空飛ぶクルマの開発を手掛けるテトラ・アビエーションは、バッテリーを動力源に飛行する垂直離着陸機(eVTOL)の「teTra Mk-5」を開発し、国内企業として初となる空飛ぶクルマの予約受付を米国で開始した。法規制や空飛ぶクルマの定義が明確に整っていないなか、Mk-5はどのような位置付けとなり、どのように運用する次世代モビリティなのか、テトラ・アビエーションの将来展望とともに解説する。

テトラ・アビエーションがGoFly向けに開発した「teTra Mk-3」。

 2020年、テトラ・アビエーションは初の開発機体となる「teTra Mk-3」を発表した。これは、米国で開催されたGoFlyという航空機コンペ向けに開発したエアモビリティで、レースを目的につくられたコンセプトモデルだ。GoFlyのレギュレーションに合わせたコンパクトな設計に、大型のプロペラ4枚を備えた1人乗り用のeVTOLであり、市販モデルではない。

 GoFlyには103ヵ国から854チームものエントリーがあり、同社はそのなかのトップ10に選考され、さらには最終飛行審査でプラット・アンド・ホイットニー・ディスラプター賞を受賞するなど、高い技術力や優れたデザイン力が評価されている。当初は数人の有識者で構成されたボランティアチームだったが、GoFlyの最終選考では、事業として成り立つことも条件付けられており、これを機にテトラ・アビエーションの法人化が進められた。

既存の航空機に則って飛行を可能にした空飛ぶクルマ「teTra Mk-5」

7月に予約受付を開始した「teTra Mk-5」。航続距離160kmの移動が可能で、長距離の移動手段として使用できる。また、巡航速度も160km/hと高速移動を実現した。

 同社はコンセプトモデルのteTra Mk-3に続き、市販向けの空飛ぶクルマ「teTra Mk-5」を7月に発表した。世界40台の販売目標を掲げ、すでに予約受付を開始しており、納品は2022年末を予定。納品までに試験飛行を繰り返しながら、ブラッシュアップを進めていくという。

10月には試験飛行を行い、その様子が公開された。バッテリーのみの動力源で非常に安定した飛行を実現している。

 teTra Mk-3とはコンセプトが異なることから、機体形状はより有人航空機に近いつくりとなっている。空飛ぶクルマといえば、teTra Mk-3のように複数の大きなプロペラによって飛行するものがイメージされやすいが、teTra Mk-5は固定翼に32枚もの小型プロペラを並べた設計で、垂直に離着陸し、尾翼のプロペラと固定翼によって巡航する。これについて担当者は「同機は市販向けの有人飛行が前提となるため、安全性の確保を第一に考えた。将来、実現を目指しているマルチコプター型では、1つでもローターが故障してしまうと飛行が困難になってしまうため、現在の技術力での実現は難しい。固定翼に並べた32枚のプロペラは、そのうちの2枚が故障しても飛行可能な設計となっており、将来的には4枚のプロペラが故障しても飛行できる機体を目指している。また、騒音の低減を目的に、プロペラのブレード回転速度を速くするといった工夫を凝らしてきたが、さらなる静穏性の向上を目指していきたい」と話した。

 法整備が進んでいないなかで空飛ぶクルマを運用するには、いずれかの既存航空機のルールに則って飛行させるほかない。そのため、同機は自家用航空機という括りでの扱いとし、厳密には滑空機とセスナ機などの軽飛行機の中間に位置付けられる。飛行エリアや運用ルールは自家用航空機と同じ扱いで、対地高度300~600mの空域を飛行する。また、同機はジョイスティックで操縦を行い、日本では自家用操縦士、米国ではプライベートライセンスの免許取得が必要となる。

 日本では自家用航空機の所有者が少なく、市場は非常に小さい。一方、米国では自家用航空機やプライベートライセンスを所有することは珍しくなく、飛行エリアも広く整備されている。それに加え、連邦航空局(FAA)への飛行申請システムも非常に整っており、飛行直前に飛行日時やルートをアプリから申請するだけで飛行が可能だ。このように、航空機が身近な文化となっている米国での販売を通じ、さまざまな意見をフィードバックしていくことが同社の狙いだ。

キットプレーンとして提供し、耐空証明の取得などはユーザーが自ら行う仕組みとなる。

 自家用航空機には、キットプレーンと呼ばれる種類があり、同機はこれに該当する。キットプレーンは組み立て式のキットになっており、購入したユーザーが組み立て、耐空証明を取得するといったもので、teTra Mk-5はキットの状態で納品される。米国はもちろん、日本でもキットプレーンの組み立てを生業としている企業や個人が存在し、依頼を通じて自ら組み立てる必要がある。同社は機体のバージョンアップを繰り返しながら販売していく予定とし、近い将来には組み立てた状態で納品する量産機の製造を目指しているという。

 機体の販売に注力する一方で、今後はアフターサービスも重要な事業になるという。自家用航空機には法定点検が定められているが、空飛ぶクルマに該当する同機は使用する構成部品等が異なることもあり、法定点検が定められていない。とはいえ、厳密には自家用航空機より上位に位置付けられるエアモビリティなので、定期的な整備が求められるという。担当者は「現状では整備項目や整備頻度が決められていない。安全な飛行を担保するためにも、旅客機や自家用航空機と同じように購入者には日常点検を勧めている。しかし、それでも購入から年数が経過すれば、消耗や故障といった不具合が出てくるので、同社ではアフターサービスの展開を予定している」という。

空飛ぶクルマのサービスインと想定用途

 担当者は「2023年に空飛ぶクルマの飛行を公開することは可能だが、ビジネス構築や社会実装にはもう少し時間がかかると見ている」と話す。続けて「以前は空港からヘリコプターをタクシー代わりに飛ばすサービスもあったが、コストと需要のバランスが見合わずに廃止されてしまった。我々は空飛ぶクルマの移動サービスが実現した際には、タクシーよりもやや高い価格帯での提供になると見込んでおり、そのコストに見合う空飛ぶクルマならではの付加価値を打ち出していかなければならない。また、タクシーのほかに業務用の移動手段としての提供も考えている。例えば、洋上風力設備の点検は船舶で着岸しなければならないが、エアモビリティであればアクセスが容易になる。こうした、洋上風力設備など、過酷な環境で離着陸可能なエアモビリティが開発されれば、非常に有用なものになる」と、一般的な移動手段だけでなく、業務における移動手段としての有用性にも触れた。

 また、2025年に開催を予定している日本国際博覧会では、タクシーとして提供し、いよいよ対価を得るかたちのサービス化が始まるという。同社はこれに向けて、2人乗りの次期モデルの開発を進めていると話した。