消防本部でのドローン運用を推進する「ドローン運用アドバイザー育成研修」
2021年10月、福島県南相馬市の福島ロボットテストフィールド(RTF)で、総務省消防庁の「ドローン運用アドバイザー育成研修」が実施された。この研修は総務省消防庁が進める「災害対応無人航空機運用推進事業」の取り組みの一環で、全国の消防本部から選ばれた指導的立場にある消防職員を対象にした研修だ。
2019年に第1回を開催した同研修会は、RTFの模擬施設を活用することで、より災害現場に近い環境でさまざまな飛行訓練を行う。受講した消防職員を「ドローン運用アドバイザー」として認定し、各消防本部で受講内容を展開することで、ドローン運用アドバイザーを中心に運用体制の構築や人材育成につなげることを目的としている。
総務省消防庁によると、令和3年6月時点で消防本部は全国724本部あり、そのなかでもドローンを活用しているのは383本部にのぼり、年々増加傾向にあるという。各消防本部では、主に災害現場の実態調査や捜索活動において、ドローンの有用性を発揮した実績があり、総務省消防庁ではドローンの導入を推進している。同研修会のほか、「消防防災分野における無人航空機の手引き」といった運用マニュアルを各消防本部に展開し、政令指定都市である20カ所の消防本部にはドローンを提供するといった取り組みも行っており、消防防災分野におけるドローンの普及と活用は徐々に広まりつつあるという。しかし、ドローンを導入する消防本部が約半数に差し迫る一方で、運用面や人材育成が各消防本部の課題となっており、同研修会はこれらの課題解決を図る重要な取り組みとなる。
同研修会は民間のドローン企業が訓練講習を担うかたちで毎年実施され、10月に開催した研修会はドローンの運用サービスや機体のカスタマイズ受託を主体事業にしているJDRONEがインストラクターを務め、カリキュラムは総務省消防庁とともに考案したものだ。
災害現場を想定した実践的な6つの飛行訓練
飛行訓練の内容は、構造ビル、NIST、自動航行、遠距離目視外、要救助者の捜索、夜間飛行の6項目。
まずはじめに、構造ビルでは試験用プラントを火災が発生した高層ビルに見立て、ビル内部に取り残された要救助者と火元を捜索する訓練が行われた。捜索はドローンに搭載した赤外線カメラを使用し、ビル周辺から熱源を探し出す。マンション火災などにおいては煙で可視光カメラが使えない事例が多く、赤外線カメラを用いた構造ビルにおける捜索需要は高いという。飛行訓練では、実際にビル内部にターゲットを置き、撮影して帰還するという訓練が行われ、ビル周辺を飛行させる際の注意事項のほか、突風や電波干渉による影響、赤外線カメラの使い方などを説明した。また、構造ビルでは赤外線カメラを使用することから、比較的新しいDJI Matrice300 RTKが用意された。こういった新型の機種に触れることができ、搭載された新技術の使い方をレクチャーしてもらえることも同研修会のポイントだという。
2つ目は、複数のバケツを組み合わせて作られた訓練用機材を使用したNISTだ。これは、バケツの内部に書かれた文字を撮影し、点数を獲得しながら時間を計測して帰還するというものだ。バケツはあらゆる角度で取り付けられており、飛行操縦に加え、カメラの操縦技術が問われる。捜索活動では、機体とモニターを見ながら飛行させ、要救助者を的確に捉えなければならない。さらには周囲の障害物にも注意しながら飛行させるなど、高度な操縦技術を習得する必要がある。NISTは点数化することで、自分の操縦技術のレベルを知ることができ、日常訓練として導入している消防本部もいくつかある。インストラクターの櫻井氏は「操縦技術を身に付けるほかに、今回は周囲に複数の補助者を付け、操縦者と補助者によるチーム体制の構築を学んでもらった。これにより、言葉によるコミュニケーションの難しさや、サポートの立ち回り方法などにも焦点を当てることができた」という。
3つ目は災害時における被害状況の把握を想定した自動航行によるマッピングの訓練だ。各消防本部での運用のほとんどは、手動操縦によるもので、消防防災においては自動航行の活用が進んでいないという。総務省消防庁の担当者によると、「災害現場は当然のことながら毎回場所も飛行条件も異なるため、手動操縦で実施することが多く、自動航行を活用する消防本部は少ないと聞いている。ただ、ドローンの持つ自動航行機能はさまざまな災害現場で効果的に活用できる可能性があることを知ってもらうため、カリキュラムに取り入れた」という。
自動航行では飛行計画の作成を行い、広範囲の写真を撮影して帰還するといった一連の運用方法をレクチャーした。また、撮影したデータから生成する3次元モデルの有用性が伝えられた。インストラクターは「自動航行が安全で便利であるという前に、まずは興味関心を高めるために、自動航行の面白さを消防職員に知ってもらうことを狙いとした」と話した。
4つ目の遠距離目視外飛行は、山火事などの広範囲での情報収集を想定した訓練だ。実際に工場火災などの広範囲の災害では、有人航空機による被害把握が主流だが、ドローンを使用すれば迅速に低高度から広範囲の情報収集が可能になる。訓練では撮影するポイントや機体が見えない中での操縦方法、電波途絶や映像伝送との関係性、トラブル回避の方法などを解説し、高高度かつ目視外飛行の運用を実際に行った。
5つ目は市街地の模擬施設を活用した要救助者の捜索だ。市街地における被災者の救助を想定し、まずはドローンで要救助者の位置や様子を確認。それから市街地全体の被害状況を把握し、土砂崩れや道路の陥没・冠水、障害物状況などをマップ上に記しながら、どのルートで緊急車両の応援を呼ぶかといった救助計画を組み立てる訓練が行われた。
6つ目の夜間飛行は、赤外線カメラの映像を頼りに捜索活動を行い、実際にRTFの敷地内に救助者を想定した人員を配置し、ドローンで捜索することでほかの部隊へ伝達する訓練が行われた。より正確かつ効率的に位置を知らせる方法などを学び、夜間での操縦を体験した。夜間は機体が見えず、フロントLEDとステータスLED、モニターの映像を見ながら向きや位置を把握するため、非常に難しいという声が多かったという。
NISTのインストラクターを担当した櫻井氏は「普段からスクール講習を担当しているが、消防士の方々はとても向上心があり、ひとつひとつのノウハウを真摯に受け止めてくれた。NISTは難しい反面、とても練習になるという声が多く、なかにはすでに導入している消防本部が存在するなど、要望にマッチした訓練が提供できたと思う」と話した。