ドローン関連企業の代表に最新の取り組みや業界に対する想い、経営の考え方などについてインタビューを行う当連載。第1弾は、ブルーイノベーションの代表取締役社長 熊田貴之氏に、2023年12月12日に東京証券取引所グロース市場へ上場した想いや苦労、今後の展望について伺った。

約10年も前から目指していた上場への想い

――2010年頃から上場をひとつの目標にしていたと聞きました。

ブルーイノベーション株式会社 代表取締役社長 熊田貴之氏。

熊田氏:2015年末に初めて投資家から資金調達を行いました。投資家のイグジットを意識し始めたのはその頃です。特に、日本で多いIPO(株式公開)は目標のひとつでした。

――何故、このタイミング(2023年12月)で上場したのでしょうか?

熊田氏:確かに、「もう少し時間をかけて黒字化させれば、株価が上がるのではないか?」という意見もありました。

 しかし、我々のようなドローンやロボットの活躍を下支えすることを役割とした会社が上場を果たすことで、「2022年12月のレベル4解禁によって、ドローン業界全体が社会実装に向けて加速している」と、産業界に示したいという想いが強かったのです。

 昨今、ロシアによるウクライナ侵攻でドローンに注目が集まっています。軍事の武器として認知される一方で、上場企業の成長によって「ドローンは産業界でも重要なツールだ」という認知度を、もっと向上していかなくてはいけないと考えています。

――上場をひとつの目標に、企業成長のために何を重要視してきたのでしょうか?

熊田氏:これまで、ルール作り、技術、人材育成、という「3点セット」を意識しながら、事業を推進してきました。法整備や技術革新は当然必要ですが、最終的にそれらを扱うのは人です。そのため、人材育成が追いつかなければ、市場もソリューションも立ち上がらないと考えます。なので、当社は国と対話し「ルール・規格づくり」や、企業とアライアンスを組んだ「技術開発」、さらには日本UAS産業振興協議会(JUIDA)とも密に連携し「人材育成」に取り組んできました。

――投資家とはどのような関係性を築いてきたのでしょうか?

熊田氏:一般的にドローン業界はIT業界に近いと思われることが多く見受けられます。しかし、ハードウェアも絡むため、PDCAサイクル(業務改善のサイクル)が想像以上に長いのです。さまざまな考えを持った投資家がいますが、業界の特性を理解している投資家と交流を深め、一緒に勉強していく関係を構築することが、初動段階では特に重要だと思います。私も監査法人や弁護士に紹介され、ベンチャーキャピタル等20社以上と面談して決めました。

 いま思えば、2015年の資金調達時から、リードインベスターが日本ベンチャーキャピタルであったことが幸いでした。総額5億円のファンドで、ラウンドごとに分配して出資してもらい、各ラウンドで明確なゴールに向かって成長できました。

 上場まで8年間待ってもらえたのは、しっかりと成長してきたからだと思いますが、業界の特性を踏まえ、互いに細部まで交渉して投資条件を決めていくことは、お互いにとって改めて重要なポイントだったと思います。

上場のカギとなる機関投資家との関係構築と理解を得る苦難

――上場の実現に向けて、機関投資家にはどのような説明をしてきたのでしょうか?

熊田氏:ロードショー(機関投資家に向けた会社説明会)では、約30社と面談してきましたが、「ドローンはまだPOC(実証実験が主の段階)ではないのか?」と、多くの投資家が指摘しました。それに加え、「社会実装の事例が少ない」との声も非常に多かったので、我々が実現してきた社会実装の事例や市場へのシェアについて強調して伝えました。

 具体的には、BEP(Blue Earth Platform)を軸としたアプリケーションソフトの売上が主な収益源になっており、約7割のリピート顧客によって収益が安定していることや、そのビジネスモデルについて詳しく説明しました。

――機関投資家とのやりとりで苦労したことや特に難しかったことはあるでしょうか?

熊田氏:未来ばかりを語っても実現性が問われます。だからといって足元の現実的な話ばかりだと大きなプランが打ち出せません。既存事業の着実な成長とともに、将来的な広がりも描くというストーリー性を持たせないと、なかなか信用してもらえないので、その伝え方や匙加減に配慮しました。

 また、BEPというプラットフォーム事業自体の説明が複雑であり、イメージし難いのです。プラットフォームは、ソリューションがあって初めて活きてきます。なので、そのソリューションが明確に立ち上がっていること、つまり社会実装が進んでいることを、しっかりと示さなければと考えました。

 例えば、ELIOS(屋内点検用ドローン)を使った屋内点検というソリューションを顧客のニーズに基づいて提供し、その販売を拡大してきました。我々はこのような社会実装のモデルケースを持っています。また、主に電力会社や石油化学プラントを顧客ターゲットとして、送電線点検や巡回点検などの点検ソリューションを開発し、提供しています。

 このように、足元では点検分野で安定収益を確保して成長曲線を描きつつ、物流分野をはじめとするネクストソリューションへと事業を拡大していく、というストーリーに妥当性を感じていただけるよう注力しました。

上場後に取り組むべきブルーイノベーションの役割

――上場発表の記者会見のなかで、直近では研究開発に注力するという話がありましたが、具体的な研究内容を教えてください。

熊田氏:記者会見では、BEPのマイルストーンを説明しましたが、そもそもBEPはドローンに限らず産業用ロボットなどの多種多様なデバイスを動かすためのプラットフォームです。アプリケーションを作っていくためのミドルウェアをイメージしてもらえば分かりやすいと思います。

