11月2日、TEADとパナソニック システムデザインは、東京都建設局河川部防災課の協力のもと、3拠点間においてドローンの遠隔操縦を使い、自然災害発災後の情報収集を目的とした実証実験を実施した。

災害現場の情報収集と要救助者の捜索を目的とした実証実験

 実証実験は東京都西多摩郡奥多摩町留浦地区で自然災害が発生したことを想定したもので、山林に囲まれた奥多摩フィールドからドローンを離陸させ、周辺環境の情報収集を行うというものだ。今回はふたつのシナリオが用意された。ひとつ目にドローンの可視光カメラを使い、災害発生後の被害状況を撮影すること。そして、ふたつ目は要救助者を捜索し、ドローンで位置情報の取得と容態確認を行う実証が行われた。

ドローンの飛行は離陸から着陸まで東京都庁から制御し、すべて自動飛行で実施される。

 被災地からドローンを飛ばし、現地で周辺の被害状況の確認を行う運用は、今までにも多くの企業が実証実験に成功している。そこでTEADとパナソニック システムデザインは、被災地を想定した奥多摩フィールドと東京都庁、新横浜の会議室の3拠点をWeb会議サービスのZoomで中継し、パナソニック システムデザインが開発した遠隔地からドローンの制御を行うシステムを使って、東京都庁からドローンの操縦を行った。ドローンの映像伝送や飛行制御には、NTTドコモが7月からサービス提供を開始した「LTE上空利用プラン」を利用することで、LTE通信による映像伝送と遠隔操縦が可能となった。遠隔地からドローンを制御することで、現地にプロパイロットを派遣する必要がなく、迅速にドローンを運用することが可能になる。また、複数の拠点と映像を共有し、明確な指示や意思疎通を図ることができるなど、有事の際におけるメリットは大きい。

 今回の実証実験のふたつ目のシナリオは、ドローンによる要救助者の捜索活動だ。実際に自然災害が発生した場合、広域な山林の中を闇雲に飛行させても要救助者を発見することは難しい。日数をかけて長期的に捜索するのであれば、発見につながる可能性は高いが、人命は72時間を超えると急激に生存率が低下することが分かっており、迅速な救助が求められる。そこで、オーセンティックジャパンが提供する会員制捜索ヘリサービスである「ココヘリ」と協力し、サービス加入者を早急に見つけ出す検証がシナリオに組み込まれた。ココヘリは登山で遭難事故などに遭った登山者の早期発見をサポートするサービスで、加入者には電波信号を発信する発信機が配布される。それを所持しておくことで、救助用ヘリコプターは発信機の位置情報を取得できるといったものだ。今回は、この電波信号の受信アンテナをTEAD製の防災用ドローンに取り付け、ドローンをヘリコプターの代替えとした。さらには、遠隔地から捜索することを前提に、パナソニック システムデザインは電波信号を受信すると、自動的に発信機の推定位置をマップ上にマーキングし、自律的にドローンが発信機の電波信号に向かって飛行していくシステムを開発した。

離陸から着陸までオール自動で完結するLTEを使った遠隔制御

大型モニターに映し出した各拠点の映像とドローンの制御システム。

 実証実験は東京都庁の一室に備えられた大型モニターを使って実施された。Zoomで中継したのは、新横浜の会議室、ドローンの制御を行う東京都庁、ドローンの撮影映像、奥多摩フィールドの拠点の様子を映した映像の4つ。それに加え、マップ情報やドローンの姿勢・位置、ドローンの制御ボタン、発信機の推定位置などを表示するパナソニック システムデザインによる制御システムの画面が映し出された。

ドローンの制御システムではマップ情報にドローンの位置をリアルタイムで表示。空撮映像(中央)とFPVによる映像(右上)の表示に加え、ドローンの姿勢や高度、GPSの受信状況などが確認できる。ドローンとカメラは矢印のボタンで簡易的に操縦でき、緊急着陸などの安全機能も完備している。

