DJIは、2019年9月下旬、米国ロサンゼルスで年次カンファレンス「AIRWORKS」を開催し、新しいハードウェアの発表やセキュリティに関する取り組みなど先進的な発表を行った。そのカンファレンスで、参加者からも注目を集め、DJIが最も注力して取り組んでいると言っても過言ではないのがパブリックセーフティ(公共の安全)に関わる取り組みである。今回は、DJIのパブリックセーフティ分野におけるディレクター、ロメオ・ダーシャー氏(Romeo Durscher:Director of Public Safety Integration)に、ドローン活用の最新状況についてインタビューを行った。

DJIのロメオ・ダーシャー氏(Romeo Durscher:Director of Public Safety Integration)

――パブリックセーフティ(公共の安全)にかかわるドローン活用の状況について教えてください。

警察や消防などの900以上の機関がドローンを導入(2018年時点)出所:AIRWORKS 2019 キーノート資料

 全米には約4万の警察署や消防署があります。このうち約500か所に、ヘリコプターや小型飛行機など有人操縦の航空機ユニットが整備されています。しかし、こうした設備をすべての現場が所有することは、コストや運用面で難しいです。一方ドローンはヘリコプターや小型飛行機などに比べて安価なため比較的導入しやすいです。実際に、ドローンを導入する警察署や消防署は増加しており、2015年から2018年の間に514%の成長率となりました。

ドローンは世界各地で279名の命を救っている(2019年9月末時点)出所:AIRWORKS 2019 キーノート資料

 昨年、カリフォルニア州パラダイス地区の広範囲における山火事では大規模な作戦を行いました。私もチームの一員として参加しました。このチームは警察と消防から来た16のドローンを活用するチームで構成されており、600以上の飛行任務を遂行してきました。

カリフォルニア州パラダイス地区の山火事への対応状況

 我々のチームは、現場で72,000の動画と画像を取得し、17,000エーカーの地図を作成しました。このようにドローンは現場でなくてはならないものとして、活用され始めています。

――パブリックセーフティ(公共の安全)の分野で、ドローンをどのように活用していますか?

 パブリックセーフティ(公共の安全)という分野の中には、警察、消防、レスキュー、緊急医療などいくつかの分野があります。それぞれに活用の方法は異なるし、地域によっても活用ニーズが変わってきます。

 警察はドローンの情報収集能力の高さから、パブリックセーフティ(公共の安全)に役立つと早い段階から考えていました。現在は、現場の状況把握や事件や事故の早期発見、不審者の発見など様々なことにドローンが活躍しています。また、屋内でもドローンは活躍できます。例えば、家や学校の中に容疑者が立て籠もったケースで役立ちます。屋内で事件が起きた現場では、30年前は地上走行ロボットを使用していました。しかし、このロボットは階段を上ることができないし、障害物があるとそれを越えられません。ドローンはカメラで部屋の様子を見られる、その際に容疑者が見つけられればすばらしいことです。

 消防に関しては、火事の発生初期、発生中、発生後でドローンの活用方法は異なります。たとえば、火事の発生初期には、現場の周りに植物が多すぎるとさらに延焼していく可能性があるため保護しなければいけません。ドローンは、そのような現場の状況確認に非常に役立ちます。
 火災の消火活動を行う際には、ドローンを飛行させて全体の様子を把握できます。サーマルカメラを活用すれば、温度が分かり、ホットスポットを見つけることもできます。ホットスポットを見つけられれば、チームの人員をどのように配置すればよいかがわかります。また、危険物の処理にも利用できます。従来は手元の装置で人が見つけていましたが、ドローンを使って処理できます。時間の節約にもなりますし、人が危険な場所に行かなくて済むため、非常に役に立ちます。

 消火後もドローンは活躍します。ドローンで得られたデータが非常に役立つのです。ドローンのマッピング機能で火事が起きる前と起きた後の比較が可能です。去年のカリフォルニアの山火事でも、それらのデータをもとに、被災状況を把握するだけでなく、保険金の支払いの資料としても活用されました。

被災状況の把握に、ドローンで取得したデータが活用されている

 レスキューの現場では、ドローンによる行方不明者の捜索に利用できます。人が立ち入るのが難しい場所や危険な場所にも人間の代わりに立ち入ることができため、救助へ向かうレスキュー隊自体も守ることができます。緊急医療の現場においてもドローンは活躍します。仮に大規模な事故が発生したとき、救助現場で必要なことは、データと情報です。得られた現場の情報は、救急隊員の対応や病院での処置にも影響が出るからです。

――警察や消防などあらゆる現場でドローンが活用されているのですね。このテクノロジーを現場に実装していく上で課題はありますか?

 ドローンの現場実装に必要なことが、個々の環境によって異なることが挙げられます。つまりドローンの導入は米国と英国でも状況が異なれば、州や町単位でもドローンに対するニーズや基準が異なるためそれぞれの機関の規模感や文化によって、最適なドローンの活用方法を考える必要があるのです。また、ドローンの活用方法に合わせた基準や現場のトレーニングを行う必要があります。ドローンの現場実装は一朝一夕にはいきません。
 ある警察では、警察犬とドローンがチームとして一緒に仕事しています。昨年は、こうした事例はありませんでしたが、今や毎月新しいドローンのユースケースが私たちのもとに届きます。現在は、それぞれの機関がドローンの現場実装に向けて、最適なドローン活用方法を考え、前向きに取り組んでいる段階ともいえます。

――日本でもドローンを公共の安全に活用したいという人が多くいます。そういった方へアドバイスをお願いします。

 実際の現場でドローンを活用して得られたこと、学んだことを同僚や別の組織、機関の人と共有してほしいです。とにかく積極的に情報をシェアすることが大切だと思います。また、何が役に立って、何がそうでないのかを考察し、一緒に訓練もすべきです。ドローンに対する制約や基準を考えるばかりでなく、ドローンによって得られる新たな可能性を考えていく必要があると思います。DJIとしても、現場で得られた知見や技術を積極的に収集し、情報を積極的に広めていきたいと考えています。