2022年12月に航空法上のドローンに関する新しいルールが施行され、新たに創設された制度のひとつが機体認証制度だ。これは航空法上の飛行の許可・承認が必要な、特定飛行を行うことを目的としたドローンの強度や構造、性能について、設計、製造過程とその現状が、安全基準に適合するかを検査して、安全性を確保するための認証制度である。
機体認証は自動車が検査(車検)を受けて定期的に安全性を確認されるように、使用者が一機ずつドローンの検査を受けて、安全基準に適合していることの認証を受けるというもの。ただし、国がすべての機体を検査するのは手間や時間がかかるため、メーカーが量産するようなドローンの場合、メーカーが主体となって機体の安全性と均一性が基準に適合しているかの検査を受け、その機種に対して適合性の認証を受ける型式認証という仕組みもある。
この型式認証を受けたドローンについては、使用者が機体認証を受ける際に検査の全部または一部が省略される。こうした機種(型式)に対して認証する制度は、自動車の型式指定制度や航空機の型式証明制度に倣ったもので、今後国はメーカー製のドローンについては自動車や航空機のように、日本で飛行するドローンは原則として型式認証を受けることを前提とした制度にしていくようだ。
また、機体認証、型式認証に対してそれぞれ一種と二種の区分がある。一種は立入管理措置を講ずることなく行う特定飛行(カテゴリーⅢ)を目的とした機体を対象にしており、いわゆるレベル4飛行(有人地帯(第三者上空)での目視外飛行)には必須となっている。一方、二種は立入管理措置を講じた上で行う特定飛行(カテゴリーⅡ)を目的とした機体を対象としており、第二種機体認証を受けた機体を用いて、無人航空機操縦者技能証明を保有する操縦者が操縦する場合は、人口集中地区での飛行や人または物件との距離30m以内の飛行、夜間飛行、目視外飛行といった特定飛行で、飛行の許可・承認が不要となるカテゴリーⅡBの飛行として扱われる。もちろん、今後もこうした特定飛行は“機体認証+技能証明”がなくても、許可・承認を受けることで飛行させることができるが、国はドローンユーザーの利便性の向上や、年間8万件にも上る許可・承認にかかる行政コストを抑えるために、機体認証や技能証明の取得を奨励している。
2024年3月に検査要領が改正され二種の検査が合理化される
このように特定飛行ドローンのいわゆるレベル4飛行には第一種機体認証を受けた機体が必須となるだけでなく、レベル3以下の特定飛行では、技能証明の保有と機体認証を受けた機体の組み合わせで、一部の特定飛行についてはカテゴリーⅡBの飛行として許可・承認が不要となる。そのため、多くのユーザーがメーカー製の型式認証機の登場を待ち望んでいることだろう。しかし、2022年12月の制度開始から1年で型式認証を受けたのは、2023年3月に第一種認証を受けたACSLのPF2-CAT3と、同年12月に第二種認証を受けたソニーのAirpeak S1のみであった。また、2023年に認証の申請を行った段階のものは、一種でイームズロボティクスのE600-100、プロドローンのPD6B-CAT3の2機種、二種でイームズロボティクスのE6150TC、エアロセンスのエアロボウイング、ドローンワークシステムのEGL49J-R1の3機種であった(2024年1月にセンチュリーが二種でD-HOPEⅠ-J01を、3月に伊藤忠商事が一種で独WingcopterのWingcopter198を申請)。
このように型式認証を受けた機体が少ないのは、認証を受けるハードルの高さを指摘する向きが多い。型式認証は「無人航空機の型式認証等における安全基準及び均一性基準に対する検査要領(サーキュラーNo.8-001)」と「無人航空機の型式認証等の手続き(サーキュラーNo.8-002)」に基づいて実施される。一般的に検査といえば、国が示した基準に適合しているかを確認するというイメージだが、無人航空機の型式認証の場合、基準は示されているものの概念的で、どう基準に適合しているかは申請者自らが証明しなければならない。国は型式認証についてホームページで「安全基準及び均一性基準への適合性を申請者自らに証明していただく必要があります」と記しているように、いわば正解が示されていない試験を受けるようなものといわれる。そのため、適合性の証明をどうすればいいかわからないという申請者が多く、型式認証プロセスに時間がかかったり、さらには認証取得に二の足を踏むメーカーも少なくないとされてきた。