 まずは各拠点と意思疎通を図り、ドローンの準備ができているか、どういったルートで飛行させるかなどの打ち合わせが行われた。なお、ドローンの飛行計画はウェイポイントで事前に作成しており、ドローンのバッテリー確認、始動と離陸は東京都庁から行える。一方、奥多摩フィールドでのドローンの準備は離着陸場に運ぶだけといった具合だ。今回はレベル3相当の補助者有りの目視外飛行で実証実験を行ったため、飛行ルート上に補助者を配備している。それに加え、トラブルに備えて2名のパイロットがスイッチングでオペレーションできる体制を整えた。

 各拠点との準備が整ったうえで離陸を開始。まずは情報収集のシナリオに沿って、ウェイポイントで自動飛行を開始する。想定した災害現場の上空に着くと、東京都庁からカメラの微調整とドローンの移動を簡易的に行い、周辺環境の撮影に成功した。飛行中はFullHDで撮影したFPVカメラの映像を表示し、ドローンの飛行状況が確認できる。なお、遅延速度は0.5秒に設定し、リアルタイムに映像を伝送しているという。ドローンの空撮映像は4Kで撮影しており、映像伝送時にはVGAに変換しているため、各拠点では画質を落とした映像が配信され、LTEではややコマ送りのような映像となっていた。災害現場の情報収集を終えたドローンは、最短距離で奥多摩フィールドへ自動帰還した。

発信機の電波信号を受信すると青いポイントがマーキングされる。ドローンは自律的にポイントに向けて飛行を開始。
カメラで要救助者を捉えると、人物検知AIが人を認識し、緑の枠で位置を明確に強調する。

 次に、要救助者の捜索のシナリオに沿って飛行を開始。しばらく飛行すると、マップ上に青いポイントが表示された。これは、要救助者の発信機の位置を受信し、独自のアルゴリズムで位置情報を推定したものだ。ドローンは自律的に向きを調整し、次第に青いポイントへ近づいていく。今回は山の谷間に要救助者を配備して検証が行われた。山は電波信号を遮断してしまうため、何度か電波信号が途切れる場面もあったが、遠隔制御のソフトウェアには再探索ボタンがあり、ドローンの向きや位置を少し変えながら再探索をかけることで、電波信号を再度受信する。これを繰り返しながら発信機の位置に辿り着くことができた。なお、電波信号は見通しの良い所であれば、発信機から約15kmの範囲まで届くという。TEADの防災ドローンには人物検知AIも搭載されており、要救助者を見つけると緑の枠で人を囲う機能も活用された。

TEADとパナソニック システムデザインは、東京都庁の職員に向けて実証実験を公開。ドローンの新たな運用方法として、好印象な表情が伺えた。

 今回の実証実験を通じて、TEADの担当者は「遠隔地からドローンを飛行させることで、迅速に災害調査に役立てられることが分かった。災害対応では、いかに早くドローンを飛行させられるかが重要で、地方自治体等がドローンを導入していると、効率的に運用が進む。しかし、有事の際にすぐさまドローンを運用するためには、日ごろから運用訓練を行う必要があり、今回のようなケースでは事前に飛行ルートを作成しておかなければならない。そのためにも、日ごろの訓練で複数の自動飛行のルートをライブラリーにストックしておき、有事の際にはすぐさま該当する飛行ルートで飛ばせる体制が望ましい。当社は機体の販売に加え、地方自治体への導入・運用サポートなども提供しながら、災害現場でのドローン活用を広めていきたい」と話した。

 LTEの上空利用は物流配送だけでなく、ドローンの新たな運用につながる。これまで、ドローンのオペレーションチームが現地に赴き、安全なドローンの運用を行ってきたが、精度の高いソフトウェアや周辺ツール、機体の飛行精度向上などを経て、ドローンの運用方法は、場面に応じて大きな変化を遂げている。