近年、欧州と米国メーカーを中心に、空飛ぶクルマの実現を目指した機体開発が活発化している。国内でも複数のスタートアップ企業が機体開発に取り組んでおり、飛行実験に成功する実績も増えてきた。そんな中、ドローンソリューションや運用サービスを手掛けるTerra Droneは、9月に空飛ぶクルマ事業への本格参入を発表した。今回はTerra Droneの徳重代表に空飛ぶクルマ事業参入の狙いを聞いた。

Uniflyのソリューションを活用した空飛ぶクルマ事業への参入

 同社は国内で測量・点検におけるドローン運用を手掛ける一方で、海外のソリューション開発企業などと提携し、海外でのサービス提供に力を入れている企業だ。その結果、同社が提供するサービスには、世界の優れたソリューションが用いられており、それが強みとなっている。徳重代表は同社を創業した2016年当時からドローンの海外市場に目を向け、自ら現地に足を運ぶことで、各国の需要を汲み取った事業を展開しており、空飛ぶクルマ事業もそのひとつだ。

 本格参入を発表した空飛ぶクルマの需要について、徳重氏は「まずはじめに、国内においては地方航空の衰退が深刻化している。そもそも空港が無い地域や、空港を建設したにも関わらず、便が少ないがために利用されない、中心市街地からのアクセスが不便だといった課題がある。このような課題に対して空飛ぶクルマによる移動は有用性が発揮できる。次に、災害時には夜間の捜索活動や物資運搬を迅速に行える。ヘリコプターとは異なり、自動航行が可能なため、とくに夜間での運用は安全かつ効率的な救助活動が期待できる。さらに、米国や東南アジアでは都市交通の渋滞回避に対する需要が非常に高い。空飛ぶクルマはポート等の開発は必要だが、鉄道や道路のように大掛かりなインフラ整備が不要な点も利点だ」と説明した。

 これらの課題解決につながる空飛ぶクルマの社会実装は、官民で議論を交わしながら進められており、国内においては2020年代半ばの事業スタートを目標にしたロードマップが経済産業省から発表され、具体的には2022年から2023年に機体の量産に関するサプライヤーを選定し、2024年からのサービスインを目指している。今後、大きな市場に発展する可能性がある空飛ぶクルマ市場への参入にあたり、徳重氏が注目したのは、国内外で参入している企業のほとんどが機体開発メーカーということだ。市場の立ち上がりは機体に対する需要が高まるが、その先の社会実装となると航空管制が求められる。徳重氏はそこに注目し、かねてよりドローン用として提供してきた「Terra UTM」を基に、国内における空飛ぶクルマの航空管制を開発していくという。

Airbus/Boeing社の資料によると、空飛ぶクルマはATMで交通管理される有人航空機とUTMで運航管理されるドローンの中間に位置し、将来的にはATMとUTMが融合することが想定されている。

 一方、欧州のエアラインなどの航空管制は、半分を政府が担い、もう半分は民間企業が担うという特徴がある。航空交通管理(ATM)や、航空用気象サービスの提供を行う欧州のANSP(Air Navigation Service Provider)は日本でいう国土交通省航空局にあたり、欧州では各国によって公的または民間の法人が担っている。

Volocopter社の実証実験の様子と、使用したUniflyのUTM。

 同社はベルギーの運航管理システム開発企業であるUnifly社に出資しており、ANSPとの取引もあることから、空飛ぶクルマ事業の本格参入を決定したという。Unifly社は2019年10月にシンガポール空港で、ドイツのVolocopter社と空飛ぶクルマの飛行実験を実施し、実際にUTMを使った運航管理を行っている。Unifly社は欧米でのUTM導入実績で同業界トップ企業として知られており、欧州で最大の空域を管理しているドイツ航空管制局も主要株主として参画している。北米カナダにおいては、2021年6月にシステムを本格リリースし、カナダ国内の管理空域におけるすべての飛行承認申請は、Unifly社のシステムを通して行われている。また、2021年10月にスペイン航空管制局、11月にはブルガリア航空管制局のドローン運航管理システム「U−スペース」の開発を発表するなど、欧州各国との連携を強化中だ。

 ドローン用に開発されたソフトウェアの多くは、ドローンパイロット向けに飛行申請やドローンの機体情報の可視化などに重きを置いているが、Unifly社の創業陣は、管制局や航空業界での経験を踏まえ、UTMの開発を始めたことが特徴だ。そのため、位置情報や気象情報などの一連の情報表示の組み込みに加え、パイロットへの情報伝達だけでなく、各国の飛行承認申請のプロセスや空域管理にフォーカスしており、有人航空機・空飛ぶクルマ・ドローンを統括して航空管制を行うことを目標としている。

社会実装に欠かせない有人航空機、空飛ぶクルマ、ドローンの運航管理

 Terra Droneは、2021年10月に大阪府公募案件に採択されたことを発表した。これは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と朝日航洋と共同で提案したもので、「エアモビリティ統合運航管理プラットフォーム」をテーマとし、有人航空機、空飛ぶクルマ、ドローンの安全かつ効率的な運航機能を実証検証していくという事業だ。徳重氏は2025年に開催される大阪・関西万博に向けて、実証実験を重ねていく予定とし、日本においてはドローン用に開発してきたTerra UTMを用いて航空管制を行う。さらには、JAXAの有人航空機向けの動態管理システムである「D-NET」と一部技術移転を実施済みとなり、有人航空機との衝突回避と運航管理を実現していきたい考えだ。

 徳重氏は空飛ぶクルマの市場について「世界的に見れば、空飛ぶクルマは2025年頃から実装やサービスインが始まると考えている。近年の技術進歩の動きはとても早く、近未来の市場が立ち上がったときの産業インパクトは非常に大きい。Terra Droneを創業した2016年当時、展示会で中国企業が開発した空飛ぶクルマのコンセプトモデルを拝見した。これほど大型なものが飛行するにはまだまだ時間がかかるだろうと感じていたが、たった5年の間に空飛ぶクルマの飛行は現実のものとなった。今後、2025年にかけては急速に技術が進化し、空飛ぶクルマも実現に向かうと感じている」と話した。