しかし国は、近年、毎年8万~9万件に上る航空法上の飛行に関する許可・承認の行政コストの抑制を図ることも目的のひとつとして、第二種機体認証と二等無人航空機操縦士技能証明の組み合わせによる許可・承認不要のカテゴリーⅡB飛行の制度を設けた経緯がある。せっかく制度を整備したのに、型式認証を受けた機体が増えないのでは、この機体認証制度がまさに絵に描いた餅となってしまう。そこで国は2023年後半から型式認証制度の合理化を検討してきた。また、政府が2023年12月末に規制改革推進会議の「規制改革推進に関する中間答申」の中で、「型式認証については、製造事業者による認証の取得を促進するため、機体の耐久性及び信頼性等の証明・試験方法の例示、認証のための提出書類の記載の定型化及びガイドラインの充実、標準処理期間の制定等を行う。これらの取組によって、効率的な認証取得を実現し、申請者の開発状況等を勘案しつつ、令和5年度までに5機種以上の型式認証を目指す」という方針を示している。
国土交通省ではこうした政府方針を受けて、2024年3月27日に「無人航空機の型式認証等における安全基準及び均一性基準に対する検査要領」と「無人航空機の型式認証等の手続き」を一部改訂。また、同29日にはこれらサーキュラーの改訂に合わせて、「無人航空機の型式認証等の取得のためのガイドライン」を改訂している。最も大きな改訂点としては、これまで一種と二種を重複させる形で示していた検査要領を、一種と二種で分け、二種は別建てで新たに具体的な基準を示したことだ。特に「耐久性及び信頼性」を確認する区分300(通称“セクション300”)は、新たに区分302「運用の実証」として、運用が想定される運用環境において、運用が可能なことを実証する基準に見直しが行われている。また、手続き面を示したサーキュラーNo.8-002では、リモートテクノロジーによる検査を認めることや、社内試験をはじめとした活用できる試験データの拡大、二種認証については品質管理及び品質管理体制の検査は工程の検査と同時に原則1回とすることといった合理化が図られている。
この型式認証に関するルールの合理化を受けて、2024年3月末にはドローンワークシステムのEGL49J-R1、センチュリーのD-HOPEⅠ-J01の2機種が、4月にはイームズのE6150TCがそれぞれ第二種型式認証を受けている。E6150TCの型式認証は4月にこぼれる形となったが、2023年3月のPF2-CAT3から数えて5機種が、政府が規制改革推進の中間答申で目指した、ほぼ2023年度中に5機種の型式認証を実施したことになる。中でもセンチュリーのD-HOPEⅠ-J01は2024年1月9日に申請が受け付けられており、手続きがわずか3か月足らずという異例の速さで型式認証を受けたことになる。国としてはメーカーに対して型式認証の取得を奨励しており、3月末の型式認証に関するルール改訂を受けて、今後もおもに二種で型式認証が増えることが見込まれる。
飛行エリアの人口密度に応じて増える飛行試験時間という高いハードル
このように規制の緩和ともいえる大幅なルールの合理化が図られた第二種型式認証に対して、第一種型式認証については手続き面での合理化は図られたものの、サーキュラーNo.8-001の検査要領については以前とあまり変わらない。第一種型式認証機を必要とする立入管理措置を行わない飛行、つまり第三者上空の飛行についてはリスクが大きく、それに見合った安全性が求められるのは自明である。特に区分300の耐久性及び信頼性に関する項目については、飛行試験でこれらを実証することが求められており、ガイドラインの中で参考として飛行する区域の人口密度に対する試験時間が示されている。
