航空機運航さながらの厳重な安全管理体制の下で飛行
実証実験の飛行は、旭川市郊外にある広大な旭川医科大学敷地の北端にある、アイン薬局旭川医大店に隣接したレストラン屋上からドローンが離陸。同大敷地の東側に隣接した特別養護老人ホーム緑が丘あさひ園までの約540mを飛行し、同園の庭に着陸し、患者に届けるというものだ。
旭川医科大とあさひ園は隣接しているが、その間には路線バスの運行もある2車線の道路を挟んでいる。そのため飛行中のドローンはこの道路を横断しなければならない。そこで旭川市が中心となって警察をはじめとした関係機関と調整を実施。道路横断について航空法の適用は受けず、道路交通法上も人や車の交通の往来がない状態であれば上空を飛行できるという許諾を得たうえで飛行ができることとなった。そのために、道路の両側には補助者を配置し、もし、飛行中に道路上の往来がある場合はドローンを空中待機させ、往来がなくなったことを確認した上で飛行を再開するという措置が取られた。
こうした安全運航に対する取り組みについては、約70年の歴史がある航空運送事業者としての「安全運航の体制構築、航空法の熟知の遵守、航空交通網管制を理解した上でのサービスの提供を行ってきた」(久保氏)ANAホールディングスならではのもので、今回の実証実験を統括する信田プロジェクトマネージャーのほか、8人のスタッフが飛行を担当。旭川医科大とあさひ園の離着陸場所には、それぞれフライトディレクター(FD)1名と補助者1名を配置。飛行ルート上にも6人の補助者を配置するほか、機体要員としてエアロセンスのスタッフ2名が離着陸地点で待機した。
また、飛行前には「プリパレーションチェックリスト」による確認を行い、その後も「ビフォーテイクオフチェックリスト」「テイクオフチェックリスト」「インフライトチェックリスト」と、ANAが運航する航空機さながらのチェックルールを用いて安全確認を実施。また、飛行に従事するスタッフ全員に対してLINEの音声による連絡網を確保し、その通信にも補助者からFD、FDとFD間、FDと離発着地点の補助者、その他補助者と優先順位を設けるなど、徹底した安全管理を行っていた。
さらに今回の運航にあたっては、旭川医科大の離陸場所とあさひ園の着陸場所にそれぞれオペレーターを配置。旭川医科大を離陸したドローンは原則としてオートパイロットで飛行するが、その飛行を管理し、緊急時には手動操縦で着陸させる役目を担うオペレーターは、中間地点まで離陸場所のFDが担当し、途中で着陸場所のFDに飛行を受け渡すという形を取っていた。これは、今回の飛行ルートのうち、旭川医科大学の敷地がDID(人口集中地区)にあたり目視内で飛行する必要があったため、離陸場所、着陸場所それぞれから機体を見通せるように、2人のFDを配置したものだ。そのために、エアロセンスのドローンは2chの操縦用通信系を備え、2人のFDが切り替えて制御できるようにしてある。