NTTドコモが、自律飛行型ドローンSkydioシリーズの国内普及を加速している。Skydioは、北米のドローンメーカーSkydio社が開発・提供し、日本国内ではNTTドコモが2020年11月より法人向けに提供してきた、注目の機体だ。翌2021年11月、同社ドローンビジネスの新ブランド「docomo sky」の発表会では、「Skydio 2」のLTE通信対応予定も明らかにされ話題となった。

 2022年3月17日、NTTドコモはSkydio X2シリーズ「Skydio X2E」と「Skydio X2D」を法人向けに販売開始。また同日、「Skydio 2」の後継機となる「Skydio 2+」も注文受付を開始して、4月下旬以降に発売を予定しているという。

 さらに3月28日には、Skydio社公式認定の「Skydio認定講習」も提供を開始。Skydioいずれの機体を導入した事業者も、しっかりとサポートしていく構えだ。今回、本誌ドローンジャーナルは、米国外・日本でともに初となる「Skydio認定講習」を独占取材。開講の経緯や3つのコースの違い、具体的な講習内容を詳しく聞いた。

米国外初の「Skydio認定講習」開講の経緯

 NTTドコモが日本国内で、自律飛行型ドローンSkydioの提供を始めたのは、2020年11月。実は当初より、独自に開発した講習を提供してきたという。講習内容は、Skydioを導入した事業者を対象とした、「アクティベーションプログラム」だ。

 Skydioには、360°障害物回避や、ウェイポイントを設定した自律飛行など、さまざまな機能がある。このためNTTドコモは、「お客さまがSkydioをきちんと使いこなせるようになる」ことを念頭に、本プログラムを用意したという。

 このたび提供開始した「Skydio認定講習」は、同じく導入事業者の活用をサポートするためのアクティベーションプログラムではあるが、従来のコンテンツとの最大の違いは「Skydio社公式認定」である点だ。

「SKYDIO MASTER INSTRUCTOR」を取得したNTTドコモ 5G・IoTビジネス部の田仲秀行氏(左)と甲本健氏(右)

「ファームウェアアップデートもあるなか、日本のユーザーにも正しい情報を伝える必要がある。日本のユーザー向けにも、米Skydioが開発したトレーニングプログラムを提供したい」と、米Skydio社よりNTTドコモに声かけがあったのだという。

 NTTドコモは2021年12月20日、米国でのトレーニングと技能認定を経て、「SKYDIO MASTER INSTRUCTOR」の資格を取得。これは、米国外・日本では初の実績だという。米国で学んだ内容を、日本語でも齟齬なく再現できるのかという確認工程も経た。

米国でのトレーニングの様子(資料:NTTドコモより提供)

 そして、MASTER保有者のみに許されるのが、インストラクターの育成と資格認定だ。NTTドコモは、本資格取得を受けて、2社を講習実施事業者として認定。かねてよりアクティベーションプログラムの開発提供で協業してきたGEOソリューションズと、NTTグループが運営するドローン開発会社であるNTT e-Drone Technologyだ。

「SKYDIO CERTIFIED INSTRUCTOR」を取得したGEOソリューションズ ドローンエキスパートの深田康介氏

 GEOソリューションズは、「AirWorksドローンアカデミー」というドローンスクールを運営している。同校の前身は2016年設立のアマナドローンスクールで、2020年に同社へ運営移管した。AirWorksは前身時代も含めて、これまで1300人以上の卒業生を輩出してきたドローン講習団体であり、今後もNTTドコモのパートナーとして、Skydio認定講習の国内提供で伴走するという。

「Skydio認定講習」3つのコース

「Skydio認定講習」には3つのコースが用意されている。まずは、機体の特徴や、“スキル”と総称されるSkydioの機能全般について具体的な操作方法を学ぶ、「Skydio Expert Operator」には、使用する機体別に2つのコースがあり、自分が主に使用する予定の機体にあったコースを選んで受講できる。もう1コースは、「Skydio 3D Scan Operator」で、「Skydio Expert Operator」コースのいずれかを受講して修了認定を取得した人だけが受講可能だ。