例えば人口密度が1平方kmあたり390人の地域で飛行させる場合、パラシュートといった危険軽減を行う場合でも150時間の試験が必要であり、ACSLのPF2-CAT3はこの基準で第一種型式認証を受けている。また、航空法上の飛行に関する許可が必要な人口集中地区は、1平方kmあたりおおむね4000人を超えることとなっており、この地区上空を飛行する機体には、危険軽減を行う場合でも2500時間の試験が求められる。さらに飛行する経路や想定飛行範囲、昼夜といった条件を踏まえて必要な飛行時間を計算することとなっており、条件が厳しくなればその分飛行時間も長くなる。日本のドローンメーカーの多くがスタートアップであり、機体の開発だけでもリソースが不足している事業者が多いのが現状だといえる。その中でさらにこうした飛行試験を実施するとなると、結果として開発と試験の期間が伸びることになる。
なお、最近ではこうした型式認証における飛行試験を外部から支援するサービスも登場している。型式認証の安全基準への適合性の証明といった証明活動のノウハウを持つ、航空機産業の事業者がドローンメーカーに向けて、試験の受託やコンサルティングを行うというものだ。2024年2月にはドローンの型式認証におけるコンサルティングを行っているAeroVXRとドローンオペレーションが認証試験受託サービスを開始している。
型式認証機体とはいえすべての特定飛行が許可・承認不要にはならない
また、型式認証機の普及では、機体の運用限界による用途の制限がネックとなると指摘する向きもある。もともと型式認証に限らず、ドローンはそれぞれメーカーが定める運用限界がある。最大離陸重量や運用限界高度をはじめさまざまな制限があり、それを超えた飛行についてはメーカー側として性能を保証しない。また、飛行の許可・承認においても「無人航空機の機能・性能に関する基準適合確認書」において、運用限界を示す必要がある。
ドローンのユーザーとしては、この運用限界が広く、大きい機体のほうが、使い勝手がいいといえる。しかしメーカーの立場に立つと、運用限界を広げるということは、それだけ試験の内容が増え、結果として型式認証にかかる時間が増えるばかりでなく、それがコストとして機体価格に影響することになる。そのため、機体メーカーは不必要に運用限界を広げないように、用途や飛行方法を限定する形で型式認証を申請することは自明だといえる。
例えば日本初の第二種型式認証取得機であるソニーのAirpeak S1は、対応する特定飛行が「人口集中地区(DID)上空」および「人または物件から30m未満」のみであり、定められたジンバルと対応カメラ、レンズのみが任意装備品として認められており、運用体制は第三者被害軽減機能として障害物ブレーキの使用を標準とすることとなっている。また、イームズロボティクスのE6150TCは、「目視外」「夜間(目視内に限る)」「人口集中地区(DID)上空」「人または物件から30m未満」の特定飛行に対応している。いずれも、こうした条件以外の飛行については型式認証機の扱いとはならないため、特定飛行であれば飛行の許可・承認が必要となる。なお、ドローンワークシステムのEGL49J-R1やセンチュリーのD-HOPEⅠ-J01については、型式認証取得時点で各メーカーから運用限界が示されていない。
ユーザーの立場では、型式認証機を使うメリットは技能証明を保有することと、定められた運航ルールを守ることで、一部の特定飛行では飛行の許可・承認が不要なカテゴリーⅡBの飛行という扱いになるが、あくまでもそれは型式認証機の運用限界の範囲内のことである。しかしその一方で、DJIの空撮向けコンシューマー機やエンタープライズ機のような汎用機の場合、ユーザーとしては当然さまざまな使い方を想定している。こうしたニーズを叶える形でメーカーが型式認証を得るということは、物理的にもコスト的にもかなりハードルが高く、カテゴリーⅡBによる飛行を望むユーザーのニーズに応えることは、現時点で事実上難しいとされる。今後、型式認証機の拡大はこうしたユーザーのニーズと、型式認証手続きの広義な意味でのコストの間で、どう折り合いを付けるかが課題だといえる。