第三者上空飛行ができないために多くのスタッフの配置が必要

 この日の飛行は午後1時と午後2時45分の2回。ANAのFDのカウントダウンで旭川医科大学の離陸場所を飛び立ったドローンは、高度50mまで一気に上昇すると、直ちに飛行ルートに沿って巡航を開始。途中、道路の往来があったため一時飛行を停止し、補助者の報告を待って飛行を再開した。また、2人のFDがLINEの音声通話越しに「You have」「I have」と、旅客機の機長と副操縦士が行う所作さながらに、飛行の受け渡しを行うシーンも見られた。ドローンは5分ほどであさひ園に無事着陸。プロペラの回転が停止してディスアーム(作動停止)を確認した上で補助者が機体下の保冷ボックスを取り外し、あさひ園の入り口で患者の介助者である同園の看護師に処方薬が手渡された。

オンライン診療・オンライン服薬指導の様子。
今回、処方薬として配送されたのは、インスリングラルギン「リリー」(練習用キット)1本とマイクロファインプラス注射針3袋(42本)。
アイン薬局の薬剤師から受け取った保冷ボックスをドローンに取り付ける補助者。
ドローンのディスアームを確認した後、補助者が保冷ボックスを機体から取り外し、あさひ園の看護師に引き渡した。
旭川医科大からあさひ園までの飛行の様子。

 今回の実証実験は飛行エリアの制限等から、レベル2の飛行となった。しかし、ANAホールディングスとしては、「空の産業革命に向けたロードマップ」が示している、2022年度中のレベル4(補助者なし有人地帯の第三者上空飛行)を目指しているのは言うまでもない。

 プロジェクトマネージャーを務めた信田氏は、「今回、関わっている配置図を見ていただくとわかる通り、現行の航空法では第三者上空を飛ばすことができないためにこんなにも人員が必要で、それぞれに給与が発生しており、結果として1フライトにコストがどれだけかかっているのかということになる。そのため、我々が飛行実績を重ねてこうすれば安全が確保できると航空当局に理解してもらい、現実的な第三者上空飛行の基準作りを進めていく必要がある」と語る。

地元旭川の出身であることが過疎地の医療アクセスという課題に取り組むきっかけになったという、ANAホールディングスデジタル・デザイン・ラボの信田光寿ドローン事業化プロジェクトディレクター。

 さらに「我々が飛ばしている(有人)航空機は、公共の福祉の利便性と安全性のバランスの上で、みなさまの上空を飛行させていただいている。しかし、ドローンはまだまだ飛行実績が少なく、そのバランスを示すことができない。そのため実証実験を繰り返すことで、航空当局に現実に即した基準を作っていただくように働きかけていきたい」といい、一方で「もちろん、単純に規制緩和を求めるというのではなく、航空機と同じようにしっかり安全なものを飛ばせる技術を我々が持つことで、厳しい所には厳しい基準を作ってもらい、安全にドローンを飛ばすようにならないと社会受容性は育たない」とも付け加えた。

 また、ゼネラルマネージャーの久保氏は、ANAホールディングスとしては航空運送事業者としてレベル4実現後の事業化を目指しているといい、「まずは2022年のレベル4の実現のタイミングで、事業化していいライセンスを得られることがターゲット。もちろん、航空運送事業者としてはそう簡単にみなさまの上空を飛ばせないということは大前提であり、本業の航空運送事業のレベルで安全性を提供することが、社会受容性の喚起につながる。その上で、レベル4実現の先には必然的に需要に基づいたものとして、加速度的にやっていきたい」と語った。

今春からANAホールディングスデジタル・デザイン・ラボのチーフディレクターに就任した久保哲也氏。