こうした改良によって、信頼性や画像伝送距離が向上しているほか、充電は2時間が1.5時間に、使用時間は2時間から3時間と、スマートコントローラーで課題だった充電・使用時間の性能が向上している。なお、コントローラーはモバイル通信ドングルをサポートしている。

 Mavic 3シリーズはGCS(Ground Control System)に、DJI Mini 2やDJI Air 2Sと同じく「DJI Fly」を採用。Mavic 2をはじめ従来のコンシューマー向けGCSである「DJI GO4」を使い慣れたユーザーからは、“DJI Flyは飛行や撮影に関する細かい設定ができない”という声も多く聞かれるが「最近はシンプルなユーザーインターフェースを好むユーザーが多い。もちろん細かく設定ができるUIを求めるユーザーからの声は、DJIフォーラムでコミュニケーションをとりながら最適化していく」としている。

 なお、2021年11月のMavic 3発売以降、12月、1月、2月とDJI Flyで操作・設定できる機能の追加、改良が加えられており、当初、追加の予定を明示していたインテリジェント撮影モードの追加や、ベテランユーザーからの声が多かったEXP(Exponential)の設定ができるようになるなど、随時アップデートが行われている。

「延々と撮っていられる」というMavic 3の長いバッテリーライフ

 ここからは実際にMavic 3 Cineを使って、登山やランニングといったアウトドアスポーツ系のテレビ番組の空撮を行っている、ドローンオペレーターの山本大介氏に、その使い勝手を聞いてみた。山本氏はこれまでにもDJIのInspire 2やMavic 2 Proを使い、CMやMV、テレビ番組などの空撮で、ドローンやカメラをオペレーションしてきた。中でもNHK BSプレミアムで放送されている「にっぽん百名山」や、「ふらっとあの街 旅ラン10キロ」といった番組の撮影では、撮影チームに同行する形で山に登ったり、出演者とともにランニングで移動するといったこともあり、その撮影ではMavicシリーズを使っている。

「これまでこうした撮影では、Mavic 2 Proを使ってきました。やはり機体がコンパクトで折りたためるなど機動性が高く、何日も山に登る撮影には最適です。Mavic 3は機体のサイズが今までとほとんど変わらない中で、センサーサイズが大きくなってより高画質で撮れるようになったのが最大の魅力です。また、Mavic 2 Proでは4Kのフォーマットを選んだ場合、フレームレートが30fpsまでしか選べなかったのが、Mavic 3では60fpsが選べるようになったのも現場のニーズに応えてくれていると思います」と山本氏。

PEAK Air VISIONの山本大介氏。おもにCMやMV、テレビ番組の空撮を手がけ、とくにアウトドアスポーツ系の撮影を得意としている。

 山本氏がMavic 3を撮影に使うのはおもに登山の番組。出演者や制作チームと一緒に山に登りながら、景色や山を登っている出演者を撮影する。撮影は毎日山を登って降りることもあれば、山頂の山小屋に宿泊することもある。そのため、バッテリーは慎重に管理する必要があるという。

「Mavic 2の場合、山頂に充電環境がない場合は、10本くらいのバッテリーを持って登りますが、決して無駄打ちはしないように気を付けています。しかしMavic 3は飛行時間が大幅に伸びたおかげで、“延々と撮っていられる”感じで、1日で3本もあれば十分足りるというのがとても助かります。また、コントローラー(DJI RC Pro)についても、Mavic 2では一日の中で後半になると充電したくなるのが、Mavic 3ではその心配がないのが本当に助かる」と山本氏はいう。

 Mavic 3の画質については、「シャープネス、コントラストは柔らかく自然な中に、ディテールがしっかりあって好印象」(山本氏)だという。Apple ProRes 422HQコーデックについては、今のところテレビ番組などの制作側から求められることはなく、「むしろ自ら映像作品を作るビデオグラファーや趣味のユーザーのニーズが高いのではないか」という。

容量が拡大して飛行時間が伸びたバッテリー。機体後方からスライドして挿入するスタイルになったことで、飛行中にバッテリーが膨らんで外れるといったトラブルがない。
Mavic 3 Cine Premiumコンボに同梱のDJI RC Proコントローラー。スティックジンバルの質感が向上し、繊細な操作がしやすくなったという。
機体前半分を覆うように装着するジンバルホルダー。「作りがしっかりしていて、プロペラを綺麗に束ねられるのもいい」という山本氏。

2つの操作で誰にでも綺麗な円弧が描けるMavic 3のフライト

 Mavic 3の飛行については「制御が独特」だという山本氏。例えば被写体を中心に撮りながら周囲を一周する、いわゆる“ノーズインサークル”では、時計回りに飛行する場合に、エルロンの左とラダーの右操作に加えて、小回りや飛行速度が速かったりする場合には、遠心力で外に流れないようにエレベーターのダウン(前進)を操作する。しかし、Mavic 3ではこのエレベーター・ダウンの操作を加えていると、いつの間にか前進しながら被写体の周りを回るような軌跡となってしまうという。

機首を被写体に向けてその周りを回るノーズインサークルでは、旋回半径の調整をエレベーターではなくラダーで行うMavic 3。

 これは逆に、ドローンを前進させながら右回りに円を描く場合に、エレベーターの前進とラダーの右に加えて、外に膨らまないようにエルロンの右を操作すると、Mavic 3では機首が自然と外に向いてしまう現象が起こる。Mavic 3ではこの場合、エレベーターの前進とラダーの右だけの操作で、綺麗な円弧を描けてしまう。ノーズインサークルの場合はエルロンとラダーだけで、綺麗に被写体の周囲を回ることができ、ラダーの調整だけで円弧の半径が調整可能だ。

前進しながら円弧を描く場合は、ラダーを操作するだけで円弧の旋回半径を調整することができる。

「確かに円弧を描きながら前進する、ノーズインサークルといった飛行では、エルロン、ラダー、エレベーターと3つの操作の組み合わせが必要で、初心者にとってはMavic 3のこの飛行制御の方が便利です。むしろいままでのドローンの飛ばし方だと、思わぬ方向に動いてしまう。これはクルマで言うと横滑り防止機能のような新しい時代の制御だなと感じる一方で、現場で使う機材としては必要に応じてオン・オフできるようにしてほしい」と山本氏。

 また、実際に飛行させている中では、とりわけ映像でパン(左右にカメラを振ること)方向の動きがスムーズな一方で、「微速で機体を動かす際にはブレーキが効きすぎる印象が強い」という。また、下方のビジョンポジショニングがオフにできないことに加えて、着陸時にドローンが下方の地面の様子を確認する「着陸保護」機能をオフにすることができないため、登山の撮影で多用しているハンドキャッチによる着陸に神経を使うという。

発売後は設定項目がなかったEXP(Exponential)も、その後のアップデートで調整可能となっている。

「これまで長く使ってきたMavic 2 Proに対する慣れもあって、このほかにも改善してほしい点はありますが、総合的には純粋にMavic 2がアップグレードした印象で満足度は高い。Mavic 3は機能性、フライト時間、画質など、あらゆる面でこれまでのDJIの空撮用ドローンの中で、いちばん使いやすい機体になっていて、総合力が高い機体だと思います」と話した。