2019年6月5日 - 米国ラスベガス。Amazonは、ラスベガスで開催したre:MARS会議(機械学習、自動化、ロボット工学、宇宙)で、最新のPrim Airドローンを発表した。新型ドローンで数か月以内にパッケージ配送を実現するとも公表した。

小口配送の約90%を占める5ポンド以下のパッケージに対応

 re:MARS会議で発表されたドローンは、6つのプロペラを備えた六角形のマルチコプター。YouTubeに公開された飛行の様子によれば、機体は六角形のカバーが地面と水平になるように傾斜した状態で離着陸する。動画からは、どのプロペラが離着陸に利用されているのかはかわからないが、公開された写真から、6つのうちの上下4つのプロペラが離着陸に使われると推測できる。残る左右の2つのプロペラは、水平飛行に移行してから推力に使われるのではないだろうか。機体を覆う六角形のカバーは、翼としても機能するので、効率的な輸送を可能にする。動画では、荷物を投下する様子は見られないが、機体中央の構造から推測すると、おそらくその中に荷物を入れて、着陸後に地面に落とすと考えられる。

新型Prime AirドローンはユニークなeVTOL

 一見するとマルチコプターのように見える新型Prime Airドローンは、ユニークなeVTOLだと考察できる。公開されたデータによれば、飛行性能は15マイル(約24km)に達し、30分以内に5ポンド(約2.2kg)以下の荷物を配送できる。re:MARS会議で講演したJeff Wilke氏によれば、5ポンドの重量は米国でAmazonが配送する荷物の約90%に達するという。つまり、5ポンドの空輸性能で、十分に需要を満たせるのだ。

re:MARS会議で講演したJeff Wilke氏

 また、新型Prime Airドローンは、安全性にも十分に配慮している。自律飛行による安全な航路の確保と、堅牢性の高い機体設計に、AIを活用した安全な離着陸を備える。飛行中には、煙突のような静的な物体を検出するために、多様なセンサーとマルチビューステレオビジョンなどの高度なアルゴリズムで障害物を検知する。また、パラグライダーやヘリコプターのような動く物体を検出するために、独自のコンピュータービジョンと機械学習アルゴリズムも使用している。そして、機体が配達のために降下するときには、人、動物、または障害物のない配達場所の周りの小さな領域を見極める。そのために、上空から人や動物を検出するように訓練したAIアルゴリズムを併用する。

 例えば、配達先の顧客の庭には、物干し用ロープ、電話線、または電線がある。電線の探知は、低高度飛行にとって最も難しい課題の1つだが、Amazonでは新たに開発したコンピュータビジョン技術を使用して、ワイヤーを認識して避けることができる。その結果、機体に装備した画像やサーマルセンサーなどからの情報をもとに、着陸地点に人物などが立ち入っていないか、電線などの障害物はないかなど、安全性に配慮した離着陸が可能になる。
 Amazonでは、Shipment Zeroという環境ビジョンを掲げている。Shipment Zeroでは、2030年までに全出荷の50%のカーボン排出をゼロにする目標を立てている。Prime Airは、このShipment Zeroを達成するための大きなマイルストンであり、Amazonでは数か月以内にドローン配送を実現する計画だ。

機体を覆うカバーが翼として機能する

Prime Air ドローンの変遷

 今回、新たに発表されたPrime Airドローンは三世代目になる。ご存知ない方のために、過去の機体を紹介しておく。

旧世代のAmazon Prime Airドローン (出所:https://www.amazon.jobs/jp/teams/prime-air)

 右の機体が初代モデル。マルチコプター型のドローンに荷物を脱着できる機構を取り付けたもの。ドローンが話題になった大きなきっかけのひとつが、このAmazon Prime Airによるドローン配送への挑戦だった。その後、左側の第二世代となるドローンが登場し、この機体を使ってアイスランドで試験的な空輸も行われた。

 初代と二代目の大きな違いは、「翼」の有無にある。プロペラだけで離着陸と移動を行うマルチコプター型の初代モデルには、飛行時間という限界があった。プロペラをバッテリーで回し続けると、飛行時間は短くなる。空撮や部分的な点検業務であれば、マルチコプター型ドローンでも実用性はあるが、空輸となると実質15分ほどしか飛行できないプロペラ主体の機体には限界がある。そこで「翼」を組み合わせて飛行する第二世代が開発された。このタイプのドローンでは、Amazonよりも一足先にGoogleのプロジェクトXから派生したProject Wingが、オーストラリアで商用ドローン配送を実現している。

GoogleのX-Wingドローン (出所:https://x.company/projects/wing/)

 X-Wingと呼ばれる機体は、12個のプロペラで離着陸と空中でのホバリングを行い、主翼にある2つのプロペラで水平飛行を行う。X-Wingは、Prime Airドローンのような着陸は行わず、機体に取り付けたウインチで配送物を地上に降ろす。この方法により、低高度での飛行を避けて空中からの配達を実現している。

 実用化の面では、X-WingがAmazonに先んじたものの、配送できる物資の重量に制限があり、オーストラリアではサンドイッチや文房具に薬など、軽量な商品のみを空輸している。それに対して、第三世代のPrime Airドローンでは、実用性のある5ポンドの重量を実現した。また、X-Wingが避けた「配達地点での着陸と投下」を実現するために、最先端のセンサー技術とAIに機械学習を組み入れている。その結果、X-Wingよりも空輸の可能性を広げる電気式垂直離着陸(eVTOL)ドローンの開発に至った。数か月以内に、本格的な試験運用を開始する計画だというが、Prime Airドローンがアメリカの空を飛び交う未来が来るのか、興味がわいてくる。