「Skydio認定講習」3つのコース(資料:NTTドコモより提供)

 今回は、「Skydio Expert Operator(Skydio2/2+)」の講習内容を取材したが、印象的なのは対象者を「ドローン初心者」ではなく、「Skydio初心者」としている点だ。一般的なドローンの講習とは異なり、「航空法」「小型無人機等飛行禁止法」など関連法や規制の基礎知識部分は省略されているほか、ドローンを飛行させる技能訓練や証明も行わない。このため、1日で修了できるコンパクトな日程になっており、さらにSkydioの機能に特化した実技重視の濃密な講習内容であるため、修了後には“明日から使える”レベルを目指せる。

 NTTドコモの田仲氏は、「アプリを1つ1つ立ち上げて実技訓練を行い、Skydioの使い方を隅から隅まで理解してもらう内容になっている。機能を理解して、現場で活用できるようになってもらうことがゴールだ」と話した。講師の目と手が行き届くよう、講習の定員は3名で、機体購入後の開梱・設定から一緒に行うことも可能だという。

「Skydio Expert Operator(Skydio2/2+)」の講習概要は下記の通り。

「Skydio Expert Operator(Skydio2/2+)」講習概要(資料:NTTドコモより提供)

 午前中に行う座学では、Skydioの概要説明や、動画を見せながら各機能の解説をして、全体像を把握する。6つのチャプターで構成されているが、テキストは全体的にイラストやアプリ操作画面のスクリーンショット画像が多用され、視覚的に理解が深まる内容だ。「このテキストでSkydioを全て網羅していると言って過言ではない」という講師陣のコメントも印象的だった。

 また、各チャプターが終わるごとに設定された「確認テスト」と「質疑応答」では、講師からの問いかけに受講生が答える形で、知識の定着を図りながら進める。続く実技で、特に注意するポイントも、少人数の対話だからこそ頭に入りやすいと感じた。

座学の様子とテキスト

 そして座学のあとは、すぐに実技に移る。飛行前準備、飛行、着陸と、一連の操作訓練を行うのだが、もしかしたら “ドローン熟練者”ほど最初は緊張するかもしれない。というのも、周知の通りSkydioはVisual SLAMとAIを活用して障害物を回避しながら自動で飛行する機体。細かなスティックコントロールを“必要としない”ためだ。そのまま前進すると物体に衝突するという状況で、あえてスティックを前方に傾け続けるという操作を試したときは、ドローンスクールの技能講習を受講した経験がある筆者の体は、気がづくとこわばっていた。

「機体を自ら操作するのではなく、機体を信頼して身を任せるような飛行方法に変わるので、経験者の方には頭を切り替えていただく必要があるが、ドローンが自分で判断して勝手に飛んでくれるので、誰でも非常に安全に扱える。もちろんSkydioにも真っ暗闇やガラスなど苦手な環境があるが、講習でしっかりと特性を理解すれば初心者の方でも運用できる。Skydioは、ドローンを標準的な業務ツールとして広げていくのに、最適な機体だ」という、講師のコメントには説得力がある。

実技講習を行うNTTドコモの田仲氏

 実技では「フライトカード」を用いて、100項目以上の操作を習得する。講師が隣で操作指導しながら、レベルチェックも行う。実技で全機能を最低1回は自分で操作しておくことで、実際に業務で使い始めたときに迷わず運用できるという。

 座学と実技を終えたら、最後に「20問・8割以上正答で合格」というテストを実施する。実際の運用シーンで求められる知識を問う内容だ。田仲氏は「落とすことよりも、使えるかどうかの確認をしている」と説明した。

 ちなみに、「2+とX2の違い」を尋ねると、田仲氏は「自律飛行と障害物回避という、基本的なSkydioの強みは同じで、基本性能に差分がある。あとは、赤外線カメラの搭載、セキュリティ対策、静音性などにも違いがある」と答えた。

