世界最大級のアクセラレーター/VCであるPlug and Playの日本支社Plug and Play Japanは2020年7月29日、「ヒト・モノの移動に見るDrone最新状況」と題したオンラインセミナーを開催した。主テーマは、「ドローンが起こす社会基盤の変容と、中国・アメリカから見る日本の近未来」。アイ・ロボティクス取締役CFO 斎藤和紀氏がアメリカの状況を、エアロネクスト深圳法人である天次科技(深圳)有限公司 総経理 川ノ上和文氏が中国の状況について解説した。本稿では、当日の講演内容を詳細にレポートする。

アメリカでのキーワードは「インテグレーション」

 斎藤氏は冒頭、「エクスポネンシャル思考のプログラムやコンサルティングを行い、企業のデジタルトランスフォーメーションの支援などに携わる中で、ドローンに興味を持った」と自己紹介した。現在は、アイ・ロボティクス取締役CFO、著書「シンギュラリティ・ビジネス(幻冬舎)」や「エクスポネンシャル思考(大和書房)」の執筆を手がけるほか、アメリカのカリフォルニアで大型の物流ドローンを開発するSabrewing Aircraft Companyにも参画して、福島からサンフランシスコまでドローンで無人飛行するプロジェクトを進めているという。

 最初に切り出したのは、「100年以上前から、人間は自由に空を飛ぶことを想像していたが、いままさに、その未来が訪れようとしている」ということだ。

フランスのパリで、マッチ箱の裏に描かれていたという “空飛ぶクルマ”

 斎藤氏は、「いまから5〜6年後には、空飛ぶタクシーで通勤することも可能になるのではと言われている。日本でも政府や、経産省、国交省、総務省がコミットして取り組もうという話になってきている」と話し、日本の状況を踏まえたうえでアメリカの状況について言及した。

 「アメリカでは、空域を管理する団体が3つあります。FAA(連邦航空局)、NASA、そして米軍です。この3つの組織が連携して動いていますが、ドローンに関して影響力が大きいのはFAAです。2020年代半ばにアーバンエアモビリティが空を飛ぶためには、現在すでにFAAの商用化認証の手続きを開始していなければ間に合いませんが、現在6社が先行して進めていると言われています。」

この6社には、斎藤氏が参画するSabrewingも入っており、同社は創業当初の資金をすべて日本の投資家より拠出されているという

 いわゆるドローンに限らず、eVTOLと呼ばれる電動で垂直離発着ができる航空機や “空飛ぶクルマ” の市場が、急速に立ち上がろうとしているなかで、斎藤氏は、「日本においては戦後10年間、航空機開発が禁止された経緯もあり、航空機をゼロから設計するノウハウや場所が失われて、現在に至るまでそれが影響している」と指摘した。

 斎藤氏は、ドローンの社会実装は、5年などの短期間から20年などの長期間で、いつ何がどのように変化していくのか将来展望を描き、時流に乗っていくことが重要だと話した。例えば、いまドローンの活用は、撮影や点検調査が実用化フェーズに入っているが、2020年代前半からは物流が、2020年代後半には人を乗せて飛ぶことが実用化フェーズに入ると見ているという。

日本でドローンとはマルチコプターのイメージが強いが、アメリカでは固定翼機のイメージだという

 そして、「日本とアメリカとでは、ドローンの定義がずいぶん異なる」と切り出した。機体の大きさと飛行距離・飛行性能などの項目で “ドローン” と呼ばれるものをカテゴリ分類すると、ホビー用から点検用途などの大型の機体までマルチコプターはUAV(Unmanned aerial vehicle)、UAS(Unmanned Aircraft Systems)と表現される。さらに、UAM(Urban Air Mobility)という、日本でいうところの空飛ぶクルマやエアモビリティがあり、このほかAAM(Advanced Air Mobility)、eVTOL(electric Vertical Take-Off and Landing)、米空軍によるORB(オーブ)などの呼び方があり、なんと最も大型の機体までドローンと呼ばれるそうだ。日本でドローンというと、マルチコプターを想起することが多いことを考えると、確かに定義はかなり違うようだ。

アメリカでは機体サイズや用途によって呼称の区別が進みつつあるという

 また、米軍で戦闘機と一緒に飛行できるような機体がドローンと呼ばれたり、ボーイングが開発している潜水艦型のものもドローンと呼ばれることにも触れた。呼び名が異なるということは、見えているビジネスモデルも当然違ってくるだろう。

 続けて斎藤氏は、機体の進化やビジネスシーンにおけるホットなニュースをいくつか紹介。7月14日には、NTTドコモ・ベンチャーズがAIによる自律飛行型ドローンを開発するSkydioへの出資を発表した。コロナ禍における非接触配送ニーズの高まりにより、アフリカのルワンダで血液輸送ドローンを手がけるZiplineが、アメリカ国内でも血液の輸送を始めるとの報道もあった。米軍やイギリスによる手のひらサイズ小型ドローンの大量購入、イナゴの群れのように大量に戦略的に攻撃目標めがけて飛行する編隊飛行が検討されていることも紹介した。

 そのうえで斎藤氏は、「アメリカと日本の温度差」について言及。

 「日本の会社の多くは、どうやって飛ばすかにフォーカスしていますが、航空産業が非常に大きいアメリカでは、飛ぶという前提で、そのうえで既存の航空インフラにどのようにインテグレーションしていくかが議論されています。ドローン単体の性能ではなく、システム全体としてのソフトウェアや仕組みづくり、ビジネスモデルを、アメリカの会社は非常に意識的に考えています。」

キーワードは、既存インフラへの「インテグレーション」
様々な課題を全て解決していかなければドローンの進化は進まないのが現状

 アメリカにおいて、これらの音頭取りをしているのがFAAであり、IPP(インテグレーション・パイロット・プログラム)においては航空管制とのインテグレーションを、大手企業や大学を組み合わせた幾つかのグループに “競わせる” 形で、様々な方法を巨大なテストフィールドを活用して試行しているという。リモートIDについても、Airbus、Amazon、Intelなどの技術協力企業を8社選定して、仕様確定および普及に向けた動きを加速させている。2020年5月に開始された米空軍主導のアジリティ・プライムでは、ドローン産業に関する技術を中国などの他国に流出することを防ぐ目的で、米国内民間企業への投資を始めた。

 斎藤氏は最後に、「現在は、電動・垂直離発着等の技術革新により、100年に1度の航空機産業の転換点といわれている。ここで産業が立ち上がらなければ、我が国の航空産業はさらに100年間後塵を拝することになる」と訴えた。

 そのような中、斎藤氏が参画するSabrewingでは、日本とアメリカの合作で開発が進められており、その存在意義は極めて大きいことを付け加えた。アメリカですでに開発されている技術を、重複して独自開発し遅れを取るのではなく、逆にそれらを活用することでうまく立ち回っていくことが必要だという。斎藤氏は、こう話して講演を締めくくった。

 「世界で何が起きているのかの情報を収集し、分析して、それに対応していく力が非常に重要です。」