中国のスマートシティ産業におけるドローン活用に注目

 続いて登壇した川ノ上氏は、「もともと、途上国にテクノロジーが、先進国を上回るスピードで実装されていくリープフロッギングという現象に強い関心を抱いていたが、その代表格としてドローンに興味を持った」と自己紹介し、斎藤氏の話を受けてこう話した。

 「ドローンに対する認識は日米でずいぶん異なるようですが、中国はアメリカに近く、航空産業の中にドローンが位置付けられています。」

 また、中国でのドローンのカンファレンスでは、軍事用機体が展示されるケースが多いことや、川ノ上氏が所属するエアロネクストでは、物流領域に特化した機体開発を手がけていることを前置きとして紹介しつつ、このように述べた。

 「都市という観点、物流と交通という観点、さらに物流産業全体の変革におけるドローンの活用領域がどのように変化してきたか、中国のドローン物流産業にどのようなプレイヤーが参入しているか、最後に個人的な注目ポイントについてお話ししたいと思います。ドローンによる物流は、2022年には日本国内でも大きな転換点を迎えるところで、中国におけるドローン物流の動向は参考になるところも多いと考えています。」

 2020年、中国のメディアでは「新基建」という言葉が頻繁に取り上げられているという。これは「新インフラ」という意味で、5G、AI、高圧送電システム、充電スタンド、高速鉄道など7つの分野で、中国政府が国家戦略としてインフラ投資を拡大する方針を発表し、注目が高まっているのだ。

 新インフラ投資で目指すのは、スマートシティの具現化だ。2000年代以降、中国の都市化は急ピッチで進められている。「既存技術を都市開発に導入する」という中国の積極姿勢には目を見張るものがあり、このことが中国各地でリープフロッギング現象を引き起こしているゆえんでもある。

 川ノ上氏は、デロイトトーマツ中国が発表した「超級智能城市2.0:人工智能引領新風向」というスマートシティに関するレポートを引用して、中国におけるドローン活用を理解する上で知っておくべき概況を解説した。

 まず、世界中のスマートシティ建設プロジェクトのうち48%を中国が占めるという。都市のスマートシティ化は、中国全国で急ピッチで進んでいる。

 その状況を都市別に見ると、DJIの本社がありドローンの聖地としても有名な深圳、首都北京がトップ。そして、4位が広州、5位が杭州であることは注目だという。

 というのも、スマートシティ関連の市場規模比較において、「スマート物流」の割合は最も高く、スマート物流産業の主なプレイヤーは、アリババやテンセントなどのネットメガベンチャー企業であるためだ。スマートシティランキング全国5位で2級都市1位の杭州には、アリババの本社がある。

 川ノ上氏は、「杭州では、シティブレインと呼ばれる都市管理AIが進化していて、交通渋滞をAIで緩和した実績や、自動で警察へ通報するパトロールAIの精度は95%に達しています」と話した。

 このような全体の流れの中でスマート物流も発達しつつあるのだが、物流産業において注目すべきは「アリババ、テンセントグループのJD(京東/ジンドン)、既存の物流大手企業であるSF(順豊/シュンフォン)の三つ巴の戦い」である点だという。

 「アリババ系のCainiao(菜鳥/ツァイニャオ)が、中国郵政など、SFを除く既存物流企業トップ5や中小物流企業への投資を進めて、最大級のエコシステムを構築しています。JDは、10万人の配送員を抱えており、2020年には24時間以内の即日配送を一部地域で開始すると昨年発表しました。SFは、30万人もの配送員を抱え、そのうち15%は直接雇用しています。」

 ネット大手が物流産業への参入を加速している背景には、労働力人口の減少、人件費の高騰による配送コスト高、そして宅配取扱件数の急増などの構造的な問題がある。

 「中国の宅配取扱件数は、アメリカの約4倍、日本の約5.6倍で、世界でも群を抜いて多い、圧倒的な物量です。2010年以降、EC化率も急激に上がっています。ECを軸に事業を手がけるネットメガベンチャーであるアリババやJDが、物流領域に参入するのは自然の流れといえます。」

 EC化率向上のほか、即時配送のニーズ上昇や、美団(メイトゥアン)や餓了么(ウーラマ)などはコロナ禍で日本でも使われるようになったUber Eatsの中国版だが、フードデリバリの利用率向上も見逃せない。

・中国のEC化率(小売のネット取引割合)は、20%を超えており世界1位
・一線都市では過半数が注文から1日以内に配送可能
・即時配送の利用者は、4億人を突破
・即時配送に特化した物流配送企業DADA(達達/ダダ)がナスダック上場(ちなみに、筆頭株主はJD)

 こうした背景の中、中国におけるドローン物流の取り組みは、2012年頃から始まった。川ノ上氏は、これまでの動きを、4つのフェーズに分類して解説。

第1フェーズ:2012年〜2015年
物流企業であるSFが先行

第2フェーズ:2015年〜2018年
EC企業が参入

第3フェーズ:2018年〜2019年
商用許可、外資企業との提携

第4フェーズ:2020年以降
商用利用の具現化

 いま、まさに中国の物流業界においては、様々な背景や目的を持つ企業がドローンの商用利用を進めようとしている。川ノ上氏は、注目企業4社の戦略を、アメリカの企業に例えてわかりやすく示した。

 ドローン物流における注目の4社とは、物流を本業とするSF(順豊/シュンフォン)、ECを軸とするJD(京東/ジンドン)、フードデリバリーを軸にスーパーアプリを展開する美団(メイトゥアン)、そして杭州におけるAIによる都市開発にも参画しロボティクスデリバリープラットフォームを手がけ、アリババグループとの連携実績も持つ迅蚁(アントワーク)だ。

 SFは、アメリカでFAAの許可を取得しドローン配送を進める大手運送会社UPS、JDはAmazon、美団はUber、アントワークはドローン物流プラットフォーム開発のMatternet。ちなみに、イーハン(EHang)は特殊な企業で、アーバンエアモビリティプラットフォーマーとして位置付けているという。

 「中国でドローン物流を手がける企業が、商用利用の具現化という第4フェーズにおいて、どのような戦略を実行していくかをウォッチすることで、日本におけるドローン物流産業立ち上げのヒントになることは多いと思います。」

 川ノ上氏はこのように締めくくりつつ、最後に、コロナ禍による非接触配送や、ラストワンマイルの効率アップへのニーズが急速に高まっている現状に言及。法整備を早く進める動きや、中国の民間航空局がドローンによる都市部や離島での配送や5G活用などの用途別の試験基地を整備する動きがあるという。

 「試験基地の解放は、ドローンが様々なユースケースに対応できるよう、情報を集める目的もあるようです。このプロジェクトに、どの自治体や企業が手を挙げるのか、個人的にはとても注目しています。」

 中国におけるドローン活用事例を日本国内で参考にしていくためには、スマートシティ建設プロジェクトを進める都市別、省別に傾向を細分化して捉え、事業性を見極める視点が重要になるようだ。

 イベントでは、参加者からの質問も相次ぎ、ドローン・エアモビリティ関連ビジネス創出への熱気が漂った。いま日本の企業に求められているのは、アメリカ、中国で開発された技術や事業戦略に関する情報をいち早く入手し、日本人が得意とする “上手くカスタマイズする能力” を発揮して、スピーディに打ち手を講じていく実行力ではないだろうか。