「Skydio 2」機体とコントローラー、バッテリー等のセット一式
「Skydio X2E」機体とコントローラー、バッテリーなどセット一式

 2+とX2の基本性能を比べると、バッテリー1本あたりの飛行時間が23分から27分に、デジタルカメラZoomが3倍から16倍に向上したという。セキュリティ対策としては、X2Eはコントローラーと機体の通信をAES-128というアルゴリズムで暗号化、X2DではさらにSDカードを暗号化するオプションも含まれるという。公共系やインフラ系の業務で使用するなら、「Skydio Expert Operator(X2)」の受講がおすすめだろう。

「Skydio X2E」(左)と「Skydio 2+」(右)

 静音性を比べるため、「Skydio X2E」と「Skydio 2+」を同時に飛行してもらったが、「Skydio X2E」はかなり静かだった。

「Skydio X2E」(右上)と「Skydio 2+」(左下)同時飛行の様子

日本でよく使われる用途を優先した内容

 Skydioは、上下3つずつの魚眼レンズで360°障害物を回避でき、デフォルト値で87cmの距離まで物体に近づくと、自動で衝突回避ルートを計算し物体をよけて飛行する。距離設定は、飛行中でも3段階で変更可能だ。

 ビジョンベースのシステムで位置測位をコンパスに依存していないため、GPSや電波が入りにくい場所でも安全に飛行でき、高度なAI技術で機体が“行ける”と判断した空間にはスッと入っていく。小型機には珍しく、カメラが真上を向く、ズームもできる。

 また、コントローラーと機体の通信の伝送距離も最大800mまで改良され、一般的な運用では400〜500mはほぼ問題なくなったという。新たに市場投入される「Skydio 2+」は、機体前方にアンテナが2本立てられ、米国での検証ではさらに10〜30%改善したそうだ。

Skydio 2+

 講習では、このような特性をしっかりと頭に入れた上で、“スキル”と総称されるSkydioの機能全般を実際に操作できるのだが、面白いのは日本市場でよく使われるスキルと用途を優先して、米国での講習とは違う内容に仕立てたところだ。米SkydioとNTTドコモの良好な関係性がうかがえる。

 アメリカでは、「トラッキング」というスキルが、警備用途でよく使われるそうだ。「トラッキング」とは、機体の座標位置はそのままで、高度や機体とカメラの向きを変えながら、車体などを認識して追跡する機能。日本ではあまり使われていないため、それよりも「ケーブル」や「キーフレーム」といった、点検や屋内巡回などの用途で習得ニーズの高いスキルに焦点を当てたという。

「ケーブル」は、任意に設定した2地点間を、自動でポジション移動する機能だ。操作画面に映し出された映像空間内には、設定したポジションはAR技術で「A」「B」というグラフィックで表示され、機体が動いている間は「A」と「B」を往復する様子が画面に映っていた。移動速度やポジションは、設定後に編集画面で変更することもできる。

「キーフレーム」は、任意に設定した複数の地点間を、自動でポジション移動する機能だ。「ケーブル」と同様、映像空間内に設定したポジションとルートがAR技術でグラフィック表示された。下記は、操作中のアプリ画面だ。

 最後に、今回取材したコースの対象ではなかったが、「3D SCAN」を自動で行うデモンストレーションも講師陣が披露してくれた。対象物を認識すると、自動で上下の撮影範囲を決めて対象物の周辺四隅にピラーを設置してジオフェンスを設定し、どこから進捗を見るかを決めて撮影を開始した。

撮影範囲を決定中
ピラーを設置したところ
自動で経路を計算する

 アプリの操作画面に映る映像に、AR技術でグラフィック表示しながら、作業の進捗をナビゲーションする様子は斬新だった。白い点のところで撮影した静止画から、対象物を3Dモデル化する。障害物がある場合も回避しながら、構造物などを3Dモデル化できるという。

完成した3Dモデリング

「Skydioを使った人が一番驚くポイントはどこか?」と尋ねてみると、講師陣は口を揃えて「自律飛行しながらも障害物を回避する機能」だと回答した。さらに、屋内などの非GPS環境下でもそれが可能だという。これからSkydio導入を検討するために受講する事業者も歓迎とのことなので、受講してみてはいかがだろうか。実技講習が終わる頃には、自分で考えて飛行するSkydioのことを、すっかり相棒のように感じるかもしれない。