 開発マイルストーンを簡単に説明すると、ドローンとネットワークが連結していない段階がステップ1。ドローンとBEPがつながってコネクテッド・ソリューションが成立する段階がステップ2。ドローンやロボットが複数台、複数機種、BEPと連結し、インテグレーテッド・ソリューションとなるのがステップ3。それらが自律的に動く段階がステップ4だと位置付けています。

 現段階はステップ1、ステップ2まで開発していますが、試験的にステップ3の取り組みも始めています。これはまだ非公開ですが、例えば空中ドローンと陸上の無人搬送車のPOCをトライアル導入として行っています。

 直近では、スマートシティの基盤となる都市OSとの連結を目指した研究開発に注力しており、ステップ3、ステップ4の取り組みを進める予定です。さらに長期的な目線で見た場合には、まだぼんやりイメージしているだけですが、水中、宇宙、仮想空間への広がりも意識しており、社内ではそういった未来に向けた話もしています。

――メーカーのBEPに対する印象はどうでしょうか?

熊田氏:実はハードウェアメーカーからの相談も多く寄せられています。具体的には、「エンドユーザーのニーズに合わせるならどのような仕様が適しているか?」といった相談で、当社に求められているのは、ハードウェアとエンドユーザーの「クッション役」になることだと考えています。

――ブルーイノベーションが利用者に最適なハードウェアを選び、システムとして統合する役割を担っているということでしょうか?

熊田氏:その通りです。まさにそこが我々のノウハウであり、強みだと考えています。顧客が本当に解決したい課題にフォーカスし、ソリューションを作り込むことが極めて重要であることは誰もが理解していると思いますが、それは決して簡単なことではなく、我々もたくさんの失敗を経て経験値を上げてきました。

 今後も、ニーズにマッチした良質なハードウェアを見つけ、BEPとの統合によってニーズにマッチしたソリューションをいかに開発し提供していくか、これを常に意識して研究開発を進めていきたいと考えています。

――各社のデバイスとのつなぎ役を担う一方で、ブルーイノベーションがハードウェアの開発を手がけることもあるのでしょうか?

熊田氏:それは現在考えていません。ただし、中長期的にはハードウェア関連のベンダーとの協業や、M&Aによる事業拡大などの可能性はあります。

人材確保と体制づくりに注力した熊田代表が描く将来展望

――記者会見のなかでは、人材確保も同時に進めると発表していましたが、現在どのような人材が必要なのでしょうか?

熊田氏:今後は顧客の課題を解決できる人材が重要だと考えます。まさに、「クッションになれる」ソリューション人材が必要になるため、採用活動を加速します。それに加え、ソフトウェアの開発を担う優秀なエンジニアも必要です。このような人材に活躍し続けてもらうことも、大事なポイントになるでしょう。

――そういった人材を集めた企業になるために工夫していることはあるでしょうか?

熊田氏:ドローン業界で活躍するためには、ハードウェアとソフトウェアをはじめ、センシング、システム、法律、業界知識など、幅広い知識を習得しなければなりません。さらには、課題解決に向けて顧客をリードしていく統率力も必要です。そのため、さまざまな専門領域を持つ人材をバランスよく採用しています。

 また、各人のスキルや経験値に依存するのではなく、チームとして臨める体制づくりを重視し、かなり時間をかけて工夫してきました。マインドやビジョンをしっかりと共有したうえで、人と人との信頼関係を築くことで、統制も取りやすくなると考えています。

――具体的にどのような取り組みをしているのでしょうか?

熊田氏:毎週の朝礼では、コロナ禍の期間も含めて約3年間、社員に向けて毎週10~15分の社長メッセージを配信してきました。経営層の考えを常に共有する仕組みを構築しました。

「フィードフォワード」も、毎週の朝礼で続けています。要は、「フィードバック」だと過去ばかり見てしまうので、未来を見て語ろうというものです。「あなたは未来をどう考えるか」というテーマで、毎週ペアをランダムで組み、自身の未来像をシェアし合っています。スタートアップって、未来を見ていくことがすごく大事だと思います。

 役員の朝会、部長の朝会では、「こういう課題がある。あなたはどう考えるか?」というテーマで、1日1つお題を出します。毎回1分、各自で考えてシェアした後に、会議を開始します。またメンバーにも、よく質問を投げかけるように心がけています。「何事にも疑問を持つ」「考え抜く筋力を鍛える」ことが大事なのです。

 というのも、上から言われただけで動いているとどこかで他人事になってしまいます。自分で考えて発言することで、脳内に臨場感が湧いてきたり、責任感も芽生えてきます。それから、こういった話し合いから閃きやアイデアにつながるケースも少なくありません。

――最後に、上場を機に改めて注力したいことを教えてください。

熊田氏:足元ではBEPを軸とした点検ソリューションで安定収益を確保して成長し続けられるように事業に集中したいと考えています。また、社会実装の事例をファーストペンギンとなって創出、発信していきます。これによって、産業界におけるドローンの有用性の認知拡大を図ります。そして、社会がパラダイムシフトするタイミングで、ドローン活用が爆発的に普及する時が来ると考えています。その大きな波に乗れるように資金確保や社内外でのチーム組成なども含めて、準備を整えておきたいですね。