住友林業子会社のインドネシア住友林業は、2024年8月17日、インドネシア環境林業省の環境破壊管理総局(PPKL)・泥炭マングローブ復興庁(BRGM)と事業協力協定(PKS)を締結した。インドネシア中央カリマンタン州メガライスプロジェクト跡地で先端技術を活用した新たな泥炭地管理技術の実証を開始する。
日本の環境省とインドネシアの環境林業省で締結した協力覚書(MoC)のもと、メガライスプロジェクト跡地のうち約1万haで荒廃した熱帯泥炭地の修復と管理の実証事業を2027年8月まで実施する。植林事業の検証も行い、経済と環境が両立した森林経営を目指す。なお同事業は、経済産業省グローバルサウス未来志向型共創等事業(大型実証ASEAN加盟国)で採択された取り組みとなる。
1996年にインドネシア政府が食糧問題に対応するため、中央カリマンタン州南部の100万haにおよぶ泥炭湿地林を水田に転換することを目的に始まったメガライスプロジェクトは失敗に終わり、その後の度重なる泥炭火災によって森林がごく一部を残して消失している。
同事業では、衛星・ドローン・AIを使って技術を実証し、持続可能な熱帯泥炭地管理モデルの構築を目標とする。新たなモデルを構築することで、国際的な熱帯泥炭地の課題解決やインドネシアの温室効果ガス削減目標(NDC)達成に寄与することを目指す。
事業概要
同事業では、熱帯泥炭地管理技術に衛星・ドローン・AIを活用した排出削減型の泥炭地管理手法を加えた新たな取り組みに対して技術と経済性を検証する。また、熱帯泥炭地管理によるCO2排出削減効果のインベントリ方法論構築(※1)と国際標準化を目指す。日本の環境省とインドネシアの環境林業省で締結した協力覚書(MoC)に「泥炭地の修復と管理」を協力分野の一つとして追加し、2国間で事業に取り組む。
※1 一国が1年間に排出・吸収する温室効果ガスの量を取りまとめたデータ。CO2、N2O、メタンなどの温室効果ガスの種類や活動によって排出、吸収する収支を示すデータ算出方法を構築する。
熱帯泥炭地は、枯死した植物が過湿(水分量の多い状態)の環境下で分解されずに有機物のかたまりとして堆積した土壌で、大量の水と炭素を含んでいる。その管理には地下水位の維持が重要で、不適切な土地管理や農業開発、プランテーションのために水が排水されると土壌が乾燥し、微生物による分解が進むほか、火災発生によって大量のCO2が大気中に放出される。一方、地下水位が高くなりすぎると樹木の生育を妨いでしまう。
住友林業グループの熱帯泥炭地管理の水路設計・管理はこれまで再現性の高くない技術であったが、衛星・ドローン・AIなどの最先端技術を活用することで属人的ではない持続可能な熱帯泥炭地管理につながる管理モデル構築を目指す。
事業性が認められた場合は管理規模の拡大を目指し、森林経営による収益に加えて熱帯泥炭地からの排出削減による炭素クレジットの方法論を構築し、クレジット事業を新たな収益源とすることも視野に入れる。また、泥炭地からの排出削減方法論構築は、日本・インドネシア間の二国間クレジット制度(JCM)の推進につながることから、両国のNDC達成に寄与することが期待される。将来的には、インドネシアだけではなくブラジルやコンゴ共和国など、ほかの熱帯泥炭地に展開することも検討する。