1964年以来、57年ぶりに日本で開催された東京五輪。開会式では日本の代表的なゲーム音楽に合わせた入場行進が感動を巻き起こし、約1800機のドローンが夜空を彩るなど、サプライズな演出に世界中が歓喜した。

 東京五輪の成功の裏では、ウェザーニューズと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が連携し、開催期間中に飛行する500機を超える航空機を管理するといった前例の無い大規模イベントでの運航管理が行われていた。

 東京五輪では、有人航空機に限った一元情報管理であったが、有人航空機の情報共有システムの仕組みや複数機の運航管理は、ドローン物流などが始まる今後のドローンの安全運航にも関わり、将来的には有人航空機のプラットフォームにドローンが組み込まれていく可能性もある。また、2022年に施行される航空法改正では、機体認証制度やライセンス制度および1等資格の創設など、部分的に航空機を意識した内容も垣間見える。今回は東京五輪における有人航空機の運航管理と、有人航空機とドローンの共存について、ウェザーニューズの航空気象事業部 グループリーダーである高森氏に伺った。

有人航空機の状況を把握する動態管理システム

 ドクターヘリや消防防災ヘリ、報道ヘリ、空撮・測量用ヘリなどの有人航空機の運航には動態管理システムが用いられている。動態管理システムは、飛行する航空機の位置情報をはじめ、巡航速度、航空機の向き(ヘディング)を把握することができる。東京五輪では各動態管理システムを連携させ、同じシステム上で位置情報などを表示させながら運航管理を行った。2社の動態管理システムから得た情報を同じ場所に集約し、表示したのは日本で初めての試みだ。

ウェザーニューズ独自の機内持ち込み型動態管理システム「FOSTER-CoPilot」。

 連携した動態管理システムはウェザーニューズの「FOSTER-CoPilot」とJAXAの「D-NET」で、FOSTER- CoPilotは超小型の衛星通信端末を航空機に持ち込むことで、地上の運航管理卓の気象端末に航空機の位置を表示し、ウェザーニューズではドクターヘリや民間航空機、警察、ドローンなどのデータを取り扱っており、気象情報と合わせて運航管理を提供している。一方、D-NETは消防防災ヘリに搭載されており、2013年からFOSTER- CoPilotとの連携を開始している。2016年に発生した熊本地震の際にも連携して運用しており、有事の際には航空機の情報を把握する重要なシステムとして役立てられている。なお、今年からウェザーニューズは海上保安庁、国土交通省、防衛省に動態管理システムを導入することが決定しており、これで各省庁すべてに動態管理システムが導入されることになる。

特別な処置のもと行われたイベント上空の運航管理

空域統制所で説明を行うウェザーニューズの高森氏。
東京五輪で設定された飛行制限区域は、国立競技場中心から半径約46kmにおよぶ。

 東京五輪の競技場上空では7月21日から9月5日の期間、有人航空機に対する特別な処置が講じられた。ひとつめは航空法第80条に基づく、飛行制限区域の設定だ。これは、国立競技場中心から半径約46kmと各競技場を中心とする半径約3kmの範囲で設定され、すべての高度が該当する。関東圏では国立競技場のほか、複数の競技場が設けられ、飛行制限区域の範囲は千葉、埼玉、神奈川東部と広範囲に設定された。

 ふたつめは、飛行制限区域を飛行する有人航空機に条件づけられたもので、飛行の事前登録、運航計画の提出、飛行中に動態管理システムを搭載することとされた。なお、以下の航空機は制限に該当せずに飛行させることが可能。

警備等を任務とする航空機(警察等)
管制機関から飛行を認められた航空機(定期便(東京国際空港他)等)
航空法第80条但し書きによる許可を受けた航空機(報道機等)
航空法第81条の2に基づく捜索又は救助のための航行を行う航空機(消防・防災ヘリ等)

 東京五輪ではドクターヘリ、報道ヘリ、IOCの放送用ヘリ、空撮や測量業務を行う一般ヘリなどが飛行し、低空域の混雑が想定されるとして、開催期間中は政府によって空域統制所が設置された。2社は関係官庁とともに1日約30名の計100名の関係者を動員し、24時間体制で運航管理にあたっていたという。同社の役割は気象を加味した運航計画の調整、動態管理システムによる効率的かつ安全な飛行の確保などを支援することだ。

 開催期間中は複数の競技場で平行しながら競技が行われている。同社は事前に提出された運航計画をもとに、特に混雑が予想される空域内の悪天候予測がないかなど監視を強化した。運航管理について高森氏は「運航の可否は人が判断しなければならないのに加え、運航管理のほかにも、実際に飛行している航空機の飛行計画との照合、さらには定例のブリーフィングなど、飛行以外にもあらゆる調整が行われていた。これには多くの関係者が関わっており、今後は運航の可否判断や空域調整などをシステム化できるかが課題となる。しかし、飛行の可否は計画のバッティングを判断するだけでない。例えば、一部のエリアが悪天候となった場合には、晴れているエリアで有人機の混雑が予測される。そういった気象情報をもとにした運航管理も行っていた。また、混雑空域での飛行は、優先順位順に調整していくこととなり、あらゆる条件が複雑に絡み合っているため、システム化が難しい。さらには、それが安全であるかを確立する必要もある。そのような今後の課題が見えた一方で、事前に飛行計画を提出してもらい、動態管理システムによって1つの端末上で位置や高度、速度などのすべての情報が可視化されているため、安心感は非常にあった」と話した。