6月20日から航空法で定められたドローンの機体登録制度が始まる。本制度は今年の12月に施行される改正航空法とともに、有人地帯における補助者なし目視外飛行(レベル4)を可能とする制度整備の一環として、先行する形で施行されるルールのひとつだ。
 航空法上の無人航空機としてドローンを飛行させる場合は、国の無人航空機登録原簿に登録することが義務付けられる。同時にドローンの飛行時は、国から通知された登録記号を機体に表示するなどの方法で示す必要がある。ただし、この登録記号は機体に記号を表示するだけでは地上から判読することが困難なため、飛行中は登録記号などの情報を電波に乗せて送出する「リモートID」の搭載が義務付けられている。

 リモートIDは飛行中のドローンから登録記号を電波に乗せて送出する送信機で、航空局や重要施設管理者、警察官らがキャプチャ機器(受信機)でその電波を受信して国交省の登録システムに照会することで、所有者情報等がわかるというシステムとなっている。このリモートID送信機は単体の機器としてのほか、2022年6月20日以降に生産されるドローンについては機体のシステムの一部として内蔵されることになる。
 リモートIDの送信機は、登録制度の施行を目指して2019年頃から官民で規格の策定や技術開発が行われてきた。2020年には国から技術要件が示され、2021年3月には福島ロボットテストフィールドで、通信性能などの技術評価が実施されている。この成果を踏まえて2021年6月にはリモートIDの機器を製造するうえで必要な技術的な規格(案)が公開された。2021年9月にはイームズロボティクスが、2022年6月以降販売するすべての同社のドローンにはリモートIDを内蔵すると発表。同時に2021年10月から「外付けリモートID」の販売を始める(量産と出荷は2022年3月から)ともアナウンスしている。また、TEADは重量12gという小型のリモートIDを開発しており、2022年3月からサンプル提供を開始し、同年5月中旬には量産版をリリースする予定だとしている。

受信機とクラウドをパッケージにしたイームズのリモートIDソリューション

イームズの外付け型リモートID。電波到達距離は最大1500mとされ、車載性能レベルの信頼性が与えられている。

 イームズロボティクスが発売を予定しているリモートIDは、60×30×22mmというサイズで重さは約33g。IP54相当の防塵・防水規格の筐体には、2つのインジケーターLEDとブッシュスイッチ、約120mmのリード型アンテナを装備。日本のリモートIDの標準的な通信方式であるBluetooth5.0 LEに対応し、最大で1500mの電波到達距離を実現している。
 同社ではドローンが墜落した際の捜索や害獣の追跡といった用途に向けて、2年ほど前から独自のBluetoothビーコンの開発に取り組んでおり、現在、これを「簡易リモートID送信機」として製品化している。この簡易リモートID送信機の通信にもBluetooth 5.0 LEを採用しており、この技術を転用する形で新たに機体登録制度に使うリモートIDを開発したという。

イームズロボティクスが、機体の捜索などの用途に向けて販売している簡易リモートID送信機。機体登録制度には使用できない。

 この簡易リモートID送信機は、TOKYO2020オリンピック・パラリンピックにおいても全面採用され、聖火ランナーや競技の撮影用ドローンに搭載された。オリンピック・パラリンピック開催期間中は、小型無人機等飛行禁止法により聖火ランナーのルートや会場周辺は飛行禁止空域とされ、大会組織委員会が認めた同社の簡易リモートID送信機を搭載したドローンのみ飛行可能とされていた。会場周辺では同じくイームズロボティクスが開発した受信機で受信した簡易リモートID送信機搭載ドローンの位置を、ミッションプランナー上に表示して、空域を飛行するドローンを管理。非搭載のドローンが会場周辺で発見された場合には、監視を行うオリンピック・パラリンピック組織委員会から警備会社や警察に連絡するという運用がなされていたという。

TOKYO 2020オリンピック・パラリンピックではイームズロボティクスの簡易リモートID送信機を使って、空域を飛行するドローンの管理が行われた。
会場の競技を撮影するドローンなどに簡易リモートIDが搭載された。
ミッションプランナーの地図上に、簡易リモートIDを搭載したドローンの位置を表示。それ以外のドローンを不審なドローンとして警備当局に連絡した。

