――2023年10月、中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3基金事業)にも採択されていますが、今後の取り組み予定をお聞かせください。

曽谷氏:SBIRで開発する機体は2種類あります。1つは、最大離陸重量25kg以上、ペイロード約10kg以上のマルチコプターです。着陸方法と荷物の受け渡し方法によって、置き配か吊り下げ式かなどのカスタマイズが必要になると考えています。トラックとの組み合わせも有用でしょう。

 もう1つは、飛行距離50km以上の長距離飛行を可能にしたVTOL(垂直離着陸機)です。佐川急便から長距離飛行のニーズがあるのに加え、災害対応のことなども考えると、離島や孤立した地域に安全なところから往復できる機体は必要です。

 また、SBIRではもう少し人口密度の高いエリアを飛行できる機体の開発を目指します。マルチコプターとVTOLの両方とも、1キロメートル四方あたり1000~2000人の上空を飛行できる第一種型式認証の取得が目標です。

――長年のパートナーとして、佐川急便のニーズに応えることを重視されているのでしょうか?

曽谷氏:それだけではありません。SBIRは、行政ニーズに対応したドローンの開発をテーマにしています。行政といっても自治体、防衛省、国土交通省、経済産業省などと幅広く、事業者も物流だけではなく空輸、流通、医薬品卸などさまざまです。そのため、今まさにニーズのヒアリングを進めているところです。

 とはいえ、佐川急便をはじめ、物流事業者のニーズにも応えます。佐川急便の宅急便の荷物は99%が重量20kg以下なので、我々は20~30kgまでの荷物を個人宅まで届けるラストワンマイルを念頭に置き、安全性の高い機体を開発していく予定です。

 それに向けて、ハードウェアの信頼性を向上し、運用コストを大幅に削減してビジネス推進するためにも、ReAMoプロジェクトで当社が開発してきた1対多運航、NEDOで開発してきたAI自律飛行による安全性確保、遠隔監視などの機能もSBIRに盛り込む予定です。ただ、AI搭載の型式認証は現在のガイドラインに明記されていません。今後は機体単体ではなく、システム全体として考えていくことが重要になると考えています。

「チームジャパン」でドローン業界を盛り上げたい

――これからの機体開発について、昨今のトレンドや開発に対する想いを教えてください。

(出典:イームズロボティクス株式会社)

曽谷氏:ドローンの通信は、ご承知の通りWi-Fiよりモバイル回線ネットワーク(LTE)が優れています。ただ、LTEは山間部で途絶してしまうことがあります。最近はスマホと直接通信できる衛星通信が普及し始めていることを考えると、衛星通信が今後の本命だと思います。

 バッテリー性能については、日本製で考えるならば全固体電池が実用化される2030年代を待つ必要がありそうです。ちなみに中国製はすでにありますが、供給の安定性や品質の均一性が課題です。

 機体製品の差別化という面では、ドローンは自動車と比べて圧倒的に部品点数も少ないので、今後はハードウェアだけではなく、システムやソフトウェアが注視されていくと思います。

 また、「チームジャパン」で日本のドローン業界を盛り上げられたらいいなと思っています。「ドローンオープンプラットフォーム(DOP)」を立ち上げて、機体メーカー、センサーやバッテリーなどのパーツメーカー、部品メーカー、通信やアプリのサービサーなどと横の連携を図っています。

 例えばパラシュートの開発メーカーとは、通信プロトコルをMAVLinkで統一して開発しました。先ほどお話した型式認証機とセットで販売予定のソフトウェアも、DOPの枠組みで開発しました。製品名は「DOPSUITE(ドップスイート)」です。飛行記録など「どの型式認証機体でも共通して必須となる」機能については、業界横断でみんなが使えるようなものを作ったほうが効率的ではないかという考えです。

 これからは「仕様の共通化」が重要なテーマになると考えます。例えば部品にしても、大手の部品メーカーからすると今のドローンの台数は少なすぎます。仕様を統一できるところは統一して、ドローン業界全体で大口にて発注できるようになれば、日本に数多くある優秀な自動車部品メーカーも真剣に取り組んでくださるようになり、ひいては日本のドローン企業が世界に打って出る競争力も上がるのではないでしょうか。