 同社ではこうした実績を踏まえて、機体登録制度のためのリモートID送信機を開発。電子部品・車載情報機器メーカーであるアルプスアルパインと共同開発したイームズロボティクスのリモートIDは、落下や振動をはじめとしたカーナビと同じような試験が行われ、車載性能レベルの信頼性が与えられているのが最大の特徴だ。リモートID送信機は登録記号を書き込むための「国アプリ」がリリースされる2022年3月末までに順次、出荷する予定だ。
 また、同社ではリモートIDの電波を受ける受信機も開発しており、警察や警備会社、ドローンメーカー、重要施設の警備などを行う事業者に向けて販売を行うとしている。この受信機は日本のリモートIDの標準的な規格であるBluetooth5.0に加えて、DJIのドローンが採用しているWi-Fi Aware、Parrotが採用しているWi-Fi Beaconの電波も受信可能だという。さらに、この受信機で受信したデータを管理するクラウドサービスの提供も予定しており、リモートID送信機、受信機、クラウドの「リモートIDソリューション」として提供していく予定だ。

イームズロボティクスが開発したリモートID受信機。Bluetooth5.0のほか、Wi-Fi AwareとWi-Fi Beaconにも対応している。

TEADは重量わずか12gのリモートID送信機を開発

 農薬散布用ドローンをはじめ、産業用ドローンを開発・販売しているTEADも独自に開発したリモートIDを発表している。同社とパナソニック システム デザイン、A&I開発の三社で開発したリモートIDは、カーナビのGPSアンテナ程度のサイズで、重量はわずか12gと、非常に軽量コンパクトなことが特徴となっている。

TEADの外付け型リモートID発信機。40×30×14mm、重量12gと非常に小型軽量なことが特徴となっている。

 TEADのリモートIDの開発は、2021年8月に同社が加盟する日本産業用無人航空機工業会(JUAV)に対して、国からリモートIDの規格が示されたことを受けて着手。TEADはこれまでにもドローンの社会実装に向けたソリューションを開発しており、会員制捜索ヘリサービス「COCOHELI ココヘリ」のヘリコプターを補完する自律探索ドローンの開発などにも携わっている。このココヘリの発信機に着想を得て、リモートIDの開発を始めたという。
 TEADはリモートID開発の取りまとめを行い、パナソニック システム デザインがファームウェア、パナソニックのOBが立ち上げたA&I開発がハードウェアの開発を担当している。TEAD製リモートIDは、ソフトウェアとしてネットワークにつながる脅威から守るため、製品セキュリティを確保しており、ハードウェアは標準品のモジュールを使うのではなく、A&I開発が持っている独自の無線技術を生かした開発により、わずか12gという軽さを実現しているという。また、ユーザーの利便性を第一に考えることで全指向性に対応し、機体への柔軟な配置を可能としながらも混線を生じずに最大で2000mの受信に成功している。生産はパナソニックグループの工場で行うとしており、3月からはユーザー検証を開始し、5月から出荷を予定している。また同社ではこの外付け型リモートIDに加えて、GPSの情報と電源を外部から供給する内蔵型のリモートIDの開発も行っており、今後ドローンメーカーなどへ提供していく。また、A&I開発の独自アンテナによる4000mまでキャプチャ可能な受信機の開発も視野に入れている。

 同社のリモートID送信機の小型軽量という特徴を生かし、産業用途だけでなく個人のホビーユースのユーザーにも広く訴求していくとしている。機体登録制度の開始と同時に、それまで200g以上とされていた航空法上の無人航空機の定義が100g以上と変更される。特に新たに無人航空機の対象となる100~200g程度の小型ドローンのユーザーにとっては、数10gというリモートID送信機を搭載することは現実的ではなく、12gというTEADのリモートIDはこうしたユーザーに支持されることが予想される。

3月24日には最大5台のドローンに外付けリモートIDを搭載し、電波混線と実測の実証実験を実施。関係各省からも多くの見学者が集まった。
開発中の内蔵型リモートID。GPS情報や電源を外部から供給するなど、機体に内蔵することを前提とした仕様となっている。